闘争 4

 

 室戸襲撃事件の後、桃香は姉と妹の所に非難させられた。

室戸の見舞いという口実で、南原と車で出た。

南原の車の前後には、室戸の私設部隊の車が警護にあたっている。

「圭吾・・・・」

桃香を姉の元に送るため、車を走らせつつ、南原は微笑んだ。

「心配ないですよ。室戸の兄さんは、影で動く為に偽装入院しただけで・・・」

「圭吾、うちは お前が心配なんや・・・」

これで敵は一掃できると思っていた・・・・が、思ったより複雑に絡んでいる・・・・

「でも、私といると桃香まで被害が及ぶんで・・・」

郊外の大道に入り、信号待ちで止まった時、車のタイヤが狙撃された・・・・・・

前後の車から、ボディーガードが南原の車を囲む

「圭吾・・・・」

「外に出たらダメです・・・・」

南原はそういいつつ、拳銃を取り出す。

(どこもかしこも敵だらけか・・・・)

無線機で連絡を取り合いながら、ボディーガードは慎重に、桃香と南原を後ろの車に移した・・・・

「追跡されてるのか?」

南原は運転手に訊く・・・

「そのようです。撒きますから・・・到着は遅れます」

代わりの車1台が合流して、前を警護する・・・

「室戸の兄さん・・・何モンや?軍隊持ちか?」

南原がつぶやくと、桃香は少し笑って答える

「室戸は・・・自衛隊上がりやから、軍隊持っとるよ・・・」

(そんな人を敵に回すて・・・どういう神経や・・・)

ため息の南原・・・・・・・・

 

 

その夕刻・・・・・

哲三は、伊吹と龍之介を呼んだ。宮沢はすでにその場にいた・・・・

「吉原組の組長が・・・・襲撃された」

「そっちに行きましたか・・・手当たり次第ですね。で・・・様態は?」

「それが、防弾着のお蔭で命に別状なし。今は精密検査のため入院中や」

伊吹は青ざめる・・・・・・

「見舞いに・・・・行くべきでしょうねえ・・・」

「わざと、おびき寄せる為に吉原狙うたんとちゃうか・・・そう思てるやろ?」

哲三の言葉に伊吹は頷く

「吉原が狙われたら、動かんわけには行きませんから・・・・うちは・・・」

鬼頭の子組である以上に姐の実家・・・・・吉原の組長は龍之介の義父である。

「ええ。ワシが行く」

哲三は皆を見渡して言う

「しかし・・・親父、今の組長は俺や。それに・・これは、俺をおびき出すために起こった事やろう?」

「そやから・・・お前が行ったら危ない」

「俺が行かんかったら、今度は どっかが狙われる。いや、吉原に俺が行くまで、

組長が襲撃され続けるかもしれん・・・・」

「それは、吉原の問題ですよ。防御しきれんかったら、つぶれるまで・・・それがやくざの世界・・・・」

伊吹は龍之介を止める

「あちらも・・・来るなと言うてる」

哲三も頷く・・・・・

「行かんかったら・・・聡子にまで害が及ぶんとちがうか?」

それは・・・・・

ないとはいえない。周りに害を及ぼしつつ、闘争は静かに進行している。

「そやから、自分を的にして敵を捕まえると?」

伊吹はあきれて訊き返す

今までのことでわかるように、捕まえて自白させたところで黒幕は現れない・・・

次から次に襲われる事は明白だ

「埒があかん・・・」

龍之介は耐えられない・・・・

かくれんぼで、何時見つかるか判らない恐怖に耐えかねて、自ら姿を現してしまう時のように、限界が来ていた。

 先が見えなかった・・・・・・

 

 

 

龍之介の意見は保留となり、一旦解散となる・・・・・

 

 

「組長・・・冷静な判断できてないでしょう・・・」

龍之介の書斎で、伊吹が問いただした・・・・

「冷静?冷血な・・の間違いとちゃうか?」

「組長が出向いたところで、何の解決にもなりませんし・・・」

「このまま・・・かくれんぼ続けるんか?」

答えはどう足掻いても出ない・・・今は・・・・・・・

伊吹は龍之介を抱きしめる・・・・・

「あちこちで襲撃事件がおきて・・・・龍さんはナーバスになってるんです」

「俺、慣れてないから・・・こういうの・・・・」

「いきなり慣れてるのは怖いでしょう・・・」

「誰も・・・・傷つけとうない・・・・もう誰も・・・」

龍之介は伊吹の背に腕をまわすと、強い力で引き寄せる・・・・

「初めて・・・・後悔した、鬼頭の家に生まれた事。お前も・・・親父に引き取られんかったら、

こんな事に巻き込まれんでよかったし・・・肩に傷負うことも無かったやろ・・・」

はははははは・・・・

伊吹は笑う

「私に選択肢なんてありませんよ。でも、先代に拾われんかったら、お稚児に売り飛ばされてたんですから・・・

鬼頭に来たのは、ラッキーでしたよ」

龍之介はふいに顔を上げる・・・・・

「お稚児?男でも・・・売り飛ばせるんか?」

「これでも15歳の頃は可愛かったから・・・」

はっー

龍之介は笑う・・・・

「それでも・・・先代が”お前をやくざにして俺の右腕にする”言うた時は、人生終わったと思いましたけど・・・

お稚児もやくざも悲惨ですやん・・・・でも、先代はええ人やったし・・・鬼頭組も居心地よかったし・・・」

何より・・・・・・

「親に捨てられた自分を抱きしめてくれる、小さな腕に出会えた。それだけで最高に幸せです」

(伊吹・・・・)

龍之介の瞳から涙が流れる・・・・・・

「覚えてますか・・・・あの時、龍さん・・・私のお母さんになると言わはったんですよ・・・」

 

 

ー伊吹・・・お家ないの?だから、ここで暮らすの?お母さんは?−

ーいません・・・・・ー

ーじゃあ、僕がお母さんになってあげるよ−

 

そういって、抱きしめられた小さな腕・・・

今は見違えるほど大きくなって、伊吹を抱いていた。

「結局・・・オカンになったんは、お前やったけどな・・・」

「でも、龍さんがいたから、ここまでこれました」

 今も昔も変わらない・・・・抱きしめてくれる腕がある・・・それだけで生きていける

「伊吹・・・すまん」

とめどなく涙は流れる・・・・・・

「なに謝ってるんですか」

(俺は、伊吹に甘えてばっかりやった。仕方ないとはいえ・・・合意の上とはいえ・・・お前を

情夫(いろ)と呼ばれる立場にした。更に・・・俺は結婚して、お前を一人ぼっちにした)

「すまん・・・・・」

伊吹は泣き続ける龍之介の顎を持ち上げて、そっとくちづける・・・

 

「龍さんは・・・・可愛いですね」

「鬼頭の組長にそんな事言うか・・・・」

涙は止まっていた・・・・・

「私は特別ですから」

静かに笑う伊吹が限りなく愛しかった・・・・・・・・・・・・・

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