最愛の人 3

 

 昼過ぎに、聡子に呼び出されて近くのカフェに行く伊吹。

鬼頭を別々に出て落ち合う事になっていた・・・・・

 

「伊吹さん・・・」

先に来ていた聡子がテーブルから手を上げて呼ぶ。

「ケーキセットオーダーしときました」

「姐さん・・・・」

思いつめたように席に着く

「昨日はありがとう。お蔭で龍之介さん元に戻りました・・・」

微笑む聡子に後ろめたさを感じつつ、伊吹は苦笑する

「私こそ、すみませんでした。」

「差し出がましい事しましたねえ」

「いいえ・・」

伊吹がどうにもできない事を聡子が成し遂げた・・・・・聡子はやはり出来た姐だと思う。

「あのう・・・遠慮せんといてください。遠慮されたら私が苦しいから・・・」

「すみません」

「3ヶ月、龍之介さんを独り占めできたんやから充分です。」

「いえ・・・跡継ぎの問題があるので・・・・」

「早めに産みます。」

といった後、聡子は ふふふ・・・・と笑う

「と言うてもこれだけはねえ・・・」

 

オーダーがきてしばし沈黙が流れる・・・・・・

 

「でも、定期的に龍之介さんと、伊吹さん宅で会議してください。組長と側近の秘密会議・・・」

「はい」

問題は龍之介のおかしな、やせ我慢である・・・・

紅茶を飲む聡子の左手には、ダイヤの婚約指輪が光る。

ー地味な結婚指輪よりダイヤの婚約指輪がいいわ− という口実で、聡子は結婚指輪をしていない。

 一方・・・伊吹の左手には龍之介とペアのリングが光る・・・・

聡子の結婚指輪は、龍之介と伊吹のリングと同じものをあつらえ、式にはそれが使われたが、

その後、彼女は婚約指輪をはめている・・・・・・

 龍之介が、伊吹とのペアリングをはめ続ける事が出来る口実を作ったのだ・・・・

 

「姐さん・・・いろいろ・・・すみません」

伊吹は心が痛む・・・・・

「龍之介さんの幸せの為ですから・・・伊吹さんも罪悪感、感じなくていいんですよ」

聡子は明るい

「なんとなく、伊吹さんが、龍之介さんをどれだけ大事にしてこられたかわかってきたんです。

龍之介さんの中に伊吹さんを時々見るから」

「すみません・・・・」

顔が上げられなくなる伊吹・・・・・

「私、龍之介さんの中に見える伊吹さんも大好きなんですよ・・・」

強い決意の中の、強い微笑みに伊吹は圧倒される。

もし自分が聡子の立場だったなら・・・と思うと・・・

「とにかく、昨日で自粛路程は解禁と言う事で」

きっと聡子は自分よりつらいだろう・・・・そう伊吹は思う・・・・・

 

 

「何話してたんや?」

帰るなり、組長の書斎に呼ばれて尋問を受ける伊吹。

「別に・・・」

「言えんことか・・・」

「いえ・・・組長と側近の定期秘密会議を持つように、とのことです」

ああ・・・・・

龍之介はため息をつく・・・・・

「すまなんだ。俺のせいか」

「自分で調節して、口実作って、コントロールしてください。」

 「新米組長はそれが難しいんや・・・」

「自分の事でしょう!」

しっかりしてきた外見から、ヘタレが見え隠れ・・・の龍之介。

ソファーに並んで座っている伊吹の肩に頭をのせる・・・

「何で・・・こんなに難しいんかなあ。俺ら、ただ一緒にいたいだけやのに・・・」

「世間のしがらみ・・・いうやつですか・・・・」

あ〜あ〜

龍之介はため息をつきながら、伊吹の膝を枕に横になる

「・・・・思いっきりくつろいでるやないですか・・・・」

「・・・あかんか?書斎でいちゃつくのは・・・」

「組のモンが出入りするでしょう。ここは・・・」

「はな、鍵かけて・・・」

今この状態で、書斎のドアの鍵がかかっていない事に気付く伊吹・・・・

「組長〜先代が呼んではりますが・・・・」

突然乱入した高坂・・・・

「!!すんません!!!」

この光景に驚いて早々に立ち去る。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「ほら、こういうことがあるでしょう? でなくても、ここは壁に耳アリですから・・・」

「やれやれ・・・!しかし高坂・・・ノック無しにドア開けるとは礼儀知らずな・・・」

(つーか・・・起きたらどうですか・・・)

膝枕のまま、腕組みして怒る龍之介に伊吹は苦笑する・・・・

 

 

「兄さん・・・・」

事務室で談話中の、岩崎と南原のところにふらふらと近づく高坂・・・・・

「何を脱力してるんや?」

「組長の書斎に・・・ノック無しで入ってしまいました・・・」

「それは問題ありやなあ・・・藤島の兄さんの部屋と組長の書斎は必ずノック。入るのは一呼吸おいてから

という掟が俺らにはある。で・・・・その様子やと・・・何か目撃したな」

朝から衝撃受けっぱなしの高坂が可愛そうな南原・・・

「・・・膝枕・・・してはるんですけど・・・・」

南原と岩崎は顔を見合わせる・・・・・

「そんなん・・・普通やろ?」

「普通ですか?!」

「組長に膝枕と腕枕は藤島の兄さんの必須科目やろ?昔から・・・」

平然としている岩崎に唖然の高坂

(もう子供と違いますよ・・・あんなにでかい大人が・・・)

「組長が中学校行くまでは兄さん・・・お休みの”おでこにちゅー”とかしてたよな・・・」

南原の言葉に腰を抜かす高坂・・・・

ははははは・・・・

笑いあう南原と岩崎・・・・

(笑い事ですか?今はおでこにちゅー どころと違うでしょう!!!!)

いい人・・・と言うより、どこかズレているような気がする鬼頭の組員・・・・

完全に、高坂の中のハードボイルドなイメージは打ち砕かれ、オカン化した藤島伊吹・・・・

「まあ、藤島の兄さんは見た目と中身のギャップ激しいから。鬼頭に来たモンが最初に受ける洗礼かな。

でもだんだん、オカンの兄さんの魅力に引き込まれてくるから、安心せい」

岩崎の言葉に引きつる高坂・・・・・・

「マジですか・・・・・」

 

 

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