永遠の一瞬 1

 

 月2度の組長と側近の定期会議・・・・・・・

聡子が吉原に帰ってからは、会議の日は夕食も伊吹宅ですませていた。

 

 

「マメですねえ。吉原にも定期訪問して、ここは月2回。」

「これがバランス取れた状態や・・・」

頷く龍之介を笑顔で見つめる伊吹・・・・

「でも、すみません。今日に限って、メニューは肉じゃがでした・・・」

「肉じゃがの何処が悪い?」

洗い物中の伊吹に、食器を持ってゆく龍之介・・・・

龍之介が8代目を継いでからは、伊吹は食器洗いは絶対させないので、運ぶだけの龍之介。

「豪華メニューでおもてなししたいという願望があるんです」

ふっー

龍之介は笑う

「愛人宅では家庭料理と決まってるんと違うんか・・・・それに俺は美味いもん食うためにここに来てる訳と違うし・・・」

「でも、美味いもんもあったらええでしょう?」

「食いもんに執着せえへんし・・・」

物にも食べ物にも執着しない龍之介・・・・再びダイニングの椅子に腰掛ける

「俺が執着するのは藤島伊吹ただひとり・・・」

昔から少しも変わらない想い・・・・

いつでも龍之介と伊吹はお互いしか見ていなかった・・・

ふーっ・・・・・

伊吹はため息をつく

「あまりにもひっつきすぎて・・・離れられなくなりましたねえ・・・」

「離さんから覚悟しろ」

「それでも、ずっと ひっついていられないでしょう?」

「それが問題やな・・・」

真剣に悩んでいる龍之介を伊吹は浴室に追い立てる。

「風呂どうぞ・・・・」

バスタオルとパジャマを渡されて、浴室に消える龍之介の姿に伊吹はふと不安を覚える。

無理しているように見えるのだ・・・・

8代目を22歳と言う若さで継ぎ、23歳で父親。泣き言一つ言わず、今まで組長業をこなしてきた・・・・・

更に、妻と情夫(いろ)の板ばさみ・・・・・・

哲三もその事は案じていた・・・・

だから、伊吹のところに通うのも黙認どころか、推進しているようなものだった。

(龍さんはここでしかくつろげない・・・・)

充電しなければやっていけない。

健気に耐える龍之介が不憫だった・・・・・

しかし、伊吹は自分自身がかな〜り過酷なサバイバルな人生を歩んできた事には気づいていない。

そんな彼を支えたのは龍之介であったのだが・・・・・・

 

 

 

 

「やはり、俺に腕枕してくれるのはお前しかおらんなあ・・・」

寝室で相変わらずの腕枕に伊吹は微笑む。

「鬼頭の8代目にそんな大それた事する奴は他にいませんよ」

 (大それた奴なんか?お前は?)

ふと伊吹を見上げる龍之介・・・・・

「・・・・しんどいでしょう?」

「ああ・・・」

「弱音吐いてええですよ」

頷きつつ、龍之介は瞳を閉じる

「ここに来て、お前の顔見たら、そんなん忘れてしまう」

「男はしんどいでしょう?」

ふふふ・・・・・

頷きつつ笑う龍之介・・・・

「女は楽かなあ・・・・とか思ってたけど、女も大変そうやなあ。つわりに、出産に・・・」

「産んだあとは育児ですからねえ・・・」

しみじみと言う伊吹の言葉に、ため息をつく龍之介・・・・・

「所帯じみた話すると萎えるぞ・・・・」

ははははは・・・・

大笑いの伊吹・・・・・・・

「そしたら、このままおとなしゅう寝ましょうか・・・・」

「おい!」

こういう言葉のやり取りの一つ一つ総てが充電の一環だった。

笑いつつ龍之介は伊吹の胸に顔を埋める。

(愛している・・・・愛している・・・・)

呪文のように心で唱える・・・・・・・

19歳のあの時から欠かさず、伊吹に向かって送り続けた愛の呪文

永遠を願う龍之介の想い・・・・・・一瞬を永遠に変える魔法の言葉・・・・・

 

だんだん涙に変わり・・・・伊吹のパジャマを濡らし始める・・・・・・・

 

「泣ける場所があるのは・・・幸せやなあ・・・・」

闇に消える龍之介のつぶやき・・・・・・・

「受け止めてくれる人がいることは、幸せ通り越して奇跡やけど・・・・」

「それが 私やという事が一番幸せですけど」

龍之介の一番近くにいること・・・それが伊吹の一番の願い・・・・・

そっと・・・・・

伊吹は龍之介の額にくちづけた。

昔・・・・子供の頃、泣いている龍之介にいつも、そうしていたように・・・・・・・・・

  

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