男前な彼女 2 

 

相変わらず忙しいある日。

鬼頭組に和服の美人がやって来た。

「組長にお取次ぎを・・・・」

髪を結い上げて、濃い桃色の振袖の美少女は 高坂を見上げてにっこり笑った。

「はい・・・こちらです・・・」

頬を赤らめつつ、高坂は客室に彼女を通した後、哲三と龍之介に知らせに行き、茶の支度を始める。

(誰やろ?あの美人。どっかで見た気が・・・)

茶と茶菓子を持って、客室に入ると哲三と龍之介、伊吹がならんで座っており、美少女は彼らに向かい合って座っていた。

「お茶です・・・」

とりあえず茶を出して退席する高坂・・・・・・

 

 

「こりゃあ〜嬢さん、ようお越しくださいましたな・・・」

哲三は笑って言う

「父の名代で参りました。お見舞いの返しです。お納めください」

「淀川さん・・・お加減はいかがですか」

伊吹も微笑んでそう言う・・・

「おかげさまで・・・一命はとりとめましたが。まだ退院できません・・・」

「お困りのことがありましたら、遠慮なく言うてください。若いもんなら、なんぼでも貸しますから」

龍之介は、この17歳の娘が気丈に組を切り盛りしているのが痛々しくて仕方が無い。

「ありがとうございます・・・側近も若頭も組長の留守をよう守ってくれてますから・・・」

淀川組の次女、桃香・・・・3姉妹の中で一番男勝りな性格で”男なら襲名させるのに・・・”

と父の幸助はいつも嘆いていた・・・・・・

長女 梅乃は大和撫子型のおとなしい性格で、末の桜子は明るく可愛いタイプと聞いている・・・

最近は、心臓発作で倒れた組長の幸助の後継者問題で淀川組は大荒れだった。

梅乃に婿養子を取らせればいいのだが、彼女はとある大きな料亭の板長と恋仲らしい・・・

やくざと結婚する気は無い。

桃香は高校生・・・桜子は中学生・・・・・

それでも組長の座を狙う組員は、梅乃にアプローチしてくる・・・

既成事実を作って無理やり結婚しようとした者もおり、桃香にこてんぱんにやられて組を追放になった・・・・

「梅乃さんは・・・身を隠しておいでと聞きましたが・・・」

伊吹は3姉妹がとても心配だった・・・・

「桜子も避難させました・・・・」

「では、嬢さんがお独りで組を・・・・」

龍之介は驚いて聞く。17で・・・・・

(俺はその頃はまだ組とは無関係で伊吹に甘えていた・・・・・)

更に桃香が不憫になる・・・・・

「うちはええんです。間違えて女に生まれてきた男女ですから・・・これぐらい何でも・・・」

さわやかに笑うが、しかし、心中はどれほど心細いかわからない

「ボディガード・・・貸しましょうか?」

龍之介の言葉に、不意に顔を上げる桃香

それは南原を意味していた・・・・・・

「こんな忙しい時に、人手をお借りしては・・・・」

「確かに、うちの若頭は優秀やから、おらへんと困りますけど。淀川さんは親組や・・・そちらに火ぃついたら

こっちにも火の粉が飛んできます。鬼頭を守る為にも、南原送った方がええかと思いまして・・・」

頬を赤らめて、うつむく桃香の姿には、いつもの男勝りの影はなく、恋する乙女のように可憐だった・・・・

「でも・・・・圭吾・・・いえ・・・南原さんはなんて言わはるか・・・・うちになんか来るの嫌がらはるかも・・・」

「嫌がるはず無いでしょう。こんな可愛い嬢さんが困ってるの、見過ごせる男とちゃいます。私の弟分はそんな

薄情モンと違いますから」

伊吹も笑顔で勧める

「2,3日中に送りますから・・・」

龍之介の言葉に桃香は頭を下げる・・・・・

「お・・お願いします・・・」

 

「じゃあ・・・そういうことで・・・」

一同は立ち上がって部屋を出る・・・・・

「嬢さん・・・南原の顔、見ていかはったら?」

伊吹が小声で、桃香に話しかける

「え・・・あのお・・」

「事務所におりますから・・・行きましょう」

先に歩き出す伊吹の後をついて行く桃香・・・・・・

 

「南原・・・お客さんや」

事務所のドアを開けると伊吹はそう告げて桃香を促して事務所に入れる・・・

「誰?・・・!!!嬢さんですか?今日はどうしました?着物着て・・・化粧して・・・」

コンピュータの前から立ち上がり、桃香の前に歩み寄る南原・・・・・

「おかしいか?・・・七五三みたいやろ?」

「いいえ。今日は女に見えますよ・・・すみません、組のほう大変なことになってるのも知らんと・・・」

「ええよ・・・うちのことやし・・・」

いつもと違う、しおらしさに南原は不安になる・・・・

「なんで嬢さんは、しょうも無い時には付きまとって、大事な時には何にも言わんと、独りで抱え込まはるんですか?」

「圭吾に迷惑かけたない。うちら・・そんな仲ちゃうし・・・」

強引で、無神経に見える彼女は実は、肝心な時には誰にもSOSを出せない弱虫の寂しがりだった事に気付く。

「うちの事・・・好きやないんやろ?」

俯いたままの桃香の頭に手を置き、南原は彼女の目線の位置にあわせてかがむ・・・・

「妹みたいに思うてます・・・こんなに元気ない嬢さん見たら、心配でたまりませんわ」

ぽろぽろ・・・・・・・・

桃香の瞳から涙が溢れる

ずっと耐えていた涙がこらえきれずあふれ出した・・・・・

「この子は心配ないて・・・ずっと言われてきた。誰かに心配してもろたんは初めてや」

南原は彼女を抱きしめる・・・・

「誰が心配ないて言うんですか!チンピラに喧嘩売るような危なっかしい小娘の事・・・」

姉を支え、妹を守り・・・独りで、弱音も吐けずに頑張ってきた桃香の緊張の糸が切れた・・・・・

受け止めてくれる人を見つけたのだ・・・・・・・

  

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