終わりと始まり 1.

 

 

翌朝、竜崎一行は帰途に着く準備をしていた。

ドアをノックして島崎はドアを開ける。

「車の手配が出来ております」

「判った」

健人が答えると、ドアは再び閉じられた。

「島崎さん夕べ何処にいたの?」

帰り支度を済ませてのんびりしている美奈は悠利に聞く。

「隣の部屋。使用人は皆、隣に部屋を取ってあるから。」

「ふ〜ん・・・」

美奈にとっては、悠利はすでに憧れの君ではなく、お兄ちゃんのカレシになっていた。

「忘れ物するなよ」

荷物を鞄に詰めつつ、智は美奈に言う。

「は〜い」

短いようで長いようなイギリスでの休暇が終わる。明日からはまた、一般市民な野中家での日々が始まるのだ・・・・

それでいい

と智は思う。夢は終わった。そして、”今”が始まる。

 

ホテルを出て車に乗り、空港で朝食をとる。

「智様、只今、ロレンス卿から送られたお土産が到着いたしました。」

空港宛に送られていた。

「・・・え・・なんですか?お土産って?」

「ボーンチャイナの高級食器です」

(そんな壊れそうなものを・・・)

智は苦笑する。

「ご心配無用です。空港から郵送でお届けいたします。」

ああ・・・・

智はひきつった笑いで島崎を見送った・・・・・

 

「デザートは何にする?」

悠利の言葉に我に返り、智は頷く

「アイスクリームを・・・」

 

 

 

夢のような日々は終わり、いつもの庶民の家に戻った智と美奈。

「何か・・・家が一番落ち着くわ〜やっぱ、私って庶民なのね。」

と、兄の部屋でくつろぐ妹。

「でも楽しかったわ。竜崎のおじ様はジェントルマンでステキだし〜」

まだ夢見心地な美奈。

「いいカレシ捕まえたね〜」

何故か、兄に彼氏がいる事に微塵の抵抗も無い美奈・・・

「で・・・この旅行中、ちっとは進展したかな〜」

擦り寄って訊いて来る妹が怖い。

「何が・・・」

「同じ部屋で寝たんでしょ?」

え・・・・・

「ヤッた?」

「バカ!」

拳骨で小突かれてぺロッと下をだす美奈。

「だよね・・・隣に私らいたもんね。でも・・・ちゅーくらいは?」

「怒るぞ」

はははは・・・・・

笑いながら自室に去っていく妹にため息をつきつつ、智はベットに腰掛ける。

 

何処か生まれ変わった様に清清しい。何かを越えた、という勝利感に似た気持ち・・・・

 

これからも試練はやってくるだろう。でも、越えて行こう そう思える。

離れていても悠利と繋がっている。確かな実感がある。だから、越えていける。

愛する者を守る為なら、いくらでも人は強くなれるのだ。

それを教えてくれたのはユリシーズ・・・・

その深い愛を忘れまいと誓う。

 

 

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