最愛の人   2

 

 

「龍さん、朝食ですよ」

身支度をしている龍之介に、伊吹が声をかける・・・・

「ああ・・」

早めに、皆が来る前に鬼頭に帰らなければいけない

 

龍之介が食卓に着くと、伊吹は茶碗を差し出し、お茶を入れる。

「いつも独りで飯作って、食ってんのか?」

「外食は浪費ですから」

(主婦か・・・・お前は)

「鬼頭で食えよ。南原も通いやけど、独りモンやから夕飯、ウチで食って行ってるぞ」

はぁ・・・・伊吹は微妙な表情をする。

「あいつは独り者ですけど・・・・私は囲われモンですから・・・」

 あきれ顔で龍之介は睨みつける

「面白ろないギャグをかますな」

はははは・・・・・・

(笑い事か・・・・)

笑っている伊吹の神経を疑う

情夫(いろ)とか愛人とか・・・囲われモノとか・・・・

そんなタイトルでしか呼ばれる事のない立場ではあるが、龍之介にとって、伊吹は情夫(いろ)と言う名の

最愛の人なのだ。とはいえ、そんな呼び名がつく事事態、龍之介も心穏やかではないが・・・

 

「しかし、南原・・・ええ年して嫁貰わなあかんのになぁ・・・」

伊吹は兄貴分として、一応心配している。

「まだ、お前の事忘れられへんとか・・・」

龍之介こそ忘れていない

伊吹が龍之介の情夫(いろ)になったと聞いて、自棄酒飲んで押しかけてきた3年前・・・・・・

密かに伊吹に思いを寄せていたのに、あっけなく彼の恋は散ってしまった。

「そんな昔の話・・・」

龍之介は知っている

南原も、あの時のことをおくびにも出さないが、今も龍之介と伊吹を見つめる眼差しは微妙だ・・・・・

「南原、あいつ・・・かな〜りお前に惚れてるぞ・・・」

「妬いてるんですか?」

それに答えずに味噌汁を飲む龍之介・・・

「相変わらず可愛いですねえ」

ふっー

笑いつつ挑戦的な目で伊吹を見上げる龍之介・・・・

「南原が俺に敵うわけないやろ」

(どこからそんな自信がわいてくるんですか)

あきれる伊吹・・・・・・

「つーか、あいつ・・・今度、伊吹に色目使いやがったら、指ツメじゃすまんぞ・・・」

(結構・・・根に持ってるやないですか・・・・)

「そういうことは、あれから一度もありませんから・・・もう忘れてやってください」

「お前も変に庇うなよ」

(完全妬いてるやないですか〜〜!!!!)

一晩過ごして、元通りの龍之介に戻った事が伊吹は一番嬉しい。

昨夜、ここに来たときの龍之介とは見違えるばかりだ

「龍さん・・・元に戻ってよかったです」

「そんなに、おかしかったか?俺?」

「湯船に顔つけて、自殺未遂してたや無いですか」

「違う!!!」

大阪訛りの龍之介と、伊吹の会話は完全に漫才である・・・・

「アレは・・・顔洗うてたんや」

「・・・・・・・・・・・・・」

的外れなオチに伊吹は返す言葉もない。

 

とにかく2人は鬼頭に出勤する・・・・・・・・

 

 

 

 朝の鬼頭組の台所で、朝食の準備をする聡子を 高坂は見つけて駈け寄る

炊事担当に雇っている家政婦はいるが、聡子も主人として手伝っていた。

「姐さん!!!おはようございます・・・・昨日組長・・・」

高坂の口をすばやく塞ぎ、南原は自分の部屋に連れ込む。

 

「おい。いらん事いうな」

「兄さん・・・・今日は早いお越しで・・・」

「お前が心配で早よ来たんや! まあ・・・座れ」

机の前の椅子に高坂を座らせると、自分はベッドに腰掛けた

「昨夜の事は言うな」

「秘密なんですか」

「隠す事でも、公表する事でもない。そういうことや」

「は?」

訳が判らない高坂・・・・

「お前、いらん事言いそうで怖いから、一応耳に入れとくわ。藤島の兄さんは組長の情夫(いろ)や」

「・・・・赤ですか?青ですか?」

「その色とちゃう!!!!」

「ツーことは・・・これですか?」

高坂は自分の小指を立てる

頷く南原圭吾・・・・・混乱する高坂知樹・・・・

「藤島の兄さん・・・・女やったんですか?」

「違う」

「そしたら、組長・・・」

「違う」

「男同士で????それは・・・・ホ」

「そういう言い方するな!!!俺が許さん!」

高坂の言葉をすばやく断ち切る南原

(何で・・・南原の兄さんが怒るの・・・・)

