闘争 1 

 

次の日の午後、龍之介の書斎で龍之介と伊吹は、宮沢のくれたホワイトボードを前にお茶会をしていた。

「お前、宮沢と何時からこんなに仲ええんや・・」

(これ、仲ええちゅんですか・・・・)

「ちゅうか、宮沢・・・お前には完全 心開いとるやないか・・・・」

(これのどこがですか・・・・・)

言葉の出ない伊吹・・・・・

「俺にはこんなことせんやろ?あいつ。」

「そりゃあ・・・組長おちょくるような事はできませんから」

「つーか・・・他の誰にもこんな事せんぞ・・・」

(ああ・・・・そうか・・・)

そういわれればそうだ・・・・・

「気があるんとちゃうか」

「また、やきもちですか?兄さん妻子持ちですよ」

「俺も・・・嫁さんと、その腹に子供おるが・・・・」

・・・・・・

それが・・・・なにか・・・・・

「お前、組内の人気度高すぎる・・・」

 いらだっているのだ・・・・何時来るかもしれない嵐の予感に・・・・

伊吹はにっこり笑う

「すみません。気ぃつけます。」

と龍之介の額にくちづける

「おい!」

「ビタミン愛が不足すると怒りっぽくなりますから・・・補給しました」

「・・・・俺は・・・ビタミン愛はデコで摂取せんのやけど・・・」

そう来るか・・・・伊吹はあきれる・・・最近2人きりになると、やけに子供っぽい龍之介である。

表には出さないが、かなり神経をすり減らしている・・・・・

(でも・・・・発散するところがあるならよしとしよう・・・・)

「では・・・お口で・・」

宮沢に聞かれてるのかな・・・と不安になりつつも伊吹は龍之介にキスをする・・・・

その時・・・・伊吹の携帯のベルが鳴った・・・・

嫌な予感が2人の間に流れる・・・・・・・

「兄さん・・・」

南原の押し殺した声が聞こえた

「淀川の組長が・・・今朝・・・病院でなくなりました・・・・」

「心臓発作か・・・」

「いえ・・・看護婦の医療ミスです。薬の量間違えて注射したとか・・・・・・」

心臓疾患用の薬は量を間違えると危険らしいが・・・・何かおかしい・・・・

「その看護婦は?」

「責任感じて・・・病院の屋上で投身自殺しました・・・・」

(堅気を暗殺に巻き込んだか・・・・)

おそらくその看護婦は脅されたか買収されたか・・・・そして・・・・口封じに・・・・

「すみません・・・こっち取り込んでまして・・・連絡だけ・・・」

「南原・・・気ぃつけろ」

「兄さんも・・・」

電話は切れた・・・・・・・・・

 

「伊吹・・・・」

龍之介はすでに組長の顔に戻っている

「組長・・・始まってしまいました・・・最悪の事態です。堅気巻き込んで闘争の幕は上がりました」

「淀川組組長が・・・・・」

伊吹は頷く

「詳しい事は先代の部屋で・・・・」

伊吹は立ち上がって部屋を出る、龍之介もその後に続く・・・・・

 

過去に何度か闘争はあった・・・・・・

そのたびに龍之介は遠くに避難させられた・・・・・

 

(もう鬼頭はある程度安定して ある程度大きくなったから出入りはないと思っていた・・・・・

親組の闘争に巻き込まれるなど思っても見なかった・・・・・・・・・)

 

そういうものだ・・・・・やくざ界は・・・・・・

 

火の粉は何処からでも降ってくる・・・・・

今までが平穏すぎたのだ・・・・・

 

伊吹はそれを幾度もかい潜って来た・・・肩の傷がその証・・・・・・

 

龍之介は自分が どんなに弱く、ちっぽけか思い知らされた・・・・

すでに・・・心中は動揺して混乱している・・・・

 

「組長・・・」

伊吹が龍之介を振り返る

無表情な青ざめた顔がそこにあった。

「落ち着いてください」

優しく笑って龍之介の背に手をまわす

「ああ・・・」

「冷静な判断が出来ないと命取りです」

差し出された手を取ると、龍之介は歩き出した。

「先代も私もおりますから・・・・」

わざとのんきに言う伊吹は、抱えるように龍之介を哲三の部屋まで連れて行った・・・

 

部屋の前で宮沢と鉢合わせる・・・・・

「藤島・・・・」

「聞こえましたか・・・」

深刻な宮沢の顔がそこにあった・・・・・

「まあ・・・入れ・・・」

 

龍之介・・・伊吹・・・宮沢・・・3人そろっての登場に哲三も顔をしかめた・・・・・

「いよいよか・・・・」

「南原から報告を受けました、淀川組組長がなくなりました。看護婦の治療ミスらしいですが・・・・」

伊吹の言葉に哲三はため息をつく・・・・・

「暗殺が難しいから、看護婦買収したか・・・」

「その看護婦も・・・自殺したそうですが・・・」

「消されたんやろう・・・口封じに。堅気に手ぇだしよったな・・・・かなりヤバイなあ・・」

哲三も伊吹と同じ事を考えていた

すでに任侠界のタブーは犯された・・・・これからやってくるのは泥沼の争いだ・・・・・・

 

「敵さん・・・目的のためなら、堅気もやくざも関係無しに何人でも犠牲にするぞ・・・・振り払っても無尽蔵に来るぞ・・・」

 

龍之介は伊吹の手を握り締めた・・・・・・

 

「葬儀は・・・どうするつもりなんでしょう・・・」

宮沢が静かに言った

「淀川の子組が集まる・・・襲撃のええ機会やな・・・」

哲三はため息をつく

「まさか。こういう時に・・・内輪でするでしょう」

「次代組長の襲名式もせなあかんやろ・・・」

哲三の言葉に伊吹は顔を上げた・・・・・

「おそらく・・・遺言、残してある・・・」

南原に・・・・・・

「余計ダメでしよう・・・葬儀の場でバラされますよ!南原」

伊吹は叫ぶ・・・・

「看護婦を使うやつらです・・・・葬儀で読経する坊さんも信用できません・・・」

「嬢さんと2人一緒に・・・なんて事もありえる・・・」

宮沢が口を開く

「それとも・・・・しばらく隠すか・・・」

「無理でしょう・・・医療ミスで看護婦の投身自殺・・・今頃マスコミが病院に押しかけてますよ・・・それを抑えるだけの力が淀川にありますか?」

伊吹がため息まじりに言う

「抑えても・・・もれる。いや、もらす奴を抱えてるやろ・・・淀川組は・・・」

龍之介の言葉に皆頷く・・・・内部紛争とはこういうものなのだ・・・・・・

「一旦・・・このことはここだけの話に。南原が組長でなく、先代でなく、私に知らせたと言う事は、正式な報告と違って今のうちに策を練れと言う事と違いますか?淀川がどう出るかはこの先、見てみな分からんと言う事でしょう・・・」

哲三は頷く・・・

「このことは他言無用や。そして・・・淀川の出方を見る。」

「明日のニュースにでるかな・・・」

「今晩のニュースかも・・・」

龍之介と伊吹の会話に宮沢は眉間に皺を寄せる

「医療ミスに自殺に・・・・隠せんほど事を荒立ててくれましたねえ・・・敵さん・・・」

「全国レベルで知れ渡るぞ・・・・」

はあ〜〜〜〜

ため息の伊吹と宮沢・・・・

「でも・・・病院爆破されるよりは、被害少ないし・・・・」

 

 龍之介のその言葉に反応するものは1人もいなかった・・・・・・・

 

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