契約者(マスター) 

 

  

    学校から、そう遠くないところに悠利の家はあった。

「うわ〜でかい洋館だなあ・・・」

智は目を皿のようにして、広い廊下を悠利について歩く。

「悠利様、お帰りなさいませ。こちらは・・・ご学友ですか?」

執事らしき初老の紳士がやってきて、挨拶をする。

「島崎、野中智君だ。書斎に行くからお茶の用意を。」

一礼して執事は去ってゆく・・・・・・智はあっけに取られる・・・・

庶民の智には見慣れない光景が繰り広げられていた・・・・

「僕の書斎にあるんだ。こっちだ・・・」

(書斎?勉強部屋でなくて・・・・書斎????)

 

ある部屋のドアを開けると、大きな本棚にぎっしり詰まった本の数々・・・・・・中央に大きな机があった。

「父は仕事で家には、なかなか帰らない。ここには僕と島崎と、数人の召使い達しか

いないんだ・・・・・・」

 そういいつつ、悠利はあちこち本を取り出しては見繕っていた・・・・・

「もう遅いから、持って帰って読むといい。」

「君は・・・何のために、このことを調べているの?」

本を受け取りつつ智は訊く。

「デューク・ユリシーズがやり残した事を成し遂げる為」

悠利の表情は はっとするほど神秘的だった・・・・

城のような洋館で暮らす美少年はまるで、異国の王子様のようだった・・・・・・

 

 

島崎が、紅茶と洋菓子をトレイに乗せて入ってきた。

「ごゆっくり・・」

ソファーの前のテーブルに置くと出てゆく。

悠利は智を促してソファーに座った。

 

「君は・・・夢でデューク・ユリシーズに会ったと言うんだね・・・」

紅茶のカップをはさんで、二人は向かい合った。

「テリウスと言う、愛する弟を亡くして哀しんでいた」

「テリウスは・・・・ドラゴンズ・ブラッドだね?」

「うん・・・・僕は彼に瓜二つらしい・・・」

悠利は遠い目をした・・・・・・

(本当に・・・そっくりだ・・・ユリシーズに・・・)

智は見惚れていた・・・・

「今夜も・・・智は・・・夢を見るの?」

「判らない・・・」

見れるのかどうか・・・・・

「もし、見たら・・・夢の話、聞かせて欲しいんだ。いつでも家に来て、歓迎するよ」

「ああ・・・努力してみるよ・・・僕も続きが気になるから・・・」

そう言いつつ智は紅茶を飲む・・・・・

「君は・・・2年生?」

悠利はカップを片手に微笑んで訊く。

「うん。2年B組・・・・悠利は?」

「3年D組」

(先輩だったんだ・・・・・道理で大人びていると思った・・・)

「そ・・・そう・・・先輩・・・でしたか・・・」

悠利はくすくすと声を押し殺して笑う・・・・・

「いいよ・・・かしこまらなくても」

「で・・・でも・・・」

「君とは初めて会った気がしない・・・」

(僕も・・・・)

ユリシーズに似ていたから・・・・・なのか・・・・

 

 

智の帰った後、島崎と食堂に入った悠利は テーブルに付くと、横の壁を見上げる・・・・・

古い絵画・・・少年二人の肖像画だった・・・・

椅子に座る金髪碧眼の少年と、その後ろに立ち 彼の肩に手を置く黒髪の東洋美的少年・・・・・・・

黒髪の少年が、はるかに年下に見えた。

「悠利様、あの少年・・・・・似ていますね・・・・」

「ああ・・・・」

(いつも見るこの絵の少年に・・・智、君は似ていたんだ・・・・)

 

 

「僕も、びっくりしたよ・・・」

(智の夢は、まんざら嘘でもない。彼は本当に、テリウスと瓜二つなのだから・・・・・)

テーブルのろうそくの炎のゆらめきを見詰めつつ、悠利は微笑んだ。

 

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