闘争 5

 

 2日後・・・哲三は組員総出で、吉原組組長の入院している病院に向かった。

「伊吹、さすがやなあお前。よう龍之介を説得してくれたなあ・・・・」

車内で後部座席に座った哲三は、隣に座る組長側近に話しかける・・・・

「いえ・・・・」

「なんて言うて説得した?」

 (すみません・・・・抱っこにちゅーで手懐けました)

ポーカーフェイスで微笑む伊吹に、哲三は突っ込みにくさを感じて話題を変える。

「処で、お前が行く事もあいつ・・・よう許可したなあ」

「いくらなんでも、先代が組長の名代で行かはるのに、組長側近の私が抜けたらあかんでしょう・・・」

 

それも・・・説得が大変だった・・・

鬼頭には島津が臨時で来ている。そして出入りに慣れた者を何人か置いてきた・・・

 

 確かに伊吹も不安だった・・・

こういう事態に、龍之介と別行動する事は・・・

自分がそうなのに、龍之介の心中は いかほどであろうか・・・・そう思うといたたまれない。

 

病院に着くと、組員が車から降りる哲三を囲んだ・・・・・

「いつもの事やけど、心してかかれ。」

伊吹が岩崎にささやき、岩崎は頷く・・・・・・

やくざの集団丸出しで、鬼頭組一行は病室に進んだ

 

「哲三さん・・・」

病室に入ると、竹次郎は起き上がって新聞を読んでいた

「龍之介の名代で来た。」

「すまん・・・不覚をとったわ・・・」

「大丈夫ですか・・・」

姐、佳代子も心配そうに訊く・・・・・

「かなり・・・最悪の状態やなあ」

「わしは大事ないから、8代目の方・・・気ぃつけてな。聡子を未亡人にするなよ」

「ああ・・・」

笑っては見たが、哲三の心は重かった

 

「気をつけてくださいね・・・・」

 佳代子の声を後に、一行は病室を出る

「鬼頭に帰るまで気ぃ抜くな・・・・」

伊吹は気合を入れて歩き始める・・・・・

 

 

 

「出てきました・・・・が、鬼頭龍之介は見当たりません。ここに来てるのは、先代の鬼頭哲三です・・・」

病院の敷地を見渡せるビルの屋上で、ライフルを構えた男の脇で、もう一人の男が望遠鏡で様子を伺いながら

無線機で連絡を取っている・・・

「やはり警戒して先代が出てきたか」

無線機からは志賀の声がした・・・

「引き上げますか?」

「ああ・・・」

短く答えて無線機は一旦切れた・・・・・が・・・

「藤島は・・・そこにおるんか」

今度は別の声が聞こえてきた・・・・・

「お・・・おりますが・・・・・」

「藤島伊吹を捕まえろ。殺すな!生け捕りや!判ったな!」

有無を言わせぬ勢いに男は、はい・・・とだけ答えた・・・・

「おい・・・作戦変更や。藤島伊吹を生け捕りにしろと・・・・」

「?ナンなんですか・・・・」

ライフルの男もうろたえた・・・・・

彼らは鬼頭龍之介の暗殺のために雇われていたのだ・・・・が・・・

「言うとおりにせい・・・・うまくいけば淀川組の幹部に入れてもらえるんや。所属する組もないケチなチンピラから

淀川組幹部に出世できるんやぞ・・・・」

「でも・・・藤島の生け捕りなんて・・・・できるんか・・・」

「やるしかないやろ」

男は拳銃を取り出した

もう一人も、ライフルをすばやくしまうと拳銃に持ち直す・・・・

「2人では無理や・・・頭数、増やしたるから駐車場付近で待機せい」

無線機の声は最後の言葉とともに途切れた

2人は病院の駐車場に向かって走り出した・・・・・

 

 

駐車場に止めてある車の陰に身を潜めて2人は加勢を待つ・・・・

静かに・・・1人2人・・・と現れる潜む陰・・・・

 

鬼頭組一行がやってくる・・・・・

いきなりあちらこちらから狙撃が始まった

「兄さん!」

岩崎が応戦しつつ伊吹を見る・・・

「高坂!バリケード作るから先代を車でお送りしろ」

車の方にゆっくり全体が移動する・・・・・

(?)

岩崎はなんとなく狙撃が伊吹に集中している気がした

伊吹もなんとなく気付いたのか、移動しつつ応戦している・・・・

そして・・・・岩崎の傍に来た・・・・

「俺が狙われてるみたいや・・・・別れよう。岩崎は、先代を無事に鬼頭までお連れするように・・・」

「兄さん・・・1人で大丈夫ですか?」

「逃げ切るから・・・心配するな」

とたんに駆け出す伊吹・・・・・・

追う狙撃手たち・・・・・・

(手、足狙いのところ見ると生け捕りにする気やな・・・)

なるべく、人気の少ないところを目指して走り続ける・・・・・

裏通りの狭い路地を脳内で探す・・・・・・が病院を抜けたところは土手になっている・・・・・・

(俺を人質にして組長呼び出す気か・・・・)

近江・・・・・・

ーお前ら・・・タダの主従関係ちゃうやろ・・・・ー

ふと思い出す。龍之介と自分の仲を変に勘ぐっていた・・・・・・

 

(こんな事考えるんは・・・・あいつしか・・・・)

 

走りつつ1人2人としとめるが、頭数が多すぎて処理できない伊吹の足元を、銃弾がかすった

バランスが崩れて土手の傾斜を転げ落ちる伊吹・・・・・・

狙撃手たちもそれを追って駆け出す・・・・・

勢い余って土手脇の大きな川に転げ落ちる伊吹を見つつ、男は青ざめた

「ヤバい・・・」

激流の川下に沿って無我夢中で走り出す2人・・・・

加勢の狙撃手達は無線機からの命令で引き上げる・・・・・

 

 

昨日の大雨で水位は高く、さらに流れも早かった・・・・

「確か・・・さっき、肩に1発命中した」

伊吹がバランスを崩して倒れる瞬間、手ごたえがあった・・・・

「藤島殺したら・・・・最悪やで」

任務の失敗・・・だけではない。口封じに依頼人から命を狙われ・・・・鬼頭からも追われる。

「この流れじゃあ・・・とっくに下流に流されてる・・・・」

 2人は途方に暮れる・・・・・・・・

 

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