永遠の一瞬    2

 

朝、まだ眠っている龍之介の額に手を当てた伊吹は、急いで引き出しから体温計を取り出し、龍之介の脇に挟む・・・・

かすかに発熱していた・・・・・

昔から彼はこういうことには敏感で、龍之介の体不調は誰よりも先に気付くのだ・・・・・

「・・・ん?体温計?」

目覚めた龍之介が脇にはさまれた体温計に気付く

「熱ありますよ・・・・大丈夫ですか?」

「ああ、なんか・・・クラクラするけど・・・大した事無い」

(大したことあります・・・・)

ため息の伊吹・・・・・

元来、丈夫な龍之介は、とことん無理して倒れるまで突っ走るところがあった。

「やはり、昨日疲れてはるみたいやったから・・・・過労ですよ。おとなしゅう寝ないから熱出るんですよ」

はっー

あきれて笑う龍之介・・・・

「そしたらお前・・共同責任や・・・・」

(もう・・・・・)

しょげ返る伊吹・・・・・

「なんとでも言うてください・・・・・先代に電話してきます。」

部屋を出る伊吹・・・・龍之介は体温計を取り出して見る。

「9度か・・・・」

 

 

哲三の携帯に電話をかける

「先代・・・・藤島です・・・」

「伊吹、どないした?」

「組長が過労で熱出さはって・・・今日は、こちらで休んでもらおうと思うんですが・・・」

「ああ、あいつ最近オーバーワークやったからなあ・・・ちょうどええわ。聡子もおらんから

お前、看病してくれ。組はワシがみるから・・・隠居する為に襲名させたんとちゃうからな。

まだまだワシは現役やぞ」

「すみません。私がついてて・・・・」

「いや、お前んとこやさかい、あいつは安心して熱出したんとちゃうか? まったりさせたれ。

これは親父としての頼みや」

「はい」

哲三は安心して電話を切る。

 

 

伊吹が水差しを持って、寝室に行くと龍之介は起き上がっていた。

「今日は休暇とりましたから休んでてください」

「組は?」

「先代がおられますから大丈夫です。」

「どうって事無いけどな・・・これくらい」

伊吹は業を煮やして龍之介をベッドに押し倒す。

「休んでてください!」

 「じゃあ・・・腕枕・・・」

(また!)

威嚇する伊吹・・・・

「正真正銘の腕枕やて・・・一眠りするから添い寝してくれ・・・」

「食事は?」

「一眠りしたら食べる」

「あ・・・氷枕いります?」

取りに行こうとする伊吹を引き止める龍之介・・・

「腕枕があるのに氷枕はいらん」

「そうですか・・・・・」

諦めたように横たわり左腕を差し出す伊吹・・・・・

そっとその腕に頭を乗せて、龍之介は顔を上げる。

「そう言えば・・・なんで、いつも左腕なんや?」

「利き腕はどんな時でも、あけとくのが鉄則ですよ」

あ〜あ〜

ため息の龍之介・・・・

「極道染み込んどるなあ・・・・」        

「龍さんも染み込ませてくださいよ・・・・」

やれやれ・・・・・・

ため息とともに龍之介は瞳を閉じる・・・・・

(頭がぼーっとしてきた・・・・やはり熱あるなあ・・・)

「少し休めば熱は下がりますよ・・・・」

龍之介の髪をなで上げながら伊吹は微笑む。

「一日儲けたなあ・・・ずっと伊吹と2人きりなんて・・・」

「熱出しても、そんな言葉が出ますか?」

「ああ。時々熱出すかなあ・・・」

小学生の頃・・・・熱出して一日中、伊吹が看病してくれた時の事を思い出す・・・・・

学校を休み一日中一緒にいれることが嬉しかった。

しかし・・・・・

熱は次の日には下がっていた・・・・・

ひと時の幸せ・・・・長くは続かない・・・・・・

 

それでも、その時の想いを胸にしまってはおける・・・・・それだけが永遠に残る・・・・・

「藤島伊吹を一日中独り占めなんて、滅多にない幸運やからなあ」

「はい。お付き合いします。」

優しい微笑が龍之介の心を満たす・・・・・

(眠るのはもったいないなあ・・・・)

そう思いつつ龍之介は朦朧と眠りに落ちていった・・・・・ 

 

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