終焉そして始まり 2

 

 

卒業間近な3月のある夜、加瀬が龍之介のマンションを訪ねてきた。

 

「龍君、婚約おめでとう・・・これから忙しくなって多分、会えないと思うから、早いけど結婚のお祝い持って来たよ・・・」

ダイニングの椅子に座るなり、加瀬は大きな額を差し出した。

「これ・・・クロスステッチ?もしかして・・・・加瀬・・・」

細かい薔薇の刺繍がしてあった

「僕が刺繍したんだ。」

え・・・・・・・

「そんな趣味あったんだ」

「妹のお蔭で手芸一般は得意だよ・・・あと、うちからの現金のお祝いも」

「ありがとう・・・」

「冬休み、就職活動で大阪帰れなくて・・・会えなかったからさあ」

伊吹が紅茶を差し出す・・・・・・

「就職、決まったんだ・・・」

「うん。東京の事業団に入る。だから・・・会えなくなるねえ」

失恋の痛手からようやく立ち直り前向きになった加瀬俊彦・・・・・・・

「スカウトがたくさん来てたって聞いたよ」

「うん・・・まあねえ・・・」

あまり自慢しないタイプなので気付かれないが、加瀬はなかなか有望なバレーボールの選手らしい

「式にも出られないよ」

「組関係だけでするから・・・・大丈夫・・・」

「だんだん遠くなっちやうなあ・・・子供の頃はすぐ近くにいたのに」

ため息とともにつぶやく加瀬を龍之介は励ます

「でも、加瀬のことは忘れないよ。今までずっと友達だったんだ・・・・それに、これからも」

「龍君・・・・」

うるうるしている加瀬を見守る龍之介と伊吹

「組長・・・・頑張ってね・・・」

「・・・・うん・・・・」

極道を勧められているようで、何ともいえない龍之介

「藤島さんも・・・・もう会えないと思うと名残惜しいです・・・」

今生の別れみたいな事を言う加瀬にあきれる伊吹

「・・・・また、会うときも・・・あると思うし」

苦笑しつつ伊吹は頷く・・・・

「加瀬も・・・頑張ってね」

「うん・・・」

当初、伊吹とのまったりタイムを邪魔されて嫌だった事も、今は懐かしい思い出・・・・・

龍之介は少し寂しい気分になる・・・・・

(皆去って行く・・・・・)

「加瀬、餞別に何か贈るよ・・・・何がいい?」

「・・・一度だけ・・・ハグさせて・・・」

(はぁ????)

思考回路がショートした龍之介・・・・・硬直する伊吹・・・・・・

しかし・・・・彼らは瞬時に立ち直った・・・・・・

「・・・・い・・・いいよ・・・・」

龍之介が椅子から立ち上がると加瀬は彼に歩み寄り抱擁する・・・・

「龍く〜〜〜ん」

加瀬に泣きつかれて、どうしょうもない龍之介と、それを見て涙を流しつつ笑う伊吹・・・・・・

宮沢の気持ちがなんとなくわかる瞬間だった・・・・

 

 

 

「・・・・びっくりした・・・・加瀬どうしたんだ・・・」

加瀬が帰った後、夕食の膳で龍之介がつぶやく・・・

「最後に想いを遂げましたなあ」

まだ笑いが止まらない伊吹・・・・・・・

「え?」

「加瀬君。龍さんのことずっと好きやったんですよ・・・・」

「え?」

まだ気付いていない龍之介はやはり天然だった

「妬かないのか?つーか、そんな状況で・・・加瀬の気持ち知ってて、抱き合ってる俺ら笑って見てたのか?」

「加瀬君は・・・・人畜無害ですから。どこぞの誰かみたいに襲い掛かったりしませんから・・・・」

(ああ・・・)

確かにそうだ。頻繁に密室で2人っきりだったが、加瀬は何もしなかった・・・・・

「加瀬君はええ奴ですよ・・・・」

伊吹の言葉に頷く龍之介・・・・・・

無関心ですまなかったなあ・・・・とふと思った

 

なくして初めて判る大切さ・・・・

そんなものを噛み締めつつ、龍之介は一つの”戻らない時”と決別した。

 

 一つの扉が閉まれば一つの扉が開く・・・・・・

 

伊吹と一緒なら、どんな事も乗り越えていけると確信していた・・・・・

 

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