道標 2

 

  

新学期が始まり、いつもの学生生活に戻ると 久しぶりの加瀬の姿がそこにあった。

失恋の痛手も癒えて、友達として付き合う決意をした加瀬俊彦・・・・・・

「龍君・・・背伸びてない?」

廊下を並んで歩きつつ、加瀬は龍之介を見詰める

「うん。伸びたんだ・・・」

「今更伸びるものなの?」

(知りません)

困り顔の龍之介・・・・・

「だんだんモデル系になるんじゃない?」

「モデル系?」

「ああ・・・ほら、三条先輩みたいな」

たとえがあまりよくなくて、龍之介は またあの時の悪夢を思い出す・・・・

「モデル系のやくざの組長ってどうなの?」

「スタイリッシュなやくざてのもいいんじゃないの?」

(本当?)

ふー

ため息をつく加瀬・・・・

「可愛いかった龍君がだんだん大人になっちゃう・・・でも、何かあったの?その急激な成長は何?

と言うか・・・今さら成長するなんて反則だよ」

(加瀬君もそう?)

不安な龍之介・・・・・・

「もし、僕が大人になっちゃったら・・・加瀬君、嫌いになる?」

いきなり詰め寄られて言葉に困る加瀬・・・・・

「想像つかないよ・・・龍君は可愛いものと思っていたから」

「伊吹もそうなのかなあ」

(ああ・・・・そういうことねえ)

かすかな期待も粉々に崩れ去る加瀬俊彦、食堂のドアをあけて入ると、食券を買い求め並ぶ。

龍之介は空いている席に着くと加瀬を待ちつつ、思い悩む・・・・・・

(反則なの?・・・・)

小型犬と思って飼っていた犬が、実は大型犬で大きく育ってしまい、主人に捨てられる・・・・・

そんなイメージが浮かぶ・・・・・・

(伊吹も言わないけど、がっかりしてたらどうしよう。これを契機に女に鞍替えされたら・・)

 

「龍君・・・・・」

向い側に座った加瀬が心配そうに呼びかける・・・・

「なに考えてるの?」

「ああ・・・可愛くなくなると捨てられるかなあ・・・って・・・」

(・・・・・・・・・)

言葉をなくす加瀬。

大丈夫だよ。とも・・・・そうかもねえ・・・とも言えない。何処まで男化が進むのか想像もつかないから。

「声もさあ・・・最近、風邪気味でのどの調子悪いと思ってたら・・・・変声期だったんだ」

(!遅すぎないか?)

苦笑する加瀬の目の前で落ち込む龍之介・・・・・・

「ボーイソプラノは過去のものになったんだ」

「・・・でも二十歳過ぎても、三十になっても、ボーイソプラノだとおかしいから。よかったんじゃない?」

「そうなの?」

「とにかく・・・お昼食べたら?」

と弁当の包みを指す加瀬・・・頷きつつ包みを開き、蓋を開ける龍之介

「龍君、ボーイソプラノでなくなっても、貴公子声だから大丈夫だよ。もし捨てられたら、僕のところにおいで」

どさくさにまぎれて敗者復活を夢見る加瀬であった・・・・・・

 

 

「龍さん、何か悩み事でも?」

風呂上りに、部屋にこもりっきりで机に向かう龍之介の顔を伊吹は覗き込む・・・・

「ボーイソプラノが・・・」

「は?!」

「声・・・変わったでしょう?」

気付かないくらい、微妙にだが変わったと言えば変わった

「それで?」

「もう可愛くなくなってくるよ・・・・」

何の事か判らない伊吹は言葉を失う。

「可愛くないと・・・嫌いになる?」

「・・・・私、ロリコンと違いますけど・・・」

正確にはショタだろう・・・・・・

「ホント?」

 「何日か前から変なこと言わはるなあと思ってたら・・・・背が伸びてガッシリしてきて、声変わりして・・・

それを気にしてはるんですか?」

俯いていた顔を上げて、龍之介は伊吹を見上げた。

「女の子みたいに可愛いかったから、今まではよかったけど、男みたいになったら・・・嫌われるかも・・・って」

 はぁ〜〜〜〜

長いため息をつく若頭・・・・・

「龍さんは私にとって、女の代わりと違います。たとえ、ガテン系になっても ちゅーしてあげますから

変なことに神経使わんといてください。それに・・・8代目の事考えたら、少しは男らしくなるほうがええでしょう?」

飲みそびれた食後のお茶を差し出して、伊吹は最近買ってきた椅子に腰掛ける。

「そりゃそうなんだけど・・・」

「また自信なくしてるでしょう?」

本当に・・・・

龍之介は頷く・・・自分に起こった変化について行けなくて不安なのだ・・・・

伊吹は自分のカップを取り、紅茶を飲む・・・・

「変わるという事にナーバスになっていたんだ・・・今のままが幸せだから、今のままでいたいから・・・」

「変わらないでいましょう。せめて私達だけは・・・」

そうありたいと龍之介は思う・・・そうあって欲しいと願う・・・・

机に向かって、隣り合って座ったまま、龍之介は伊吹の左手に自らの右手を置く。

人は弱いものだ・・・・信じるものが出来れば力を得、愛するものが出来れば臆病になり、

守るものを得て強くなる・・・・・・

「私的には、最近の龍さんは蛹から蝶になろうとする過程を見るようで喜びなんですけど・・・」

いずれ龍之介は日本刀のような、繊細で冷徹な、すがしい強さを身に着けるだろう・・・・・・

その隣に佇む事の出来る自分の幸せを、伊吹は感じる。

「龍さんは・・・」

と龍之介を見詰める・・・・

「その時その時が、最高に美しいです。今も、そしてこれからも」

見上げると、伊吹の優しい瞳がそこにある・・・・・龍之介はいつも、その瞳を道しるべに歩いてきた・・・

そしてこれからも・・・

恐れるまい・・・何も・・・・

この瞳が自分を導く限り道を違える事はない・・・・

この瞳を信じて今まで来た・・・・そしてこれからも・・・・・

 

 

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