闘争 3
淀川組長、淀川幸助による遺言のため、内輪の葬儀と、次期組長の任命と、後見人の襲名式が行われた。
この席で、血が流れるであろう事は皆が予想していた・・・・・・
総てが終わり、退室しかけた頃、事件は起こった。
襲撃されたのは・・・・後見人として臨時組長となった室戸。
室戸を庇って、銃弾を受けた志賀が左腕に銃弾を受けて倒れた。
そして、もう一度放たれた銃弾は室戸の心臓に当たった
「兄さん!」
どよめく場内で、室戸の個人部隊が難なく狙撃手を捕らえる。
狙撃は野外から・・・かなりの銃の使い手だったが、何処の組にも属さない者だった。
つまり、やくざではなく暗殺者。
南原からの報告を受けて、哲三は部屋に龍之介、伊吹、宮沢を呼ぶ。
「プロの暗殺者を雇ったらしい・・・・」
「節操の無い奴やなあ・・・堅気の次はプロですか?」
龍之介が眉をしかめる
「ターゲットは室戸、防弾着、着用の為に命に別状なし。負傷したのは志賀・・・・」
哲三は淡々と告げる
「で・・・・雇ったんが、田代・・・・と狙撃手は白状した」
「顔・・・確認しましたか・・・」
宮沢が慎重に訊いてくる
「田代を指してこいつがクライアントだと言うたらしい」
「おかしいですね・・・」
伊吹は顔を上げる
「何が?」
龍之介が聞き返す
「普通、プロは死んでもクライアントの秘密保持するでしょう?」
「それが、志賀が、かなり叩いたらしい。挙句に自白剤まで・・・」
哲三は顔をしかめて言う。
「腕がいい割には、あっさりしたプロですね。ますますおかしいです。自白剤は嘘でしょう。これはシナリオですよ」
宮沢も突っ込む
「?何が?」
龍之介は話の意味が飲み込めない・・・・・・
「組長、任侠界もスイパーの世界も同じです。仕事しくじったら死あるのみ。むざむざ捕まって、
自白さされて生き延びるのは反則ですよ・・・・」
「ふ〜ん・・」
伊吹の言葉に頷く龍之介・・・
「黒幕は・・・志賀。としたら・・・・おかしな茶番劇をしたもんですね・・・」
宮沢が腑に落ちないというように首をかしげる
「ああ・・・まる判りやがな・・・・」
哲三も顔をしかめる
「え?そしたら・・・・志賀が室戸を狙わせて、その罪を田代にかぶせて、自分は疑われんように室戸を庇って
撃たれたって事か?・・・・」
龍之介の言葉にうなづきつつ、伊吹は続ける
「これで田代は脱落。しかし、肝心の室戸の兄さん、仕留め損ねてるやないですか。
これに何の意味があるんですか・・・・!まさか志賀もハメられた・・・・?」
若頭とその側近が脱落すると・・・・得をするのは、その下の近江と稲垣。
「なんにしても、室戸も入院状態や。命は取り留めたが、なんせ歳やから・・・」
いよいよ南原が危ない・・・・・
室戸の留守に、南原を処理するつもりかも知れない
「田代は外界との交流を遮断されて、監禁状態や。総てが終わったら処分は決まるやろ・・・・」
「志賀は?」
龍之介が哲三を見詰める・・・・
「当分泳がせとくらしい・・・室戸の私設部隊が見張ってる。志賀がどう動くか・・・それが問題や」
「これでお前の仕事は終わった。消えろ」
淀川の地下室の独房で監禁中の狙撃手に志賀は小切手を渡す。
田代の名義になっていた・・・
「何で・・・心臓狙うた?防弾されてるのはわかってたやろう?普通、プロなら頭を狙うんとちゃうんか・・・」
イスカリオテと言うコードネームを持つ狙撃手は、小柄な体躯を志賀に摺り寄せてささやく・・・
「お前の部下に気を許すな」
「!どういう意味だ」
胸座を掴んで叫ぶ志賀を彼は嘲笑う
「俺をバラすと、お前の依頼内容は露見する仕掛けになっている・・・離せ」
その狡猾な顔つきに志賀は背筋が凍る
「俺は信念も忠誠も思想も持たない。だから、この業界で生き残っている・・・」
スイーパーの中でも、異端中の異端と呼ばれる禁忌の男・・・・・
「”裏切り者”の名を持つのが俺だ・・・」
そういい捨てて、彼は独房を出て 志賀が開けた隠し扉から出てゆく
真夜中・・・イスカリオテというコードネームを持つ男は、闇に消えた・・・・
イスカリオテ ーキリストを裏切り、銀30枚で売り渡した背信の男。イスカリオテのユダの名を持つ男
噂では金の為なら、クライアントさえ裏切ると言われている
そんなものに一瞬でも関わった事を後悔した・・・・
(裏切り者・・・・俺も・・・同類か・・・)
何故か・・・破滅に向かうイスカリオテの背中が、自分の未来を暗示しているようでもあった・・・・
不意に携帯のベルが鳴る
「イスカリオテは?」
電話の奥から聴こえる、聞きなれた声・・・・
「今逃がした。獄死して処理した事にするから、そのつもりで」
「判りました。次のステージに移動します。」
「イスカリオテが・・・・」
言いかけて言いよどんだ・・・・・
「彼が・・・何か・・・」
「いや、切るぞ」
(あんなにも冷静なあいつが恐ろしい・・・・)
志賀は青ざめる。裏切る・・・その行為を平然となすイスカリオテと同類の・・・あの男・・・・
(俺もいつか・・・・あいつに裏切られる・・・・)
底なし沼に足を取られた気がした・・・・・・
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