鬼頭組の事情 3
夕刻、事務処理にいそしむ南原のところに、哲三がやってきた。
「南原、お前から見て・・・どうや?」
椅子を持ち込んで、隣に腰掛けた哲三は、南原を覗き込む・・・・
「どうとは・・・」
「龍之介と伊吹」
「よそよそしいですけど。目を合わせようとしはりません」
「どっちが?」
「組長が」
ふー・・・・ため息の哲三・・・・
「結婚してから外泊一度もしとらん。早い話が3ヶ月の間、1度も逢瀬なし。どう思う?」
「姐さんに気ぃつこてはるんですね・・・・」
「まあ、新婚やし。新婚早々、愛人宅に入り浸られたら妻の顔、丸潰れやろ。判るけど、なあ?」
哲三の言いたい事は判る気がした。かなり無理している。
「伊吹は来いとも、来るなとも言われへん立場や・・・黙って見てるしかない身はつらいやろうなあ・・・」
かといって、聡子も行けとも、行くなともいえない立場である。
「ワシはどうする事もでけへんのか」
「組長の問題ですから・・・・」
とはいえ、そんな2人を見ているのは南原も苦痛だった。
「龍之介の問題、そうやなあ・・・」
寂しく立ち去る哲三の後姿が悲しかった。
「龍之介さん・・・・」
寝室のソファーに座る龍之介に、紅茶を差し出す聡子・・・・
風呂上りのティータイムが恒例化している。
そのたびに、龍之介は伊吹と過ごした日々を思い出す。
「聡子、ありがとう」
龍之介の寂しい笑顔を見つめる・・・・・
「座れ」
いつも2人でお茶を飲むひと時・・・・
プライベートタイムをわざと作ってくれている事に感謝しつつ、しかし胸が痛い
「龍之介さん、ありがとう。そして、ごめんなさい・・・」
龍之介の肩に頭をもたせかける聡子。
昔・・・・龍之介が伊吹にしたのと同じ仕草。聡子との一つ一つが伊吹を連想させる・・・・・
その事が、さらに龍之介を自粛へと追い込んでいた。
聡子に後ろめたい思いで接している自分がいる・・・聡子といながら、伊吹を思い続ける事を罪のように感じつつも
どうする事も出来ずにいた。
「何で・・・謝るんや?」
「私は龍之介さんを苦しめてる・・・」
ぽろぽろ・・・・・
聡子の瞳から涙が零れる
そっと龍之介は聡子を抱きしめる・・・・
「泣くな・・・」
(龍之介さんは優しい・・・優しすぎて私は苦しい)
龍之介の背に両腕をまわして、聡子は泣き続ける。
(私は・・・龍之介さんの胸で泣く事が出来る。でも、龍之介さんは今何処にも泣ける場所が無い)
「聡子・・・」
「私のことなんか・・・気にしないでいいんですよ」
「俺は・・・お前のことも大事やから・・・」
義務的な愛情でないことはわかっている・・・・・・しかし、それが聡子を更に苦しめる。
「優し過ぎるのは残酷な事です」
(聡子・・・・・)
か弱いその肩を見詰める
聡子も耐えてきたのだ・・・・
龍之介の背中を見つめつつ・・・・3ヶ月間・・・・・・・
「すまん・・・・聡子・・・・・」
いくら大事にしても一番は他にいる・・・・・・・・
それは妻を裏切る行為のように思えた。
しかし・・・・・・・
初めから彼女は承知で龍之介と結婚した
それでも・・・・・・・
それでも・・・・・・・
割り切れず龍之介は苦しむ
その事が更に聡子を苦しめる事になろうとも
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