嵐の痕 2
その後、島津が室戸と動いて、黒幕を突き止めた。
「表に出えへんかった奴が、なんであの時声出したかなあ。それが命取りやったなあ・・・」
無線機の声で、近江の反逆が明らかになった。
「かなり焦ったんでしょう・・・うっかり声出すとは。志賀を通して指示したら済んだことを・・・」
近江が志賀に組長の座を進め、手伝う代わりに自分をナンバー2にしてくれと持ちかけたのが事の始まり・・・
実際動いたのは志賀。近江の指示に従って動かされ、最後は総ての罪を着せられて終わる運命だった。
「これも藤島の犠牲を払うて成した事や」
淀川組の客室で、一旦収拾をつけた室戸、島津、南原が茶を飲む・・・・
「藤島の兄さんは・・・まだ?」
南原も心配でたまらない
「ああ・・・死体が上がってないということは、死んだとも言い切れん・・・・が・・・」
島津はため息をつく
「組長・・・・大丈夫ですか?」
南原の言葉に島津は首をふる
「大丈夫やないよ・・・毎日土手通いや。」
「姐さんには?」
「胎教の事思うたらいわれへん・・・出産まで、実家にいてもらわなあかんかもな。今の若ぼんは、
姐さんのことも腹の子供のことも頭に無いし」
「岩崎は?」
「かなりキテる・・・あいつも、仕事はこなしてるけど・・・・わざと忙しいトコに自分を置いて、
何も考えへんようにしてるように見える」
伊吹のいない鬼頭・・・・
考えただけでも辛すぎる
「南原、鬼頭に戻れ・・・ここは何とかなる。」
室戸が口を開く
「それと・・・藤島はうちの私設部隊を駆使して探します。淀川のために、鬼頭さんに迷惑かけてすみませんでした」
田代は無罪放免・・・志賀と近江は・・・どう処分されるかは室戸に一任される。
「いっぺんに四天王が2人になってしもうたなあ・・・」
そういいつつ島津は立ち上がる
「私も・・・これで・・・」
南原も立ち上がる
「嬢さんに会うていかへんのか?」
「会えますから・・・いつでも」
島津と南原は去っていった。
室戸には、組長代理と言う任務が残されていた。
土手に残された血の跡・・・・・川まで一直線に続いている・・・・・・
(伊吹・・・・)
出血も半端ではない・・・・・・龍之介は川に沿って歩き出す
(追い詰められて川にはまるなんて・・・ギャグみたいな事するなよ)
あの日から一睡もしていない・・・・
日が経つごとに、伊吹の不在は現実味を帯びてくる
恐れていた・・・・・失う事を・・・・・
それが・・・・・・今、現実になる
(悪夢や・・・・・・)
絶望感が押し寄せる・・・・・・
泣き叫んだり気が狂ったり・・・・いっそ、そうなれたら幸せだろう
(何で・・・俺は今日も明日も、生きていかなあかんのやろう・・・・伊吹を失ったのに)
怒りが収まると脱力感しかなかった
あの時・・・伊吹を親父と一緒に送らなければ。俺が行っていれば・・・・・
後悔は後から後から湧いて来る・・・・・・
しかし、自分がその事に囚われると、岩崎も哲三も苦しむ。それを知っている。だから・・・
(平気な振りはしんどいぞ。誰か俺を殺してくれ・・・・)
懐からロザリオを取り出す・・・・・母の形見・・・・
(お袋・・・・伊吹を守ってくれ・・・・)
守りたいものを守れなかった非力な自分を責めつつ、龍之介はロザリオを握り締める・・・・・
終わりのない迷路が目の前に広がっていた・・・・
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