結納前後 5

 

 

7日の結納の日を迎えた・・・・

聡子の要望で略式で、吉原組で行われ、その後のお茶会。

 

「ホンマに新婚旅行、京都でええんですか?嬢さん変更するなら今のうちですよ・・・」

島津が念を押す

「京都に知り合いがいますので・・・ご挨拶がてら行きたいんです・・・」

聡子の笑顔が龍之介の心を刺す

「すみません。聡子は一度言うたら聞きませんの・・・・」

佳代子夫人も苦笑している

「龍之介君は海外に行きたいんとちがうんか?」

竹次郎は申し訳なさそうに言う

「いいえ、私も京都には思い入れがあって行きたかったんです」

「2人よう似てるなあ・・・ほんまに良縁や・・・」

深い事情を知らない竹次郎は非常に喜んでいる

それが龍之介の心を更に痛める

しかし表情は微笑をうかべたまま・・・・・・何時しかポーカーフェイスを身につけた龍之介・・・

そのしたたかさは伊吹のそれを髣髴させる

優しい美しい微笑の奥の苦悩など、誰も気付きはしないだろう。この仮面は伊吹の前だけではがれる。

 

しかし・・・・と島津は思う

本音を出せる存在があると言う事が、龍之介を強くするのだと・・・

今も彼は伊吹のいない席で、懸命に耐えている。

 

「どうぞ・・・」

聡子のたてた茶が運ばれる

 

「龍之介さん、お疲れですねえ・・・」

聡子が気を使っている

「いいえ、緊張しているんです・・・」

と、さわやかに微笑むと周囲の雰囲気は和む・・・・・

必殺 殺人微笑は健在である

「そうは見えへんなあ。若いのに堂々としたモンや・・・・」

ひたすら褒めまくりな竹次郎に、哲三は苦笑する・・・・

「竹さん・・・・・かいかぶりすぎや」

竹次郎は背が高く、容姿端麗で洗練された、この婿がお気に入りなのだ

やくざ・・・その悪いイメージのかけらも見せない上品な姿・・・・

美しさの中に垣間見える冴えた刃のような鋭利さに完全に虜になってしまった・・・・

「龍之介さんは今日のうちに東京にお帰りですか?」

聡子が時間を気にしている・・・・

「はい。あさってから学校ですから、早めに帰ろうと・・・」

「お父様、長くお引止めしてはご迷惑ですわ・・・・」

「そうか。昼食をここで食べていってもらいたかったのになあ・・・」

 

 

 

聡子のお蔭で思ったより早く退席できた龍之介は、鬼頭に帰り 荷物をまとめる・・・・

「早かったですね・・・」

伊吹も驚いて帰り支度をする

「聡子さんのお蔭ではよう帰れたんや」

島津が笑顔で答える・・・・・・

「伊吹、すぐ帰るぞ」

すでにスーツからセーターとスラックスに着替えて出てくる龍之介・・・・

「若ぼん・・・かなり疲れてるぞ・・・・」

島津が伊吹に耳打ちする

「お前が傍におらんだけで、かなりしんどそうやったぞ」

伊吹は島津を見る・・・・・・

「式までの5ヶ月間・・・頼んだぞ」

8代目修行の仕上げが待っていた・・・・・・・・

 

 

マンションに着いたのは8時過ぎ・・・・・

「風呂沸かしますか?」

「いや・・・シャワーだけして休もう」

浴室に龍之介が入ると伊吹は湯を沸かし、紅茶を入れる準備をする・・・・

伊吹には龍之介が、かなり無理をしているのがわかる。

ーこうしてだんだん組長の器になっていくんや・・・−

哲三の言葉が思い出される

哲三もこういう時期を通過したのだろう・・・・・・

茶の準備が済んだ頃、龍之介がシャワーを終えて出てくる

「紅茶どうぞ」

「ああ。飲んだら部屋で休むから・・・」

とダイニングの椅子に龍之介が腰掛けるのを確認して、伊吹も浴室に向かう

(・・・・ここが一番落ち着く)

卒業までの安息所・・・・・・・

 

 

 伊吹が寝室に入ると龍之介はすでにベッドに横になり眠っていた

 灯りを消すと伊吹も横になる・・・・

「伊吹・・・・」

気配に目覚める龍之介

「眠っててください・・・」

「いや、待ってたんだ」

と伊吹を抱き寄せる

「疲れてはるでしょ?」

「これは別腹・・」

大きく頑丈になっても、龍之介は昔の甘えん坊のま。伊吹にとっては”ぼん”なのだ・・・・

「一緒にいるだけじゃあダメなんだ・・・変か?俺?」

「いいえ・・変や無いです・・・」

にっこり笑うと龍之介に覆いかぶさりそっと口づける伊吹・・・・・

「私もそうですから・・・」

「・・・!でも・・・・カラダ目当てとかじゃあないぞ」

ぶっー

噴出してしまう伊吹・・・・・

「そうですか。残念ですねえ、私もなかなかイケてるかも・・・と思ってたんですが」

肩を揺らして大笑いの伊吹を睨みつけて、龍之介は拗ねたように言う

「イケてるどころか、反則だお前。」

「え?」

「経験無いくせに上手すぎ」

はははははは・・・・・

再び大笑いの伊吹・・・・

「龍さんも比較対象無いくせに、どの基準で上手い下手がわかるんですか」

初恋カップル・・・・

最初で最後の最愛の人と添い遂げられる事はきっと滅多に無い奇跡だろう

「わかるさ・・・・・」

龍之介は反論する・・・・・・

(3年経ってもまだ相変わらずお前にメロメロになってんだから・・・・)

 

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