淀川組の日々 5

 

夜中の2時に桃香はふと目覚めた。

いつものように、パジャマの上にカーディガンを羽織り、ドアに向かって歩き出す・・・・

その足音に南原は飛び起きる

外からの侵入者ではない事を確認して、手にしたドスを一旦下げる彼の眼に、

ついたての脇から現れる桃香の姿が、スタンドの明かりにおぼろげに見えた・・・・・

「圭吾・・・・」

別の緊張感が南原を襲った・・・・

ドスの鞘を抜き刃を自分に向ける

「近づいたら死にますよ・・・」

「はあ????」

素っ頓狂な桃香の言葉に、南原の緊張がとける・・・・

「あほか!!!お前なんか襲わんわい!!!」

眼が点になる南原・・・・・・

「手洗いに立っただけや。まったく・・・男の癖に小心者!お前は武家の娘か!」

勇ましく部屋を出てゆく桃香は、しかし閉じたドアの向こうで胸に手をあてて、ため息をつく

(心臓飛び出るかと思うた・・・しかし、圭吾のオオボケのお蔭で切り抜けたわ)

強がりつつ、も内心ビクビクの桃香・・・

後に、このエピソードは宮沢の爆笑のネタになる事は、南原も桃香もまだ知らない・・・・・

 

 

明け方のびっくり事件のお蔭で、寝不足な桃香と南原。その様子が更に組の者の誤解を呼んだ・・・・・

「南原・・・・同居初日から飛ばしすぎや。2人だけで住んでるんと違うんやし・・・ほどほどにせいよ」

志賀が小声でささやく・・・・

(ナンですか?それ・・・)

無実の罪を着せられた南原・・・が、否定も出来ないまま苦笑する・・・

皮肉な事に、これで南原&桃香の恋人宣言は実証された。

組中がこの事実を信じ込んだ・・・・・

 

心中で怒り爆発寸前な桃香の横で、室戸はほくそえんでいた・・・・・

 

(とにかく、淀川の組長さえ回復すれば・・・・・・)

今、この場を切り抜けることだけに没頭する南原は、ここで自分の人生が決まってしまっている事に

気付かないでいた・・・・・・

 

 

 

一方・・・・・・・

南原の留守を守る岩崎は、年末の忙しい中、忙殺されていた・・・・

「兄さん・これ、何時終わるんですか・・・・」

横で高坂が悲鳴をあげている。

「藤島の兄さんは組長について外回りしてはるから、俺らでやるしかないんや・・・・」

安田もため息交じりで、若いもんに仕事を振り分けていた

「南原の兄さん、お歳暮の贈りは済ませて行ってくれたから助かるわ」

河野は決算済みの書類の山をファイリングする

「兄さん・・・・はよう帰って来てくれへんかなあ」

岩崎はため息混じりにつぶやく

「行ったきりかもよ・・・」

河野は最悪の事態を想像する・・・・・・

「どうする・・・・兄さん、淀川の組長になったら・・・・」

 

一同沈黙・・・・・・・・

 

南原にとっては”おめでとう”な事なのだが・・・・・・

岩崎にとっては・・・・・・・・・

 

伊吹と同じくらい南原の事も皆、アテにしていた

頼りきっていた・・・・・・・・・

 

「兄さん・・・・帰ってきてください・・・・・」

切実な岩崎の願い・・・・・・・

 

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