許嫁 2

 

 

鬼頭商事の近くのカフェに伊吹は入る・・・・

 

「伊吹さん、お話したい事があるんです」

 

昼過ぎ、聡子からの電話を受け取った。

タクシーで近所まで来ているというので、彼はこの場所を指定した。

深い藍のアンサンブル・・・髪を結い上げた和服の女が振返る・・・・・・

「すみません・・・・」

立ち上がり頭を下げる彼女を座るよう促すと、伊吹はケーキセットをオーダーして席に着く

「お忙しい中・・・急にすみませんでした」

何時見ても、すがすがしい笑顔。紗枝といるような錯覚を受ける

「いいえ・・・それより、ここまで来られるとは。呼んでくださったら行きましたのに・・・」

「仕事の帰りに通りがかったので・・・」

「コーディネイターをされているとか」

聡子は頷く・・・・・

「映画のポスターの撮影で、着物の色あわせと着付けをしてきました。」

おとなしいタイプではあるが、人あしらいはよさそうだ・・・知れば知るほど姐としては適任である

ケーキセットが運ばれてきて、しばしの沈黙の後、聡子がつぶやくように言った・・・・

「私、ご迷惑じゃないですか?」

言葉を失う伊吹・・・・・

「お二人の関係が、私の為におかしくなったら、私なんかがどう頑張ってみたところでお二人はびくともせんと思います。けど・・・・・」

薄々感づいているのだろう・・・・・と伊吹は思った。

「気にせんといてください。気ィ使われると窮屈で。得に伊吹さん、私といるとき、笑わはらへんし・・・・」

気付かなかった・・・・

確かに、申し訳ない思いで聡子を見ていたのは事実だったが・・・・・

「すみませんでした。でも悪い感情は一切ありません」

「判ってます。負い目とか・・・感じんといて欲しいんです」

そういってコーヒーのカップを取る聡子・・・・・

「私は後から来たもんですから・・・と言っても気になりますよねえ、すみません。ただ女やという理由で私は龍之介さんと結婚します。資格は伊吹さんの100万分の1ほどもないのに」

穏やかな、優しい声と微笑みに、伊吹は言葉をなくす・・・・・

「嬢さん・・・・・」

「龍之介さんは伊吹さんのモノです。取るつもりはありません。添い遂げてください、最後まで見届けさせてください・・・・・命掛けた愛の結末を・・・・私の願いはそれだけです。欲を言うたら・・・伊吹さんが私のこと、ちょっとでも好きになってくれたらええと・・・・」

それが聡子の情熱。伊吹はそんな彼女が限りなく愛しい。

「嬢さんのことは好きです。結婚後は姐さんとして慕わせてもらいます。鬼頭の姐は嬢さんの他にはないと思うてますし・・・・」

伊吹の優しい微笑みに安心した聡子は、フォークを取りケーキを食べ始める・・・・

「私達、同志になりましょう」

少女のイタズラっぽい目が伊吹を捉える

「同志・・・・」

「恋敵でなくて、同志。鬼頭龍之介という男を愛し支えて行く同志」

「姐さん・・・・・」

思わず姐という言葉が零れた

「まだ姐じゃないわ。ねえ、龍之介さんには秘密よ。今日のことも、同志の事も」

ははははは・・・・・・

伊吹は笑う・・・・凍えたものが溶かされてゆくようだった。聡子はあたたかい・・・・・

「やっと笑ってくれた・・・・」

気にするな、苦しむなというのは無理な事だと判っている。

が・・・・

聡子は伊吹も愛している。

「私のことは気にせんといてください、ただ、龍之介さんが苦しまないよう、守ってください。」

聡子なら、立派に組を守るだろう。

「やはり・・・姐さんですよ。」

「藤島伊吹に認められたんなら、自慢していいわね。時々、こっそり会いましょうか?同志会。」

「結婚前から浮気はいけませんなあ・・・・」

「龍之介さんと伊吹さんはワンセットよ。私、両手に花 狙ってますから」

聡子とようやく自然体で会話が出来た伊吹だった。

 

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