内部闘争 4

 

 2月の初め。

哲三は組員を大広間に集めた。

「淀川のことがあるから、龍之介は外出を控えろ。吉原にも当分は出入りするな。」

ここ数週間、哲三は宮沢を連れて外出し、鬼頭を留守にする事が多かったが、何か掴んだらしい・・・

岩崎は表情をこわばらせた。

「お前ら・・・組長の外出の時は総出や。当然の事やけど、ハジキは常時携帯のこと」

哲三の隣の龍之介も、伊吹も深刻になっている。

「兄さん・・・おはじき・・・携帯してはりました?」

高坂が小声で安田に訊く

「常識やろ・・・・お前、持ってへんのか?」

「外出の時は持ってますけど・・・組ん中は・・・重たいし」

「アホか!ドスとハジキはやくざの三種の神器やろ!」

「・・・・三種て・・・2つしかないですやん・・・」

あきれた岩崎が2人を小突く

「漫才するな!幹部は皆、ハジキは常時携帯してる。お前も携帯せい!」

「藤島の兄さんもですか???」

「兄さん、組内でも上着脱がはらへんやろ?」

「暑いときでも脱がはらへんですねえ・・・」

「あの下・・・左脇にガンホルダーが装着されてる。」

岩崎の言葉に高坂は驚く

「はな・・・今も?」

「携帯してはるやろうなあ・・・」

「かっちょええ〜〜」

人事のような高坂を再び小突く岩崎

「銃弾も持ち歩けよ・・・弾無かったらハジキは金槌にしかならんぞ」

 

「岩崎、しかし・・・よっぽっどやな・・・」

黙って聞いていた河野がぼそりと言った

「ああ・・・今回は淀川も、うちもヤバイかもな」

「そうなんですか!!!」

2人の間に割り込んでくる高坂・・・・

「親組こけたら皆こけた・・・いうてなあ・・・」

安田もため息をつく。

 

 

 

昨夜、哲三に龍之介と伊吹は呼び出された

「まさかの吸収合併防止の為に龍之介、お前も狙われてる。」

珍しく哲三の隣に宮沢がいた。

「最近、組にいてはらへんと思ったら・・・探ってはったんですか?」

伊吹の言葉に哲三は頷く

「宮沢連れて、淀川をうろうろしたら大体の事はつかめる」

「南原は・・・」

伊吹の言葉に頷きつつ、哲三は続ける

「あいつは、組長になる気はないと言い張ったが、淀川さんは婿養子を望んでる・・・・第一標的、間違いないな」

「黒幕は四天王の中におる・・・まあ・・・室戸の兄さんもそこまでは気付いてはる。ただ・・・4人のうち誰か・・・

尻尾掴まん事には断裁も出来ん・・・・そういうことや」

宮沢が補足した。

「気ぃつけろ。しばらくは外泊禁止する」

当然のことに頷く龍之介。

「聡子も避難させた。とにかく、自分の身守れよ」

襲名してまもなく湧き上がった騒動に、哲三は同情を禁じえない・・・・・

「すまんな」

最後にこぼしたその一言が龍之介の心を痛めた

 

 

 

「組長、一旦・・・必然的な外出はありますか?」

全体集合の後、伊吹は龍之介の書斎でスケジュール帳を取り出す

「ほとんどキャンセルされた・・・何処の組も とばっちりは、食いとうないわなあ・・・」

「そしたら、鬼頭でおとなしゅうしてたらええと・・・・」

「まさか、ここに爆弾仕掛けたりせんやろなあ」

龍之介の奇抜な発想に伊吹はあきれる・・・・・

「たぶん、宮沢の兄さんいてはるから・・・爆弾は見つけられるかと」

ふうん・・・・・

龍之介はうなる

「そういう意味では、宮沢は物凄い秘密兵器やなあ・・・親父はええもんみつけたなあ・・・」

「まあ・・・もし鬼頭に危険分子がおっても、すぐ見つかりますね・・・」

「裏ボスやな・・・あいつ・・・」

宮沢が裏切ったら一巻の終わりだろうが。彼は哲三に忠誠を誓っているので、それは無いだろう・・・・

「組長・・・その言葉・・・聴こえてるかも・・・・」

散々聞かれてきた伊吹は懲りている

思いついたように、龍之介は伊吹のスケジュール帳に書き込む

ー無言でいちゃついたらバレへんかな?−

「そんな器用な事、出来ますか・・・・」

ー何事も訓練や・・・外泊禁止になったし・・・−

「筆談する気ですか?」

小声でささやく伊吹・・・・

ーいや・・・かえって愛に言葉は必要ないかもなあ・・・・−

大笑いの伊吹・・・

「というか・・・この手帳、見つかるとまずいでしょう!」

といいつつ、そのページを破り捨てる伊吹・・・・

「判った。ホワイトボード持ってこよう・・・」

「もうええですよ・・・・」

「BGMにロック・・・とか・・・」

伊吹には、龍之介があえて意識をずらしているように思えた・・・・

そうしなければ神経が磨り減ってやっていけない・・・・・・

 

(しゃあないなあ・・・)

苦笑の伊吹・・・・

「うるさいお口は塞いでしまいますよ・・・」

微笑むと、伊吹は龍之介の顎を持ち上げてくちづける

 

「過去に、こんな事は何回もあったこと・・・心配せんでええです。」

「そんな事言うて・・・・また怪我でもしたら承知せんぞ。」

はははは・・・

笑う伊吹・・・・

「もし怪我したら・・・舐めて治してください」

(笑い事か・・・・・)

あきれる龍之介・・・・・

「お前がもし・・・し・・・」

再び龍之介の唇は伊吹によって塞がれた・・・・

 

龍之介は瞳を閉じる・・・・・・

禁じられた言葉は胸の奥に閉じ込めた・・・・・・・

 不安の種とともに・・・・・・

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