すれ違う想い 1.
夢の話を終えて智は一息つく・・・
ここは悠利の書斎。まだ胸の痛みは消えない。
悠利は、食い入るように聞き入っていた面を、テーブルのカップに向ける・・・・
「君は・・・テリウスの影だと?」
「教えてください、これは唯の夢なのですか?それとも、過去の事を垣間見ているのですか・・」
「君は、時空を越えているんだ。夢の出来事も現実だ・・・なぜなら君はドラゴンズ・ブラッドだから」
(そんなのありかよ・・・・)
胸の中で突っ込みを入れる・・・・・
「おそらく、君にリングを渡した老婆は竜族の長老。」
「そんな荒唐無稽な事信じるんですか?」
「信じるしかないだろう・・・・デューク・ユリシーズについての記録は、君の言うとおりなのだから」
そういって彼は紅茶を一口飲んだ。
「では、ユリシーズの望みも、貴方は知っているんですか?」
悠利は机の上の古い本を持ち上げて開いてみせる・・・・
何百年もの時を経たその本はデューク・ユリシーズの日記帳だった・・・もちろん、英語で書かれたそれは智には読めないが、あるところから白紙状態だった・・・・
「この最後の部分、今日文字が現れた・・・・君の話してくれた内容と同じことが書かれている・・・・・・」
「そんな・・・バカな・・・」
「君がデュークの前に現れた記述があったその日、君が図書室に現れた。一目で判ったよ・・・
君はテリウスに生き写しだったから・・・・」
初めての出会いのその時・・・・・
智は息をのむ。
「僕はどうなってしまうんですか・・・・ユリシーズは?」
悠利は首を振る・・・・・
「判らない。デュークは30歳で騎士の団長から公爵の地位につき、伯爵令嬢と結婚し、
息子を得る、そして・・・・55歳で他界する。系譜に記された経歴はこうだ。
しかし・・・・詳しい事は何も・・・・・・・」
智は自分の左手のリングを見る・・・・
これから何処に向かうのか、見当も付かない・・・・
ただ・・・・・
ユリシーズにエンゲージを断られたことは確かである。
しかし・・・
彼にはまだ、エンゲージへの切なる想いはなかった。
自分にとってユリシーズが何であるのかさえ判らなかった・・・・・
なのに・・・・胸は痛んだ・・・・・
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