鬼頭組の事情 2

 

しばらくして、龍之介と伊吹が居間に現れる。

「これから子組の法事に顔出す。南原、岩崎に運転させるとして・・・あと1人若いもん選べ」

伊吹に言われて、南原は高坂を見る・・・・・

「高坂、お前、初顔見せに行くか?」

ぱっと表情を明るくする高坂

「ええんですか!」

 

「南原、大部屋の黒背広、見繕って着せたれ」

「はい」

伊吹に言われて、南原は高坂を連れて大部屋に行く

「道理で今日は、組長も藤島の兄さんも、南原の兄さんも岩崎の兄さんも黒やと思てました・・・法事ですか〜」

「顔出すだけやから・・・」

クローゼットの中には冠婚葬祭用の礼服が何着かあった

「お前は普通サイズやから・・・・これか・・・」

差し出された一揃いを高坂は着てみる

「非常用にストックしてあるんですか?」

「ああ、下っ端は使いまわしで・・・幹部は、自分の部屋にそれぞれ1着は置いてある」

「通いでもここに部屋持ってはるんですか・・・・」

ネクタイを結びつつ、高坂は訊く

「書斎みたいなもんかな・・・」

高坂のネクタイを直しつつ、南原は答える

 

「おうてるな・・・よし。」

 

 

 

南原の言葉通り、1時間足らずで鬼頭一行は小野組を後にした。

 

「組長・・・昼すぎましたが、お食事して行かれますか?」

伊吹が車内の後部座席で、隣の龍之介に訊く

「ああ。お前の好きなとこ行け」

滅多に聴けない龍之介の肉声・・・・美しいテノール・・・・・

「岩崎、いつものとこ。」

伊吹は岩崎に、抽象的に場所を指定する

「あれで判るんですか?」

助手席の高坂は、運転席の岩崎にこっそり訊く

「ああ・・・」

こともなげに言う岩崎・・・・・

鬼頭ファミリー完全習得の道は険しそうだ。

 

 

 

いつものところとは、郊外のレストラン。鬼頭組ご用達の店らしい。

入ると店主が挨拶に出て、案内してくれる。

「お久しぶりです・・・・鬼頭様。先代様はお元気でいらっしゃいますか」

「はい。おかげさまで。人数分見繕ってください。」

スタイリッシュなスマイルで対応する龍之介

「腕ふるわせていただきます」

一礼して去る店主・・・・・・

 

伊吹は席に着こうとする龍之介の椅子を、すばやく引いてサポートする

座る龍之介の仕草も慣れたものだった。

もう長い間2人はこうしてきたかのように・・・・・

「わざわざ・・・・ナンバー2の藤島の兄さんが、あそこまでしはるんですか?」

隣にすわった南原に小声で聞く高坂

「組長のことは藤島の兄さんしかあかんのや。俺らは手出されへんのや」

(へ〜〜)

食事中も伊吹のサポートは見事だった

言葉にせずとも水、塩、コショウ、紙ナプキンに至るまで、龍之介の必要なものを伊吹は次々と手渡した。

 

「長年連れ添った古女房でも、ああはいきませんねえ・・・」

つぶやく高坂・・・・苦笑する南原・・・・・・

(古女房・・・言うたら古女房か)

 

「またお越しください」

店長の声を後に、一行は店を出る

 

「車・・・駐車場から回しますから待っててください」

岩崎は去る・・・・・・・・

10月とはいえ風は冷たい

龍之介は唇をしきりに気にしている・・・・

「組長。」

伊吹はリップクリームを、コートのポケットから取り出し蓋を取り差し出す

「おう」

伊吹の方を振り向いた龍之介の唇に、伊吹はそっとリップクリームを塗る

 

(!!!!)

目が点になる高坂・・・・・・

「じろじろ見るな」

南原が小声でたしなめる

 

 

 

「兄さん!あれは何なんですか!」

鬼頭に帰ってきて、事務処理中の南原に高坂は詰め寄る

「何が・・・・」

「リップクリーム・・・」

「組長は唇、荒れやすいから、兄さんが気ぃつこうて塗ってはるんや」

(いや・・・・そういう問題と違う〜〜!!!!)

「そんな事でびっくりしてたらお前・・・・・」

(え〜〜!!!!!こういうことは、なんでもないと言うんですか!!!)

「一言言うけど。藤島の兄さんは、組長が7歳の時から母親代わりで世話してきはったんや・・・・・

はっきり言うて、兄さんは”オカン”や。そのイメージ忘れるな」

(!!!オカン????)

高坂の中の藤島像が音を立てて崩れる・・・・・・・

「組長の中学時代、兄さんは授業参観にも行った。進路指導にも兄として行った。大学生の頃、東京での4年間は

自炊でけへん組長のために、家政婦として、組放置して東京に行かはった。そういうお人や・・・・」

「家政婦・・・・兄さんが炊事洗濯してはったんですか・・・」

「兄さんは高校生の頃、鬼頭でおさんどんしてたんやそうや・・・・」

(は?)

 

 「だから・・・・オカンやと・・・・」

 

「これだけは忘れるな。兄さんは組長のためなら、組も命も捨てるお人や。頭の中は組長の事しかない。」

(ひえ〜〜〜〜!!!)

衝撃の高坂知樹・・・・・・・・・・・

カリスマの崩壊・・・・・・・・・・

 

 

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