時の迷宮 3.
「智・・・どうしたんだ・・・」
部活の帰り、無意識のうちに 悠利の家の前に佇む智を、悠利は書斎の窓から見かけて、
駆け寄ってきた・・・・・
「来てくれたなら入ればいいのに・・・・」
「貴方に・・・逢う資格なんか無いのに・・・それでも、逢いたくて・・・逢えないと苦しくて、
どうにかなりそうで・・・」
闇があたりを覆う・・・・
しかし、悠利は智の頬をつたう涙を見逃さなかった・・・・
「すっかり冷えて・・・風邪ひくじゃないか」
書斎のストーブの前で、微笑みながら悠利は智に毛布をかける。
島崎はホットココアを持ってきた。
「これを飲んで温まってください・・・」
「ありがとうございます・・・」
笑顔で智はカップを受け取る・・・・・とても懐かしい感じがした・・・・・
昔から知っていたような・・・・
島崎が去り、2人きりになると、悠利は智の前にかがんで智の手を握る
「辛そうだね。僕のせいなのか・・・」
「そう・・・貴方のせいです・・・貴方が・・・僕を・・捕らえて離さないから。」
意外な言葉に悠利は耳を疑う・・・・・
「デュークではなく・・・僕が?」
「貴方に・・・逢いたいんです・・・ユーリではなく貴方に・・・でもこの想いがなんなのか判りません・・・・」
悠利は智を抱きしめる
「難しく考えるな・・・君が望むなら、僕は君の傍にいるよ・・・・」
智はかすかに首をふる
「あの人の面影が消えない以上、貴方を受け入れることは出来ません・・・・・貴方を身代わりになど出来ない・・・・」
「身代わりでもいい。構わない。君を手に入れるためなら、悪魔に魂を売っても構わない」
(悠利・・・・貴方は・・・あの時の僕と同じだ・・・・)
「大事なんです・・・貴方が・・・」
「大事になどされたくない・・・傷付いてもいい。お前とエンゲージしたい」
智は今ユリシーズの苦しみがわかった・・・・
いとおしい・・・・
彼の一途な瞳は、麻薬のように心を痺れさせる・・・・・・
禁断の薔薇を手折りそうになる誘惑に、智は負けそうになる。
(ユリシーズは・・・僕が踏み込むたびに、この誘惑と戦っていたんだろうか・・・)
「貴方は・・・僕とユリシーズの事、一部始終を知っている・・・それでも?」
気を落ち着けるため、飲み干したココアのカップをデスクに置いた。
「貴方を捨てて、ユリシーズの元に行った僕を・・・・許せるのですか・・・」
「デュークは・・・君を僕に託したんだ・・・」
「何故・・・貴方は・・・僕を?」
「判らない・・・初めて会った時から・・・理由なんかない」
(僕も・・・理由もなく貴方が・・・・)
「しいて言うなら・・・血が竜の血が・・・君を求めている・・・」
智は左腕をまくる・・・・
消えつつある傷跡・・・・・永遠に傷が残る事を望んだが、叶わないようだ・・・
「サトル・・・・」
ユリシーズの声が智を呼ぶ・・・
ゆっくりと・・・・悠利は、その唇を智の傷跡に押し当てる・・・・
「ユリシーズ・・・・」
眩暈のなかで、智は愛する人の名を呼ぶ・・・・・
「彼の中に私はいる・・・迷う事などない・・・お前の私への愛も、悠利への愛も真実なのだ・・・」
(悠利・・・・貴方は・・・それでいいのですか・・・)
ふっー
悠利は気を失って、智の膝に崩れた。
身代わりでなく・・・・・悠利はユリシーズそのものだと言うのか・・・・・
悠利は智の腕の中で目を開ける・・・・
「すまない・・・デュークが・・・現れたろう・・・」
「悠利の中には、ユリシーズの人格が内包されているのですか?」
「不完全なんだ。おそらく・・・エンゲージして初めてデュークと一体化するのだろう・・・」
竜の血が作用しているのだろうか・・・・・・
「君は大丈夫か?暴走するような事は、こちらでは無いか?」
「はい。今のところは・・・」
静かな微笑みを浮かべて悠利は頷く・・・・
(彼とエンゲージしなければ・・・僕は誰ともエンゲージしない・・・)
それだけは確かだった・・・・・
「貴方を・・・貴方だけを守りたい・・・」
つぶやく智を抱きしめて、悠利は諭すように言う
「ひと時の情熱で決めるな・・・・よく考えて決めろ。時間はたっぷりある」
「貴方が・・・・誰よりも大事です・・・・」
にっこり・・・
悠利は笑って智の額にくちづけた・・・・・
「家の車で送るよ・・・・・・・」
永遠に一緒にいたい衝動にかられつつ、智は頷いた・・・・・
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