デスティネーション 5

 

明け方、馨は目覚めた。何か夢を見ていたような気がするが、内容は思い出せない。

すぐ傍に光輝の寝顔があり、腕はしっかりと馨の背にまわされていた。

光輝は眠るときも、馨に背を向ける事は無い。

向かいあうか、後ろから抱きかかえるように眠る。

いつまで、こんな事が続けられるのか・・ふと不安になる。

日常化してゆく光輝のいる日々・・・満たされれば満たされるほど不安に襲われる。

「馨?」

気配を感じて光輝も目を覚ます。

「どうした?」

「いいや・・・」

「毎晩泊まりはきついか?たまには俺、帰ろうか?」

そう言われると馨は困る。もう独りで眠る自身が無い。

「もう独りで眠れなくなったんだけど・・・お前のお陰でダメ人間まっしぐらだ」

いつから自分は。、こんなに弱くなったのか・・・・馨は苦笑する。

「だったら、俺に結婚しろとか言わないよな?言うなよ?」

それが馨の心残り・・・

世間体もある、鷹瀬家の後継者という事では、罪悪感が無いわけではない。

 「老後はどうするんだ?子供も無しで・・・」

馨の言葉に、光輝はあきれる。

「お前こそ、どうする気なんだ?つーかさ、俺は親父みたいに生きたくないんだ」

馨に出会うまで、光輝は光洋のような生き方をしていた。

薄っぺらい愛情、その場限りの馴れ合い・・・

「親父もさ、結婚する前にお前に出会っていたら、変わってたかもな」

「さあ・・・」

今となっては判らない。光洋と馨を阻んだものが家庭であり、光輝だったかどうかは・・・・

「でも、俺が親父だったら、お前を残して去ったりはしない」

いつも馨は待っていた・・・そして、取り残された・・・・

 「馨は我慢しすぎたんだ、今まで。我侭言ってもいいんだぞ。あ、でも俺は親父の尻拭いとか

贖罪なんかする気ないからな。もし、俺が馨のために犠牲になったのなら、それは俺が望んでしたことだ」

 大きな手が馨の髪をかきあげる。昔 幼い頃、父がまだ生きていた頃に馨にそうしたように・・・・

「お前は、どうしてそこまで・・・」

「惚れた弱みかな」

泣きたくなるほど、切ない表情で光輝はそう、つぶやいた。

「すまない・・・」

小さくつぶやいて、馨は光輝の胸に顔を埋める。

「そういう時は、”ありがとう”じゃないのか?」

徐々に明けてゆく夜明け、また新しい朝が来る。そして生きる事を許された一日が始る・・・・

 

 すまない・・・・・

 

光輝に重い十字架を課したこと。母親を裏切る結果を生んだこと。

それさえも、光輝が望んでした事というのなら・・・

 

「ありがとう・・・」

 

「なあ、馨?」

さっききまでの包容力はどこへやら・・いきなり甘え顔を、光輝は向ける。

頼もしかったり、甘えん坊だったり、光輝は忙しい。

「今日、予定あるか?」

「いいや、フリーだけど・・・なにか?」

「朝からナンなんだけど〜一回だけ・・・ダメか?」

 ふっー

あまりの可愛さに笑いが込み上げる。

「今日は、早起きしなくてもいいから、いいけど。お前はそういう事、一々確認取る奴だったっけ?」

え・・・・

光輝は考える。

高校生の頃、いきなり抱擁して告白したり、窓際でいきなり、キスしたりした自分・・・

「だからって、いきなり襲えないだろ・・・」

「律儀だよな」

光洋とは暗黙の了解でというか、流れというか・・・駆け引きのようなものだった。

「萎える?そういうの?」

自分でも、格好悪いとは思うが、どうしても、そうなってしまう。

「いいや、頼もしかったり、可愛かったり、お前は魅力満点だな」

そう言いつつ、馨は光輝を抱きしめる

「そうか・・・・俺は年下だからな〜たまには立ててやらないと」

ばか・・・・

生意気な年下の恋人・・・

「愛情の前に、年上も年下も無いさ。人と人の繋がりがあるだけだ」

求めていたのは人の情、今も昔も変わらない。

それを光洋は、馨を恋愛ゲームに巻き込んだ・・・

のしかかる光輝を見上げて、馨は微笑む。

「本物の恋愛は、カッコ悪いものなんだ」

うん・・・・

光輝は頷く。

「俺なんか、すげーカッコ悪いとこ見られてるもんなあ。」

「そんな光輝だから好きなんだ。血も涙も無い、すまし顔で、別れを切り出しては、女を泣かすような男は最低だろ?」

光輝は苦笑する

「それ、高校生の時の俺だろ?」

恋愛の何たるかも知らないままの、無邪気な高校生の頃の光輝・・・

皆から愛されていたから、傲慢だった。

「俺には、本心だったろう?」

ああ・・・

馨には格好悪いところばかりを見せてきた。

「動揺したり、余裕が無かったり・・・自分をもてあましたなあ・・・」

光洋には、それが無かった。いつも馨は光洋の手のひらの上で弄ばれていた。

 「今も・・・俺は、お前には余裕が無い」

そう言って光輝は、馨の首筋に唇をよせる

醒めることの無い夢のように、心地の良い温床。もう手放す事の出来ない安らぎに満たされる。

「いつか、逢えなくなっても、お前の事は忘れない」

一夜ごとに刻まれた愛の記憶は、永遠だった。

「逢えなくなる事なんて無い」

光輝は否定する。いつか来る別れを・・・・

人が生きている以上、別れは必須だった。しかし・・・

「ここがお前の終着地点だ、この先は何も無い」

そう信じたかった。それを願った。

  

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