離別     

 

 夕刻、屋敷に帰って来たユリシーズを、智は薔薇園で待ち構えていた。

「来ていたのか・・・・」

そうつぶやくユリシーズは喜び半分、苦痛を半分まじえた複雑な表情をしていた。

「ユーリ、お話があります」

智の思いつめた表情に、不安を隠せないままユリシーズは、智の肩を抱いて屋敷に向かう

ここでは話したくなかった、ここはテリウスとエンゲージした場所・・・・・

「立ち話もなんだから部屋に行こう」

2人は彼の部屋に入った。

 

「なんの話だ。」

手袋を外し、外套を脱いでクローゼットにしまうと、ユリシーズはソファーに腰掛けた。

智は勧められるまま、向かいのソファーに腰掛ける

「決めました。僕は貴方とエンゲージします。」

「勝手に決めるな」

冷たい氷のような声だった。

「何度否定されても、僕の心は変わりません」

冷たい表情の下でユリシーズの心は揺れていた

「元の世界に帰れ。もう二度と来るな。お前の顔など見たくない。」

精一杯の憎まれ口に、智はびくともしなかった。

「嘘です・・・僕の目を見て言えますか?」

「お前の顔を見ていると、テリィを思い出して辛いから消えて・・・」

最後の言葉は テーブル越しに身を乗り出した智の唇で塞がれた。

「無礼者!」

智を押しのけてユリシーズは叫んだ。まるで心の悲鳴のようだった。

顔を伏せたまま肩を震わせていた・・・・

「・・・・出て行ってくれ・・・話の続きは・・・・明日にでも・・・」

 

「愛しています・・・・・貴方を・・・・」

智の告白は、ユリシーズの胸を切り裂いた。涙はとめどなく流れる・・・・・・

「私は・・・お前を愛してはいない。」

それが彼の愛の言葉・・・・・・・・

「それでも・・・僕は・・・貴方を・・・・」

そういい残して智はドアを開けて出て行った・・・・・

 

(サトル!・・・・・)

後を追いたいのに追えない辛さに身悶えしながら、ユリシーズは自らの肩を抱きしめる・・・・

優しい花弁のような、テリウスのそれとは似ても似つかない、力強い熱い情熱的な

智の接吻はユリシーズの総てを溶かしてしまいそうだった・・・・・

何時の間にか智は強くなった。

初めて会ったときの、ユリシーズの保護がなければ生きられないような弱さは微塵もない・・・

どんな時も肩肘張って生きてきた彼は、初めて自分を抱擁する強く熱い力を知った。

しかし・・・・

犠牲にしたくない・・・・・・

その思いは消えない。

それでも・・・・・

知ってしまった・・・

自分を包み込む熱い情熱を・・・・・抗う事が不可能なほどに、それは甘美であった・・・・・

 

胸の痛みに震えているのか、歓喜に震えているのか判らなくなるほどに、恋慕は彼を支配する。

後一秒でも長く、智に唇を許していたら彼の決意は崩れていた。

 

ソファーに身を崩してユリシーズは身悶えする

「これは夢だ・・・忘れろ・・・・・」

呪文のように繰り返しながら、自らの唇に残る”智”を消そうとする・・・・・

しかしそれは、消そうとすればするほど、彼の中に深く刻み込まれる。

「サトル・・・・」

彼がつぶやいた愛しい者の名前は、闇の中に切なく消えていった・・・・・

  

 

 TOP    NEXT 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system