前夜 1

 

 

宮沢が哲三を迎えに来て去った後、朝食後の紅茶を飲む伊吹と龍之介。

「ぼん、今日は講義、午後からですよねえ・・・・」

「うん。伊吹は?もう出勤するの?」

「私も・・・午後から出ます。」

だるそうな伊吹を見詰めつつ、龍之介は首をかしげる・・・・

「もしかして・・・二日酔い?」

「飲めん事は無いけど、強うないんですよ・・・最近、飲んでなかったし」

(一体どれだけ飲んだんだ?)

気になる龍之介・・・・

 「じゃあ、少しだけゆっくりできるね」

「はい。明日は、やはり水族館行きますか?」

「うん。」

いよいよ誕生日・・・・

「週末だから混んでるよねえ。きっと・・・」

ちょうど土曜日。何から何まで、計算されたかのように事は運ぶ

 「土曜は講義、午前中でしょ?昼食は外食として、夕食はやはりマンション帰って・・・ですねえ」

時間はたっぷりある・・・・もてあますほどに・・・・

「食べたいモンあります?」

「お好み焼き・・・・もち入りで・・・」

誕生日にお好み焼きとは・・・・・龍之介も、ただものではない。

「プレゼントは?」

大抵”いらない”と言う言葉が返ってくる・・・・・・

「伊吹」

「え?」

「今年は藤島伊吹をもらう事にしたから。ドタキャン無しだよ。決意がくじけるから」

「20歳まで待ちませんか・・・・」

「20歳まで待ったら伊吹は30だよ。まさか・・・ギネスに挑戦してるんじゃないよねえ?」

(兄さん、またいらん事を・・・・・)

「未成年がひっかかってるの?伊吹て・・・まじめだね」

大学生に言われたくないと思う、鬼頭の若頭・・・・藤島伊吹。

「なんとなく判ったんだけど・・・伊吹は、土壇場で弱気になるんだ。僕がしっかりしないと!」

と、立ち上がりカップを洗い始める・・・・・決意した天然は何故か強い。

 

 

「意気込んではりますが・・・・総て理解の上なんですか?」

最終確認に入る伊吹。

洗い物を終えた龍之介が、手をタオルで拭きつつ、再び席に着く。

「そこなんだ。僕が一番悩んだところは・・・・愛し方は千差万別で、真似することじゃない、

必ずこうでなきゃいけない事なんてないんだ。僕達式のやり方でいい。

極端に言えば、朝まで腕枕で終わってもいいと思う。」

いつのまにそこまで行き着いたのか。大人な龍之介に感動する伊吹・・・・・・

「だから・・・負担に思わないで、行為自体が問題じゃなく、愛情が問題なんだから」

何時になく雄弁な龍之介に唖然とする伊吹・・・

(どうして、いきなりこんなに成長したんだろうか・・・・)

確かに・・・・色々試練はあったが・・・・・・・

 

 

「まあ・・・・僕としては、腕枕で終わる事だけは避けたい気がするけど・・・・」

 

最後の一言に沈没する伊吹だった・・・・・・・・・・・

 

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