淀川組の日々 3

 

南原の恋人宣言の噂は、一夜にして鬼頭まで流れてきた。

「兄さん!南原の兄さんの噂、ホンマですか?」

高坂が岩崎に聞いてくる・・・・

「まさか・・・噂やろ」

と笑っては見たが、心穏やかではない岩崎・・・・

「淀川の婿養子に南原の兄さんが入らはったら・・兄さんは淀川組の組長。一気にウチの組長、

追い越しますやんか・・・・」

物凄い下克上を脳裏に描いては焦る高坂

「あほな・・・・」

言っては見たが・・・・引きつる岩崎・・・・・・

 

 

「伊吹・・・・どう思う?」

今年最後の、伊吹宅での定期秘密会議・・・・龍之介は、ダイニングでのお茶会の席で、例の噂を持ち出す。

「あそこの四天王を納得させる為の口実・・・・とちゃいますか」

「南原より微妙に年上やからなあ、あいつら。それに・・・志賀はやっかいな奴やし」

組長になって1年も経たないうちに、すでに親組、子組の内容を把握している龍之介に驚く伊吹。

「習得早いですね・・・・組関係の・・・」

思えば、龍之介は度胸がなかっただけで、もともと頭脳明晰でバカ力だったのだ。

度胸がある程度ついた今、ある意味、怖いものなしだ。

「虫除けにもなりますからねえ・・・ああ見えて南原も睨みきかせますから」

「南原を独り敵陣に送り込んで、よかったんかなあ・・・」

南原の心配をする龍之介がおかしくて伊吹は笑う

「何がおかしい?」

「私が南原庇うと、龍さん怒るくせに、自分は心配してはるんですか・・・」

あきれて伊吹を睨みつける龍之介・・・・・

「それとこれとは別や・・・」

「組長の顔してはりますねえ」

「あたりまえや!」

照れてそっぽを向く龍之介・・・・・

「もし、そのまま南原が淀川の婿に納まったら・・・・どうします?」

「願ったり叶ったりや。あいつやったら淀川の組長やれるやろ?」

「でも・・・・・」

”兄さん”だった伊吹が”藤島”になり、龍之介の上司になる・・・・

想像すると何故かおかしい

「お前の弟分はたいした奴や。どっちにしろ、この任務は遂行するやろう」

「信頼してくださって、ありがたいことです」

「にしても、正月の間しばらく外泊無理やなあ」

「当たり前です。組長は組離れたらあきませんよ・・・」

今年は、襲名後初めての正月で、更に姐の懐妊という祝い事もあり訪問客は多いと思われる。

「淀川の組長の見舞いも行きましょう」

「そうやな。あと、なんとなくうちの組員も南原の事で内心穏やかやないみたいやから・・・何とか言うてやれ」

特に・・・・高坂が・・・・・・

「はい・・・」

返事をした後、伊吹は笑う・・・・・・

「今回は正真正銘の幹部会議ですねえ」

うん・・・・頷きつつ龍之介は眉間に皺を寄せる・・・・

「しかし、ここでこういう話はおもろないぞ。こんな話は鬼頭でも出来るやろ?」

確かに・・・・・・・

最近の龍之介は、ここでも組長の顔が抜けないでいる

それだけ張り詰めているのだ・・・・・・

「そうですね。くつろぎに来はったんやから、まったりしますか・・・」

組を背負った者の緊張を解くのは容易ではないだろう・・・・・

笑いつつ、伊吹は紅茶のカップをしまい、龍之介を抱きかかえる

「・・・・・おい・・・」

鬼頭の8代目をお姫様抱っこするのは、世界中で藤島伊吹だけだろう

「似合わん事するな!」

「昔は抱っこ〜とか言うてはったのに・・・」

あの頃はまだ少年で似合っていた・・・・が・・・今は・・・

「辞めろ・・・ぎっくり腰やるぞ・・・」

「そうですね、さっさとベッドに落としましょうか・・・」

と寝室に向かう伊吹・・・・・・

抱えられてジタバタする龍之介は、だんだん”ぼん”の顔になって行く・・・・

過酷な戦場に送り込んだのは自分・・・・・

伊吹は龍之介に負い目を感じつつも、龍之介の中に、そこで生き残ろうとする強い力を感じる。

「似合うとか似合わんとかは、関係ないんですよ・・・私には、龍さんは何時までも”可愛い”ぼん”なんですよ」

”ぼん”扱いしなければ”ぼん”になれなくなった龍之介は、しかし・・・”ぼん”に照れを感じる・・・・

(俺は、この男に守られ育てられてきた・・・そして・・・)

龍之介はそっと目を閉じる・・・・今も守られている・・・・

ここでは甘えて構わないと・・・・

ベッドに着地した龍之介は伊吹を見上げる・・・・・

 氷ついた心が解けてゆくようだった

「甘える事も・・・・最近忘れてしもうたんですか・・・」

龍之介の前にかがんで彼の髪を書き上げる伊吹

「もう・・・昔の俺と違う・・・」

「違いませんよ。龍さんは。中身はやはり、度胸の無い甘えたや。無理して強うならんでええです。」

「お前は・・・ずっと俺を抱えて生きて行く気か?」

伊吹は微笑む・・・・

「私は・・・抱えるモンなしでは生きて行けません」

「貧乏性やなあ・・・」

「龍さんの中でしか、自分の価値を見出せないんです・・・」

ふっー

あきれたように龍之介は笑う・・・・

「そうか、そしたら・・・・お前のために甘えるとしょうかなあ・・・・」

「何ぼでもどうぞ」

 

別々の個体である事すら、わずらわしかった・・・伊吹を内包できたらどれだけ幸せだろうか・・・・

父も妻も・・・そして、子供もその胎に宿っているにも関わらず、龍之介は その何者を捨てても伊吹を欲した

その事に罪悪感を感じるほどあからさまに・・・・・

しかし・・・・

伊吹は・・・彼に自分以外の総てを捨てろとは言わない・・・・・

それが伊吹の愛であり、優しさなのだ。

 

 

「俺には・・・・おまえしかおらん・・・」

伊吹の背に腕をまわして、つぶやく愛の言葉・・・・・

何も待たない、天涯孤独な伊吹が唯一手にした宝

その宝の唯一になる事が出来た事だけで、世界を手に入れたような自信と喜びに満たされる・・・・・

 

 

「そうですねえ・・・・龍さんは私のモノです。絶対離しません」

それが・・・・生涯で唯一の彼の我侭だった・・・・

 

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