終焉そして始まり 1
「鬼頭君・・・」
講義室から出てくる龍之介を薫子は呼び止める。
「薫子さ!いや、牧田教授・・・」
「後、講義無いでしょう?送ってあげるわ」
「・・・・・」
伊吹目当てにマンションに来ようとしているのでは?ふとそんな疑惑がわく・・・
「やだ〜なに沈黙してんのよ〜」
そういいつつ先頭に立って歩き出す・・・・・
「お母さんから頼まれてた婚約祝い届けようと思って。一応、世話役の藤島さんに預けるべきでしょ?」
駐車場で龍之介を振返りつつそう言う・・・・・
「あ・・・藤島さん、今日遅いの?」
「呼んだら来ます・・・・電話してマンションに来させます」
携帯を取り出す龍之介・・・・・
「いいの?仕事途中で」
「そろそろ、大阪に帰る準備で引継ぎ中なんです・・・けど、まだ5ヶ月あるし」
うん・・・・
頷きつつ、キーで車のドアを開けると龍之介を促す・・・・
助手席に座り、伊吹に電話し始める龍之介を見詰めつつ、薫子は運転席に座る。
「藤島さんとは相変わらず仲いいのねえ。電話中は昔の”可愛い龍ちゃん”の顔してたわよ」
走り出す車の中、龍之介は照れて顔を背ける・・・・・
「私も、お見合いした人と3ヶ月続いててね、結婚するかも知れない。」
「そうなんですか・・・・・いい人見つかったんですねえ」
「うん、いい人。藤島さん好きだったときは感じなかった、気軽さと親しさを感じるの。私には藤島さんは
憧れだったのよねえ・・・」
遠い恋の思い出を語るような薫子の口調に時の流れを感じる
「なんにしても、婚約おめでとう!」
「ありがとうございます・・・・」
ドアを開けると、すでに伊吹は帰ってきていて、お茶の準備をしていた
「お久しぶりです、牧田教授。」
ダイニングの椅子に腰掛ける薫子に、伊吹は紅茶を出す。
「藤島さんも・・・・」
龍之介は、薫子の向かい側、伊吹の隣に座る。
「わざわざおいでいただき、ありがとうございます」
「いいえ。本当は、母が龍之介君の伯母という立場で直接来るべきなんですが、体調をくずしていまして・・・」
婚約祝いと書かれた封筒を差し出す・・・
親族と言う立場ではあるが、嫁いだ身であるため、和子は結婚式も不参加にすると哲三は言っていた・・・
ーあいつは堅気に嫁いだから。呼ばん方がええ・・・・−
「式も組関係だけでしますんで。お気遣い無くとお伝えください」
微笑んで会釈する薫子・・・・・
伊吹を追いかけていたあの頃の薫子ではない。龍之介は時の流れを感じる
「牧田教授の婚約の際にもお祝い贈らせてもらうと組長が言てはりました。たぶん、式は遠慮して
出はらへんと思いますけど・・・・・」
やくざの組長が参席すると迷惑になると控えたのだろう・・・・
「藤島さん、私・・藤島さんが好きだったのは、憧れみたいなものだったんだと今思うんです。
アイドルの追っかけみたいなものかしら・・・今では、いい思い出ですけど。ずいぶんご迷惑おかけしましたね」
「いいえ・・・お幸せに・・・」
優しい微笑みでこたえる伊吹は、龍之介から見てもやはりいい男だった・・・・・
皆、自分の道を歩き始める。去る人・・・・来る人。
こうして一つ一つが終結して行く・・・・新しい門出のために・・・・・・
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