最愛の人 4            

 

いつも通りの日々が続く中、高坂はだんだんオカンの伊吹に慣れてきていた。

そして、徐々にクールと幼さの二面性を持った、龍之介の意外な内面にも魅力を感じ始めていた・・・・

ここの組員の、龍之介と伊吹を見守る、その感覚も判ってきた。

 

「兄さん、やはり私、ここに来てよかったですわ」

夕食の膳で南原にそう言う高坂。

「そうか」

「何か・・・最近やっと、鬼頭の一員になりかけてきたなあ・・・思います」

イメージの崩壊から立ち直ったらしい高坂に、南原は笑いかける。

「あ、組長お見かけしませんが・・・どちらに?」

夕食の席に龍之介の姿が無かった。

「今日は組長の誕生日やから・・・・・」

「で・・・」

「藤島の兄さんとこに行かはった」

「組でお誕生会はしないんですか?」

「極道にお誕生会はないやろ〜」

苦笑する南原・・・・・・

「そうなんですか」

「子供の頃から、組長の誕生日は兄さんが祝ってはった。今は 組も安定してきたけど、

昔は出入りやのなんやかんやでいつも、先代も俺らも組長の誕生日に出払ってた・・・

そやから、誕生日を2人で祝うのは、組長と兄さんの恒例行事や」

 

 へえ〜〜〜高坂は頷く・・

 

 

「誕生日に、すき焼きですか・・・・」

ダイニングのテーブルに鍋を置いて、向かい合う伊吹と龍之介。

「2人で鍋囲んで夕食。夫婦水入らずでええやろ・・・・・」

誕生日らしくないメニューのリクエストに毎年こたえている伊吹。今更驚く事でもないが・・・・

「夫婦・・・ですか・・・」

「今日は合体記念日でもあるし〜」

「!変な名前付けんといてください!」

「あれから4年たったんか・・・・俺ら、3年目の危機も倦怠期もないなあ〜」

永久に来ないと思われる・・・・・・

「それどころか・・・龍さん、ますます甘えたで困ってます」

「放置されて、自棄酒飲んでたのは誰やったかなあ〜甘えてもらわんと寂しいくせに・・・」

「・・・・・・」

言葉をなくす伊吹・・・・

依存しているのは自分の方だという自覚はある・・・・

 

「姐さんから手作りケーキです。」

預かってきたケーキの箱を指さす伊吹

「で、ほんまに私からのプレゼント、無しでええんですか?」

いつも、龍之介はプレゼントはいらないと言い続けてきた。

「その代わり、朝まで付き合え。愛情がプレゼントやな」

「欲の無い人ですねえ・・・」

龍之介は、物質欲は昔から皆無だった。

「いや・・・むしろ欲の塊。物に興味が無いだけや。お前のことは丸ごと全部もらう」

プレゼントは藤島伊吹。19の誕生日からそうだった・・・・

「お前に関しては貪欲やから」

鍋を突付きつつ、にっこり笑う龍之介。

「そう言って貰えるうちが華ですねえ・・・情夫(いろ)冥利につきますわ。」

微笑みつつ、肉を鍋に追加する伊吹

「年くって、爺ぃになっても離さんから覚悟せい」

はははははは・・・・・

涙を流して大笑いの伊吹を、横目で見つつ白滝をすする龍之介・・・・

 

「何処にも行くなよ」

急に真面目な顔でつぶやく龍之介に、伊吹の顔からも笑いが消える。

「私に行くところなんか、ありません」

「お前さえ傍にいてくれたら、何もいらん。」

伊吹がいなければ・・・・・

龍之介は総てを失う・・・・

(あと、どれくらい龍さんの傍にいられるのか・・・・)

伊吹はふと思う

一般人よりはるかに危険の多い立場にいて、もしものことを思うと、龍之介の心配も頷ける・・・・

「龍さん、何があっても、乗り越えてください。一時、私が傍におらん時があったとしても、

再会を信じて気をしっかり持ってください。たとえ死んでも来世で待ってますから・・・」

いつか来るだろう別れの時・・・その時のためにも、誠心誠意、悔いの無い時を過ごしたい

「俺らは他のモンに遠慮してる暇なんかないなあ・・・」

聡子に遠慮して限界が来た先日さえ、愚かな事に思える

「はっきり言って・・・寝る時間も惜しいくらいや」

「だから・・・徹夜なんですか・・・」

「ああ」

ふっー

「龍さんは可愛いですね」

「俺にそう言えるんは、お前だけやな・・・」

「永遠に龍さんは私の可愛い”ぼん”です。誰にも渡せませんね」

「渡すなよ。誰にも」

 龍之介を残しては死んでも死にきれない。伊吹はそう思う

龍之介を案じてではなくて、自らが彼の傍を離れられないから・・・・・

100年経っても、1000年経っても、傍にいたいその人の瞳を見つめる。

少しも変わらない少年の瞳は、伊吹の前でだけ、姿を現す。

 

後片付けをして、ケーキをテーブルに置く。

「姐さんの心づくしですから、いただきましょう」

と紅茶を入れる伊吹

「一応ロウソクも立てるか・・・」

 「そうですね・・・」

火をつけて吹き消す・・・・

「お前の誕生日には何欲しい?」

10月生まれの龍之介、11月生まれの伊吹・・・・

いつも龍之介の誕生日に、伊吹の誕生日の話題が出てくる・・・

「そうですねえ、越冬グッズは南原がくれるし・・・・」

(おいおい・・・・)

少しやきもちな龍之介

「別にええです・・・」

「なに〜ぃ!!!ええことない!!南原よりもも〜っとええもんやるぞ!」

(何・・・競ってんですか・・・・)

あきれる伊吹・・・・・

「龍さんより欲しいモンは無いですし・・・つーか、龍さんさえいれば何もいりませんし」

「それでも・・・・よし!スーツ新調したる。待ってろ・・・・」

(ええと言うてるのに・・・・)

苦笑しつつ、ため息の伊吹・・・・

「龍さんの時、何も無しで、私のとき貰ろてたらあかんでしょ・・・・」

「ええ!気にするな。」

(気にしますよ・・・・・・)

「そしたら、私も朝まで付き合うつーことでプレゼントにかえましょう」

「それは基本や。」

(基本ですか・・・・・・)

「結婚記念日でもあるし・・・・・・・・」

「ほな・・・紫の薔薇でも下さい」

真面目な伊吹の顔を見つめつつ、龍之介はつぶやく。

「むっちゃ似合わんで・・・・」

「失礼な」

ため息とともに龍之介は、煙草を取り出して吸い始める・・・・

 

「花は・・・すぐ枯れるから嫌いや・・・」

伏目がちな瞳に憂いが満ちる・・・・・

「!ライター下さい」

「お前煙草吸わんやろ・・・」

「火ぃつけてあげますから」

ふふふ・・・

笑いつつ龍之介は、上着のポケットに手を入れる

「今すぐやる・・・それくらい・・・」

と伊吹にライターを投げ上げる・・・・それを受け取り握り締める伊吹・・・・

「嬉しいか?」

「はい」

龍之介の物を持っている というだけで、とても安心する伊吹・・・・・・

「もっと早う貰うべきでした」

こんな素朴な幸せを、一瞬一秒も逃したくなかった・・・・・・

いつか終わる時間ならなおさら・・・・・・・・

 

 

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