すれ違う想い   

 

 

   セレスティア公爵の屋敷の傍の丘で、智は乗馬の練習をしていた。

この世界にいるつもりなら乗馬は必須だ・・・・・・

 

最近は、お香を焚かなくても、智自身の意思で中世と現代を行き来できるようになった。

(これも竜の血の能力なのか・・・)

 

「サトル、本当に馬は初めてなのか?」

ユリシーズが驚いたように見詰める・・・・・

どうやらドラゴンズ・ブラッドの双子は、片割れの能力を受け継ぐらしい・・・・・

信じられないほどの見事な手綱さばきに智自身驚いていた。

 

「もしかして、テリィは・・・弓とか使ってましたか?」

「ああ。テリィは弓の名手だ。」

自分が弓道部に所属しているのも意味があったのでは・・・と思う智・・・・

 (僕はこちらの人間なのか?そうすれば・・・元の世界に帰るべきではないのか?)

両親に自分は拾われた子なのか、などと聞く勇気もない智だった。

 

屋敷に戻ると、執事が王室からの使者が来ていると、ユリシーズに告げた

「私の部屋で待て」

そういってユリシーズは客室に向かい、智はユリシーズの部屋に向かった。

 

「王女との結婚の事かなあ・・・」

独り言を言いつつドアを開ける・・・・

(ユーリは婚約を解消するかも知れない)

テリウスがいない今、ユリシーズが王女と結婚する意味がなくなるのだ・・・・・

テリウスが生きていたとしても、あまり乗り気ではないだろうに。

(マスターなのか付録なのか判らない扱いをされている事だけは明らかだ)

王室には智が替え玉である事を明かすだろう・・・・

窓辺に立って考え事をしていると、ドアが開いて人が入ってきた・・・

「ユーリ?」

振返った智の顔から、笑顔が消えた・・・・・

「テリィ・・・こんなとこでユリシーズを待ってるのか?」

「ユーリの部屋に何故貴方が?!」

見覚えのある顔・・・フェニックスの団長、エリック・・・・

「玄関で長い事、待たされて飽きたから、部屋で待たせてもらおうと来たんだ」

礼儀をわきまえないこの男に、智は嫌悪感を覚える

そればかりではない。先天的な嫌悪感があった・・・・・

「ユーリの許可なしに部屋に入ったんですか?」

「俺とユリシーズの仲だ。気にするな。それより・・・お前こそ・・・」

「私は・・・・ここで待つよう言われたんです」

ふ〜ん・・・・・

ブラウンの瞳が智を見詰めた・・・

「お前ら・・・昼間から、いちゃついてんのか?一つ屋根の下に暮らしてると

24時間解禁なんだなあ・・・・・」

(何が言いたい・・・・)

智は吐き気がしてきた・・・・・・・・・

「可愛がってもらってんだろ?ご主人様に・・・・それとも・・・ご奉仕してる方か?」

じりじりと迫られてソファーまで追いやられ、ヘタヘタと腰掛けた智にエリックはしゃがんで

目を合わせる・・・・・

「無礼な。私達はそのような関係ではありません。」

「調べてやるよ・・・」

肩を押されてソファーに倒れこんだ智のシャツのボタンを、エリックは引きちぎった・・・・

「辞めろ!」

抵抗する智の両腕を掴んで、頭の上に持ち上げたエリックは現れた智の脇の痣に気付いた。

「お前・・・・テリィじゃあないな?」

テリィとは逆の位置の痣を彼は指でなぞる・・・・

「しかし・・・ドラゴンズ・ブラッドだな・・・・・・」

大柄なエリックにのしかかられて、智は身動きが出来ずにいる。

「リングしてるとこみると・・・・誰とも契約してない・・・」

顎に手をかけエリックは智の顔を自分に向けさせた・・・・・

「俺とエンゲージしろ」

「断る」

「こいつ!!!」

 

「ここで何をしている!」

ユリシーズが目の前にいた。

「コイツ、何処で見つけたんだ?テリィの代わりか?」

「出て行け!人の部屋に無断で入り、このような狼藉を働くとは・・・・フェニックスの団長の名が泣くぞ」

初めてみるユリシーズの感情的な姿に智は息をのむ・・・・・・・

「帰れといっているだろう!!聴こえんのか・・・・バロン」

最後のバロン(男爵)は、さげすむように吐き捨てられた・・・・

顔色を変えてエリックは慌てて立ち去った。

 

ふう〜

ユリシーズは怒気を収めた。

「大丈夫か?怖かったろう・・・・・」

「な・・・何もされてないから・・・・本当に・・・・」

純潔を主張する智がおかしくてユリシーズは笑う・・・・・

「あいつ・・・テリィが好きだったんだ。以前から何回もちょっかい出してた・・・・」

男に襲われると言う奇特な経験をした智は、まだ精神不安定だった・・・・

「お前の部屋から代わりのシャツ持ってくる」

と立ち上がろうとするユリシーズを、智は引き止める

「行かないで・・・・一人にしないで・・・・」

ユリシーズの不在にまた何か起こったら・・・・そう思うと怖くてしょうがなかった。

「じゃあ・・・私の服貸してやるから」

とクローゼットからシャツを取り出し智に着せた・・・・

ほのかに・・・・薔薇の香りがした・・・・・・・・

テリウスがユリシーズとエンゲージした時の場面が、鮮明に智の脳裏に浮かぶ・・・・・・

 

(僕は・・・・代わりになんて・・・なれない・・・・)

智は涙を隠すためそっと俯いた・・・・・・・

 

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