発覚 1

 

 

朝の日差しにふと目覚めると、至近距離に伊吹の顔があった

「うん?」

「起きはりました?」

身支度を総て済ませた状態で、腕枕をしている伊吹をまじまじと見詰める。

「ずっと、寝顔観察してたわけ?」

にっこり・・・

滅多に見れない鬼頭組若頭のにっこり顔

「龍さんの寝顔、眺めるこの一時が至福の一時ですねえ」

一夜明けて何か変わったのか?変わっていない気がする・・・・何も

いや、確実に伊吹は龍之介の一番近くにいる。

「近くなった・・・・」

不安な、自信のない思いは消えていた。

「え?」

「ううん毎朝、寝顔観察していいからね〜部屋丸ごと、こっちに引っ越しちゃえば?」

「いえ、プライベートは必要で・・・」

「ないない〜僕達の間に、そんなもん無い」

その時、サイドテーブルの上の携帯が鳴った

「信さんからだ・・・・」

電話の向こうの島津は焦っていた・・・・・

「若ぼん、えらいこっちゃ・・・・ぼんがそっちにむかってます」

「え?大阪に帰ったんじゃあ・・・・」

「あれから引き返してきはって・・・・昨夜は何とか引きとめたんやけど、今日、朝いちで若ぼんに会うて・・・・」

通話しつつ、クローゼットを開けて服を着る龍之介。

「判った。ありがとう・・・」

横聞きして事情を把握した伊吹は、とりあえず退室を急ぐ。

が・・・・・・・・・・・・・・

遅かった・・・・・・

 

伊吹が鍵を開け、部屋を出た時、すでに合鍵でマンションに入ってきた哲三と鉢合わせた。

「伊吹・・・・」

龍之介の部屋の鍵を開ける音を、哲三は聞き逃さなかった・・・・・

「何でお前、龍之介の部屋から鍵開けて出てきたんや?」

「組長」

身づくろいが済んだ龍之介が、伊吹の後ろから現れた・・・・・

「父さん説明します」

 

 

ダイニングのテーブルに3人向かい合った・・・・

 

「昨日付けで藤島伊吹は、鬼頭組次期組長の情夫(いろ)になりました。」

あまりに堂々とまっすぐ目を見て言う龍之介に、哲三は戸惑う・・・・・

「そしたら・・・なにか?伊吹は昨日の晩、そこに泊まったんか・・・・」

と龍之介の部屋を指す・・・・・

「はい」

慌てず怯えず・・・伊吹も、これまた堂々と答えた。

「お前ら・・・何時から・・・」

「清く正しい仲を14年間保ってきて、昨晩やっと結ばれました」

(なに堂々としてるんや・・・・)

こんな修羅場にも関わらず、立派に対応するわが子に動揺する哲三・・・・・

「2人とも・・・覚悟しての事なんやな・・」

「はい。子供の遊びじゃありません。僕は責任持って伊吹を守ります」

(守る・・・か・・・)

哲三は笑う

「守りたいもんが出来た時、人は強くなる。信さんがそう言うとった。そやから、お前は そんなに変わったんか」

「変わった?」

今ようやく、紗枝と島津の言っていたことの真意を知った・・・・・・

「安心せい。反対もせんし、怒りもせんから・・・ただし龍之介、お前は嫁はもらわなあかん。ぐだぐだ言うたら承知せんぞ」

「はい。」

「伊吹・・・判ってると思うけどなあ・・・お前はもう、他の男とも、女とも付き合う事はでけへん。

龍之介が結婚しようが他に情婦(いろ)作ろうが文句なしや、痴話げんかなんか起こしたら承知せんぞ。

それが”いろ”ちゅうもんや。」

「判ってます」

哲三はため息をつく・・・・・・

「ホンマにええんか?伊吹、それで・・・」

「こうなろうが なるまいが 私は龍さんに一生を捧げるつもりでしたから。」

(そうやろう、お前はそうやろうなあ・・・・・)

「判った。龍之介の事、頼んだ。」

 

「で・・・父さん、急ぎの用があったんじゃないの?」

「ああ・・・」

と袂からロザリオを取り出す・・・・・

「紗枝の遺品や・・・箪笥の整理してたら出てきてなあ。学生時代・・・ほれ。カトリックの学校にいっとったやろ?

その頃の。お前、形見分けしてなかったから、誕生日の前に渡そうと思うてたのにうっかり忘れて・・・

引きかえしてきたら一晩中、信さんに足止めされて。こういうことやったんか。今朝も信さん、めちゃめちゃ引き止めてたから」

とため息・・・・・・

「これ・・・ネックレス?」

と首にかける龍之介・・・・・

「これはロザリオいうて、お祈りする時に使う、キリスト教の数珠みたいなモンです。首には、かけへんと聞きましたが。

最近はアクセサリーのように首にかける人も多いですけど。」

「さすが伊吹。物知り・・・」

と首からロザリオを外す龍之介・・・・・・

瑠璃の青い玉を繋げてあるロザリオは、トップの十字架の代わりにマリア様のメダイがついていた。

清楚で、それでいて芯の強い紗枝らしいロザリオだった・・・

「父さん・・・ありがとう」

 

「組長・・・朝食を・・・」

準備に立ち上がろうとする伊吹を、哲三は止める。

「いや、ええ。信さんとこに帰るわ・・・・邪魔してすまん。続きでも何でもやってくれ」

そそくさと立ち去る哲三に、唖然とする龍之介と伊吹・・・・・

 

 

嵐の後の静けさ・・・・・・・

 

「びっくりした!!!心臓飛び出るかとおもった〜」

胸をなでおろす龍之介・・・・・・

「そうですか?落ち着いてはりましたけど・・・・」

「必死だったんだよ〜 伊吹が父さんに怒られたらどうしょうかと思った。」

「怒られる事・・・してません・・・」

「でもさ、龍之介を手篭めにしたな〜とか・・・」

ふー

ため息をつく伊吹・・・・

「私は龍さんのお召しで、お夜伽にあがっただけでございます」

「大奥みたいなこと言わないで〜〜〜」

意外とふてぶてしい伊吹の態度に、龍之介はあきれる。

「総て覚悟の上ですから。それに罪とも、恥とも思うてませんから」

昔、哲三が惚れた伊吹の潔さがそこにあった。

「でも、さっきの龍さんは立派でしたよ。さすがは8代目継ぐ人です。惚れ惚れしました」

「じゃあ、惚れたついでに寝室でまったり」

言い終わらないうちに伊吹は立ち上がる・・・・

「朝飯・・・食べましょう」

「花より団子?」

龍之介はふくれる・・・・・・

「ていうか・・・・身体、大丈夫ですか?」

タマゴを割りつつ、振返る伊吹に、龍之介は首をかしげる

「大丈夫?って???」

「痛いとこありませんか?」

「・・・・・・・・ないけど・・・」

「ホンマに?」

「・・・次の日は・・・痛いものなの?」

「・・・・・経験ないから・・・・わかりません・・・」

 

(え・・・・?痛いものなの???痛くないとダメなの???)

 

「考えんと判らんようなら・・・痛くないんでしょう?」

「そう・・・だねえ・・・・」

 

日曜の朝はこうして幕をあけた・・・・・・・・

 

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