嵐の痕 1

 

「兄さん・・・それ、連れて行くんですか?」

河野は、後部座席に捕らえた狙撃手の一人をぶち込む岩崎を、振り返る。

岩崎のネクタイで腕を後ろ手に縛られていた・・・・

「連れて帰って尋問しろ。俺は、藤島の兄さん探すから。行け。先代の車 護衛しろ」

高坂が後部座席で、縛られた男を取り押さえて、車は走り出した・・・・・

前の車には安田の運転で哲三が乗っている。

 

伊吹の駆けた方に、岩崎は車を走らせる・・・・・

土手のとあるところで車を降り、彼は立ち止まる。

(何してるんや・・・・あいつら・・・・)

川面を見詰めている男2人・・・・・・

嫌な予感がする

「おい!あいつら捕まえて来い」

車の中にいる若い衆に命令して、捕らえさせ車に乗せる

「藤島の兄さんどこや?」

静かだが、威圧感のある声で岩崎は聞く

「・・・・」

絶体絶命のチンピラ2人・・・・

「まさか・・・川に落ちて行方不明とかいうなよ」

「そうです・・・」

「川下に行け」

岩崎は川下に向かって車を走らせた・・・・

 彼らを発見した位置から、かなり手前の川上の方の土手の芝生に血の跡が川まで一直線に続いていた事を思い出す。

「兄さん・・・被弾したな?」

「はい・・・」

「何処に当たった?」

「確か・・・肩に・・・・・」

(被弾して、バランス崩して転げ落ちた・・・・・その先が川・・・・)

岩崎は気が遠くなるのを、かろうじて持ちこたえた・・・・・

 

 

 

 「どういうことや!」

捕獲した狙撃手1人、淀川幹部に買収されて藤島伊吹生け捕り計画を実行したチンピラ2人が

龍之介の前に並べられた

「・・・志賀に買収されて、鬼頭の8代目暗殺にかり出された所属のないチンピラ2人です。

こっちは、淀川系の子組の、はしたの連中で、加勢を頼まれたらしいです」

岩崎が説明する

「俺を狙いに来た奴が、なんで伊吹を襲うんや!」

クールビューティーの仮面は剥がれ、怒りむき出しの龍之介に萎縮する鬼頭組員一同・・・・・

「先代がこられたのを知って、引き上げ命令が出たんらしいんですが、その後・・・別の声が

”藤島伊吹を生け捕りにしろ”と指令を下したらしいんです」

「別の声とは・・・志賀以外の人間ちゅうことか」

島津が口を開いた

「はい。」

「伊吹を生け捕りにして、どうする気や」

「若ぼん、そりゃあ・・・藤島を人質にして、若ぼんをおびき寄せるつもりやったんやろう・・・」

怒りが頂点に達した龍之介が、チンピラ2人を殴りつけた

「お前ら、伊吹にもしもの事があったら、コンクリート詰めにして大阪湾に沈めるぞ!」

「若ぼん・・・」

島津が龍之介の肩を抱いて龍之介の怒りを制する・・・・

「龍之介・・・部屋に来い」

ずっと黙っていた哲三が、自室に向かって歩き出し、島津は龍之介を抱えるように後に続く・・・・・・

 

 

 

「龍之介!すまん。ワシを殴るなり蹴るなりせい」

部屋に入るなり、土下座をする哲三に龍之介は戸惑う・・・・・

「親父・・・・」

「岩崎は責めるな。自分が標的なのを知った伊吹が、ワシから離れたのは当然の処置や・・・・

伊吹の不在に岩崎は、その場に責任持つ立場としてワシを守った・・・・

総て終えて、伊吹を探しに行ったのも間違うてへん。組のモンに落ち度はない。

いくら負傷者出しても、大将が死なんかったら勝ちや。戦はそういうモンや・・・・

逆に負傷者なしでも、大将捕られたら戦は負けや・・・」

「俺のせいか・・・・俺のせいで伊吹は襲われたんか・・・」

 「若ぼん・・・・組員の前で取り乱したらあかん。若ぼんは組長や。あのままやったら岩崎の事も殴っとったよ・・・・」

島津が龍之介の肩を抱きしめる

「こんな事考える奴は・・・藤島と若ぼんの関係知っとるなあ・・・少なくても、若ぼんが

藤島無しで生きて行かれへんと思うてる奴・・・・」

龍之介はため息とともに哲三の肩に手をかけた・・・・

「親父・・・すまんかった・・・頭あげろ・・・」

哲三はゆっくり起き上がった・・・・・

「志賀やないということか・・・」

混乱した頭で考える龍之介・・・・・

「志賀は単純な男や・・・・そこまで見通す目は持ってへん・・・・ワシは近江と違うかと・・」

深い洞察力もさることながら、島津は近江の伊吹を見る目が昔から気になっていた・・・・・

恋している・・・そんな目ではなく、物色するような目だった。

何度か言い寄っていたのも知っている。もちろん相手にされなかったが・・・・

そんな近江が、伊吹と龍之介の関係を見破ったとしても不思議ではない。

「近江が?」

怪訝そうな龍之介を見つめつつ、島津は言葉に詰まる・・・・・

今、こんな事を龍之介に言うと、近江を殴り殺しかねない

「近江は鋭いんや。そういうこと・・・・」

しどろもどろである・・・・・・・

「とにかく、室戸にあいつら引き渡して、声の主を突き止めさせたら黒幕は現れるかと・・・・」

「伊吹は・・・」

「今も・・・・若いモンが川の隅々さらってる・・・・見つけん事には・・・・」

ふー

龍之介はため息をつく・・・・・

「伊吹もヤキがまわったなあ・・・・・・」

「仕方ない・・・1対多勢の場合、盾になる壁がないと不利や。あと、細い路地とか・・・・

やのに、あそこはだだっ広い土手やった。被弾してバランス崩したら転げ落ちるわ・・・・地の利が悪かったんや」

哲三の言葉に肩を落としたまま、龍之介は部屋を出る。

「龍之介・・・・」

哲三の呼ぶ声に反応せず、龍之介は黙って出て行った

「ぼん・・・・一人にさせたれ・・・泣きたいんやろう・・・」

「ワシらの前では泣けんのか・・・」

「若ぼんは襲名してからはな・・・藤島の前でしか泣かんかった」

 

おぼろげに見えてきた闘争の終焉は、あまりに大きな犠牲を払った・・・・・・

 

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