きょとんと見つめる高坂の視線を避けて、南原は咳払いを一つする。

「組長が7歳の時、先代の姐さんが亡くなって、それから忙しい先代に代わって、兄さんが

組長の面倒を見てこられた・・・・当時兄さんは17歳や」

「はい」

高坂は学校の生徒の様に手を上げる

「何や」

「質問です。藤島の兄さんは、そんな頃から鬼頭にいてはったんですか?」

「俺も聞いた話やけど・・・親の借金のカタに売られそうになったとこを、先代が引きとったそうや。

兄さんは先代にとっては息子同然や」

あの極道界のスターに、そんな悲惨な過去があったのかと、高坂は考え込む・・・・

「組長も兄さんに懐いてた。はっきり言うてベタベタやった・・・」

「想像できませんが・・・・」

「お互いがお互いを大事な存在と認めて、組長が19歳の時に主従関係が結ばれたということや」

頭の整理が不可能な高坂・・・・・

「19歳やと・・・大学生で・・・!東京に2人暮らしの時ですか?同棲つうことですか!それ?」

南原は高坂の言葉に眉間にしわを寄せる

「そういうスキャンダラスな表現は、俺は好まんなあ・・・」

「組長、結婚してはるや無いですか???何?三角関係ですか???」

「だ〜か〜ら〜!!!!」

頭に湯気が立つ南原を見て、高坂は自粛する・・・・・

「すんません・・・・」

「姐さんはすべて承知で結婚された。組長の愛情が兄さんにしかないのも承知や。

それでも、組長支えて姐として生きる決意をされた。兄さんとも仲ええよ。ところが・・

新婚の間、まさか愛人宅に入り浸る事も出来んと、組長は自粛した・・・・・3ヶ月間・・・・

ええか?組長は兄さん無しで生きて行かれへんのや。今、鬼頭を背負う立場に立って肩肘張って

気ぃ抜けるのは兄さんにだけ。それやのに外泊ままならん状態やった・・・・・」

高坂は頷く・・・・判らないながらも話が見えてきた

「それで、姐さんは見るに見かねて組長を藤島の兄さんの所に送った・・・・・妻の鑑ですなあ・・・」

「とにかく、微妙な問題やから容易く口にするな。それと、スキャンダラスな表現はするな。

組長と兄さんは命がけの、一生涯最愛の仲やから茶化すことは許さん」

南原の気迫に押されがちな高坂・・・・・

「このことは・・・誰が知ってて・・・誰が知らんのですか?」

「組内は暗黙の了解。組外は一切知らん」

(今まで・・・俺だけ知らんかったんか・・・)

のけ者になった気分・・・・・

「がっかりするな。大学時代の組長知ってるモンは、皆なんとなく察しがついてる。

それくらいベタベタやったからな・・・・

お前は最近来たから知らんのは当たり前・・・・」

え???ベタベタ????組長が???あのクールビューティが????

目が点な高坂・・・・・・

「想像つきません・・・・」

ふー

ため息をつきつつ南原はデスクの本棚からポケットアルバムを取り出す・・・・

 いつかの正月に撮った記念写真を見つける。

高校時代の龍之介が哲三や伊吹 他、組のものと写っていた

「これが18歳の頃の組長や・・・」

「え?」

(誰ですか・・・・・・)

目の大きさは変わらないが・・・あの静かな瞳ではない・・・小動物を思わせるどんぐり目・・・・・・

今の体型からは想像もつかない華奢な美少年・・・・・

「この愛嬌顔で”伊吹と一緒でなきゃいやだ〜〜”とか言うてはったんや・・・・」

信じがたいが・・・・・もし・・・この姿で四六時中一緒だったら・・・そんな仲になっても仕方ない気がした・・・・・

「・・・18の時この姿で・・・・何時から・・・あんなに成長されたんですか・・・」

「20歳直前・・・いきなりやったなあ・・・」

うっー

言葉が無い・・・・・・・

「そしたら・・・・アレですか・・・・やはり・・・組長が女役なんですか・・・・」

バコッ

南原の一撃を食らう高坂

「そういうことは言うなと言うたやろ!!!そういうスキャンダラスな目で見るな」

「はい・・・・」

(南原の兄さん・・・やけにこだわるなあ・・・)

実際・・・組員の2人を見る目は温かかった・・・・

今思えば・・・・

そういう事実を知りつつも、南原のいうスキャンダラスな目で見るものはいなかった・・・・・・・

(鬼頭の組員て皆ええ人やなあ・・・・やっぱ・・・鬼頭に来てよかった)

改めて実感した高坂知樹・・・・何処かズレた極道一年生。

 

 

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