男前な彼女 1

 

 いつもの、鬼のように忙しい年末がやって来た。

安田と岩崎に年賀状は任せ、南原はお歳暮の支度に忙しい。

「しかし、今時便利やなあ〜インターネット買いして贈れるからなあ」

事務所のパソコンの前でつぶやく南原。

「やくざも、コンピューター必須ですねえ」

高坂は隣で覗き込む・・・・

「喧嘩してるだけがやくさと違うぞ。お前も習えよ、事務処理とか。今のトコ藤島の兄さんが専属でしてるけど」

「藤島の兄さん、習わはったんですか?」

「高校時代、市の教育センターか何処かで。なんせ、金かけんと習得しはった。聞いた話やけどな。」

はあ・・・・・・

高坂は頷く・・・・・・

「器用そうですね・・・藤島の兄さん。」

「ああ、ホンマに何でもしはるなあ。他所の組からも、ー鬼頭の7代目はええ人材拾うたー 

言うてうらやましがられてるわ・・・」

特に、へタレな天然少年を立派に鬼頭の8代目に育て上げた功績は高い評価を受けている。

「弱点なんて無いでしょう。藤島の兄さんには。」

お歳暮リストをチェックしつつ、高坂は言う

「あほか!何を見てきたんや!大きな弱みあるやろ?兄さんには。」

ああ・・・・・

「組長・・・」

南原は頷く。

「組長の事となると、平常心やないで。まあ、それは組長も同じ事やけど」

(怖いです・・・・それ・・・)

言葉もなく怯える高坂・・・

「昔・・・組長の大学時代、組長に言い寄ってきた先輩がおってなあ。そいつが、組長に襲いかかったところを

兄さんが踏み込んで、血判書まで書かせたとかいう話が組の中では伝説になってる・・・」

え〜〜〜

怯える高坂・・・・

「そいつ、堅気で未成年やから、それですんだんや。極道界でそれしたら指ツメやぞ・・・」

青ざめる高坂・・・・・・

「同様に、兄さんにちょっかい出す奴はおらんと思うけど・・・怪我させても大事になるぞ。組長は黙ってないからな」

言いつつ南原は辛い思いをしていた・・・・

伊吹に怪我させた事も、ちょっかい出した事もある南原の自虐的な発言だった。

(殺されんかったんが奇跡かも・・・・)

言うに言えない心の痛みを抱えつつ、南原はため息とともに作業の手を止める。

「休憩しましょうか・・・」

高坂はコーヒーを入れるために出て行く・・・・・

ふう〜

(嫁でも貰おうかなあ・・・)

島津がしきりに世話したがっている・・・・

何処かの組長の一人娘の婿養子のクチがあるとかないとか

(でも、そうなると、そこの組を継ぐことになるし・・・鬼頭を出ることになるなあ)

「兄さん。コーヒー入りました」

トレイにコーヒーカップとチーズケーキがのっていた・・・・

「ケーキは、外回りから帰ってきた藤島の兄さんの差し入れです」

とテーブルに置くと、高坂は椅子に座る

おそらく鬼頭の組員全員に買ってきただろう・・・・

しかし自分だけにくれたものでなくても、伊吹のそういう心づくしにほろっとして、さっきの嫁を貰う考えも

何処かにすっ飛んでしまう・・・・・・

「兄さん・・・藤島の兄さん、カッコええから思いを寄せる奴の1人や2人はおるでしょうねえ・・・」

どきっー

南原のフォークを持つ手が止まる

「・・・さぁな・・・アニキ分として信頼を寄せてる奴は多いやろ」

「惚れたら大事ですねえ・・・組長、黙ってませんね・・・」

(そら・・・・黙ってないなあ・・・・)

苦笑する南原・・・・・・

「お前も兄さんの追っかけして、変に誤解されんように気ぃつけや」

はあ・・・・・

うなづく高坂・・・・

「一時はショック受けたけど、やはり藤島の兄さんはカッコええし・・・追っかけはやめられません。」

(おいおい・・・・・・・)

「最近・・・アレ、かっこええですね。組長の煙草に藤島の兄さんがライターで火つけはるの・・・」

はしゃぐ高坂とは逆に胸が痛む南原・・・・・・

「刑事ドラマか・・・洋画かなんかのマフィアみたいで〜」

(所詮、俺は後から来たモンや。あの2人の絆の深さには立ち打ちできん・・・)

「見合いでもするかなあ」

最初の思考に戻る・・・・・・

「兄さん、彼女おったんと違うんですか?」

「おらへん」

「そしたら・・・あの子は・・・援助交際ですか・・・」

(誰の事や・・・・)

「ほら・・・シャーギーカットのセーラー服の・・・・」

ああ・・・・・

今年の初め頃、町でOLに絡むチンピラを相手に、派手に喧嘩していた女子高生を助けた事があった。

淀川桃香・・・・華奢な体躯に似合わぬ腕力で、アクションスター並みの攻撃をする高2の美少女。

訊けば鬼頭の親組である淀川組の次女だった。

淀川梅乃、桃香 桜子・・・・ 有名な淀川美人3姉妹のひとりだった。

とにかく、それから南原は事あるごとに桃香に付きまとわれていた・・・・・

「アレは淀川組の嬢さんや。ヘンな事言うと怒られるぞ」

「親組の?あんな可愛い子がやくざの娘ですか・・・」

「顔は可愛いけど、性格は男や。チンピラに喧嘩売るような娘や」

はあ・・・・

高坂は頷く・・・・・・・

「でも、あの子、兄さんに惚れてるみたいやし。あの子と・・どうです?」

「俺はロリコンと違うぞ」

何処かで聞いた・・・・その台詞・・・・・・・・・

しかし、親組の関係から、むげに断る事も出来ず、護衛と言う名目のデートもどきをさせられていた。

「ぴちぴちで、美人で、そんな子に好かれてうらやましいなあ・・・」

「いくら美人でも・・・ −おい、圭吾!いくぞー そんなんや・・・女とは思えんわ。」

 

 

忘れていた桃香のことを思い出し、南原は最近 彼女が顔を見せていないことに気付く・・・

(余計な事思い出したなあ・・・)

 チーズケーキをほおばる高坂の横で南原はため息をつく・・・・・・ 

 

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