許嫁4

 

 

龍之介の誕生日も無事に過ぎたある午後、哲三が上京していると連絡を受けて、伊吹は島津の作業場を訪れた。

「伊吹、どうや?」

直接関わらないではいるが、聡子のことは随一島津から報告を受けている。

客室のソファーに座り、伊吹は出されたコーヒーを飲む

「龍之介に、迷いはないか?」

「全くないと言えば嘘でしょう。すみません、龍さんが揺れたんは半分は私の責任でした」

ふっー

哲三は伊吹を愛しげに見て笑う・・・・

「そりゃあ、お前も血の通うた人間や。いくら理性的や言うてもなあ、龍之介の結婚に何の感情も

抱かんちゅう訳にはいかん。が、お前が崩れたらあいつも崩れる。それは事実や。」

伊吹は笑って頷いた。

「姐さんは気ぃ聞かせてくれはるので問題ありませんし、龍さんは受け入れつつありますし・・・・」

「おい!もう姐さんかい?」

哲三は驚いて訊く

「ああ、藤島と嬢さんは同志関係結んで、藤島は早くも姐さん認定したんや」

島津は笑って言う

「同志・・・・・」

わけのわからない哲三を前に、伊吹と島津は目配せをする。

「嬢さんは、若ぼんと藤島セットで引き受けるらしいわ」

「よう判らんけど、伊吹と聡子さんの仲が悪うないんやったらええとしようか。」

「紗枝さんが引き合わせてくれたような気がするわ」

島津の一言で、哲三と伊吹は紗枝に思いを馳せる。

 

「伊吹、今度の冬休み、帰ったら両家顔合わせで年明け結納や。予定が早まったけど許してくれ。

結婚までは5ヶ月あるけど卒業後、結婚まではお前ら大阪で同居してええ。どっちみち別宅がいるから、

結婚後はお前の家になる。どうや、無駄がないやろ?」

最初の予定とは大幅に繰り上がり、卒業してまもなく結婚となった。

吉原側も聡子の年齢の事で急がれている・・・・

「こういうときはええなあ。結婚前までイロと同居なんて普通、色々言われるけど、世話役の若頭と同居というてしまえば

全然問題無しや・・・・」

島津もその提案には乗り気である

「ええんですか・・・それで?」

「これはお前の為と違て、龍之介の為にする事や。お前らの仲が上手くいかんと龍之介と聡子の仲も

上手くいかん事がわかったからな・・・・」

ふーー

伊吹はため息をつく・・・・・・

総ては自分にかかっている。

「感謝してる、お前には。あともう少し、襲名まできばってくれ。」

改まった哲三の言葉に笑いつつ伊吹は頷く

「はい。襲名後も龍さんの手、離すつもりはありませんから」

ああー

頷く哲三の顔は安堵に満ちていた。

「お前に任せとけば間違いないから。龍之介は任せっきりやった。今も、これからも、お前らが添い遂げる事だけが

ワシの望みや・・・・」

「嬢さんとおんなじこと言うなあ」

島津の笑い声を聞きつつ、伊吹は幸せだと思う。

祝福されない立場の自分にも、そうして支援者がいてくれる事・・・・・

この関係を許されていること・・・・・・

認めて同志といってくれる聡子がいること・・・・・・

 

「あ!藤島。与一ちゃんの必殺技な・・・嬢さんには言ってないから。言うたらあかんで」

”壁に耳あり”は鬼頭のトップシークレットで、京都旅行したメンバーしか知らない事実である・・・・

「結婚生活に支障が出るからな」

哲三も頷いている。

「笑い死にしはらへんでしょうねえ・・・」

苦い思い出の伊吹はふとつぶやく

「ああ、アレは100年に1回あるかないかの事件や。宮沢は”知らん振り”の訓練を最大限に受けてきて、

感情を殺す事に徹した男や、そんなヘマは・・・・・」

言いかけて哲三は昔、龍之介が襲った事件の事で宮沢が味噌汁を吹いたことを思い出した・・・・・

「まあ、龍、伊吹コンビやあるまいし・・・・ははは・・・」

「・・・・私ら・・・漫才コンビちゃいます」

 

そう言いつつ、先日のメイド騒動を宮沢が知ったら・・・・・と思う伊吹・・・・

漫才コンビの自覚はなんとなくある伊吹だった・・・・・・

 

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