永遠の一瞬 3

 

龍之介が眠りから覚めると静かに微笑む伊吹の顔があった。

「ずっと・・・起きてたんか?」

「眠るのはもったいないですから。眠る龍さんを腕に抱いてる時ほど至福の時はありませんねえ」

ふぅ・・・・・

ため息の龍之介・・・・

「俺は、一体化してる時が至福やけど」

え!?

言葉を失う伊吹・・・・・・・

「なんや、その沈黙は?」

睨みつけるように伊吹を見上げる龍之介・・・・・

「心が繋がっていれば、建前はそうや。でも、それだけでは足らん。なんでかなあ・・」

「そやから、こういう関係を選んだんでしょう?悪い事ではないと思いますけど・・・」

淡々としている伊吹に眉をひそめる・・・・・

(人事みたいに言うなあ)

「さっきの沈黙はなんや?」

「露骨な表現に慣れてないもんで」

龍之介は岩崎たちが言っていた言葉を思い出す。

 

ー兄さんは下ネタ通じん人やー

ー女みたいに潔癖症や・・・・−

 

「知れば知るほど、色気のない男やなあ・・・」

(オカンやし)

ははははは・・・・

大笑いする伊吹・・・龍之介の頭を乗せた伊吹の腕も震えている。

「すいません。努力します」

「努力するな!ヘンなフェロモン撒き散らしたら、南原以外にもひっかかる奴が出てくる!」

笑い死にしそうな伊吹・・・・・・

「笑いすぎや・・・」

もう一度大きな目に睨みをきかせる龍之介・・・・・

「龍さんはいいですね。色気があって・・・・」

「おちょくるな!」

「いえ・・・マジで」

(嘘付け〜)

眉間に皺が寄る龍之介・・・・・・

「ガキ扱いするくせに・・・・」

「照れ隠しでしてるんです」

いつも不安だった・・・・

伊吹にとって自分は何なのか?

「伊吹はいつも包容力があって優しいから、俺は子供とか弟みたいなもので・・・そういう対象になれんと思ってた」

「だから焦ってたんですか? ”ちゅーして〜”攻撃はかなり強烈でしたけど・・・」

いつも不安だった18才の龍之介

「あの頃、とって食ってしまいたい衝動と闘ってた私の葛藤なんか、龍さん知らんでしょう?」

 (嘘付け・・・・・)

「信じてませんね・・・・」

龍之介の考えはお見通しな伊吹・・・・

「据え膳食わんかったやんか。あの時・・・」

(根に持ってる)

少しショックを受けつつ、かろうじて立ち直る・・・・

「今の龍さんならまだしも、未成年で華奢な龍さんじゃあ・・・良心とがめますよ。心身ともに傷付けたくない

泣かせたくないという、私の想いも知らずに、よくも翻弄してくれましたね」

伊吹の泣き言に形勢逆転。困り果てる龍之介・・・・・

「・・・・そういうもんか?」

「2人暮らし始める時、”龍さん手篭めにするくらいなら舌噛んで死ぬ”くらいの覚悟で、大阪から来たんですよ。

わかってます?」

(・・・・・・・・・・・・・)

言葉をなくす龍之介。

「時代劇の女じゃあるまいし・・・それに逆やろ?それ。」

 

 

お互いにバカと言う事だけが判明した。

「さぁ・・・メシ食おうか」

起き上がる2人・・・・・

「もう昼ですねえ」

 

「よう寝たわ〜」

伸びをしつつ、ダイニングに向かう

「熱・・・下がったみたいですね」

「何で判る?」

「判りますよ。オカンですから」

一日だけ大学時代に戻った気分がした。

 

 

(もうあの頃は遠い昔になった・・・・)

「龍さん?」

ダイニングのテーブルに着く龍之介をレンジの前に立つ伊吹が振返る・・・・

「ああ・・・」

「何考えてます?」

「昔の事。想い出にすがるなんてガラとちゃうけど・・・でも・・生きる糧になってるのは事実やな」

「そうやって、一瞬を永遠に変えながら生きていくんですね」

 

それでも・・・・

 

龍之介は思う・・・・・

 

 

今が一番大事だと・・・・・・・

 

 

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