離別   

 

 

 

 

アルメニアの王女ダイナと、ルミナール王国の第3王子、フィルバートの婚礼が近々行われる中、

警備に呼ばれた騎士達は大忙しだった。

その中で、ユリシーズの龍の騎士団は重要警護から外された。

遠く離れた森の中のコースを予行演習しつつ、ユリシーズはヘンリーに当日の指揮を任す為の

引継ぎをしていた。

 

「すまない・・・・私の為に・・・」

元婚約者が新婦の傍で警護しては、新郎側がほうっては置かないだろうと、

いつもは最前線の精鋭たちは今度ばかりは のんびり高みの見物となった。

「いいですよ、たまにはフェニックスに譲ってやらないと・・・」

ヘンリーは団長代理という重荷に緊張気味である。

「反アルメニア派の暴徒が密かに入国して、婚礼を壊そうとしているという噂もあるから

気をつけて見ていてくれ。」

新郎側では、他の者と婚約していた王女と結婚させるなど、ルミナール王国をバカにしているという

声もあがっているのも事実だった。

その渦中にユリシーズがいるのも事実だ。

 

「それにしても・・・あんまりですねえ、乗り気でない団長を強制的に婚約させておいて、

それを一方的に解消して・・・」

更に民衆からは、ルミナールの王子と天秤に掛けられて、捨てられた敗北者の扱いを

受けている・・・・

「もういい。結果的には破談になってよかったのだ。」

王家の婿養子など、自分でもむいていないと思う・・・

もちろん”愛するものと結婚”など、初めから考えても望んでもいないが。

「公爵家を継がないといけませんからねえ・・・団長は。」

弟、テリウスがいた頃はテリウスが継ぐ事になっていた公爵家・・・・・

 

「あの少年は最近見えませんが・・・」

ヘンリーが思い出したように言う。今では、皆がテリウスの死と智の存在を知り、受け入れていた。

「彼は元の世界に帰っている・・・近々帰すよ。完全に」

あてにするなと無言で釘を刺す・・・・・

しかし、ヘンリーはそのことより、ユリシーズを案じていた・・・・

彼の目にも、ユリシーズはサトルを愛しているように見えたのだ。

(またこの方は、愛するものを失うのだ・・・・)

冷徹な横顔に秘められた憂い・・・・

その美しさに見惚れながら、ヘンリーは命の限りこの団長を支えて行きたいと思う。

もうすぐ秋が来ようとしていた・・・・・

 

 

「団長!ちょっといいですか?」

遠くで団員の呼ぶ声がする

「ああ、今行く」

叫んで馬を走らせるユリシーズの後を追いつつ、ヘンリーは寂しげに微笑んだ。

 

 

                                                   

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