前夜 2

 

 

講義の合間、龍之介は島津に電話した。

「信さん、父さんそっちにいるの?」

「大阪に帰らはりましたが・・・・なにか?」

「ううん。あんまり話せなかったなあ・・・と思って。」

「いつも若ぼんの誕生日祝ってやられへんから・・・言うて落ち込んではりましたよ」

「そう・・・」

「ぼんがもし来ても、こちらで引きとめときますから安心してデートしてください」

「え!そういう意味で電話したんじゃないよぉ〜〜」

「ああ。そうですか・・・まあ、明日はごゆっくり」

電話は切れた・・・・・・

(信さん、鋭い)

 

 

「明日ぼんの誕生日ですって?兄さん、皆でお祝いしますか?」

井上の言葉にうろたえる伊吹・・・

「いやあ、どうかな・・・」

「いきますよ・・・マンション」

え・・・・・・

顔には出ないが、かなり動揺している伊吹に井上は微笑みかける。

「あ・・今年は・・・ぼんは・・・友達と、どっか行くみたいやから・・・・」

「彼女、できたのかしら・・・」

安田女史が合いの手を入れる

「そ・・・そう・・・彼女・・・やて・・・」

「そうなんですか〜寂しいなあ」

(ほっ・・・・)

胸をなでおろす伊吹・・・・

ドタキャンなし、という龍之介の言葉を思い出す・・・・・

誰にも邪魔されず2人っきりというのは、結構疲れるものだと気付いた。

今までは何気なく2人っきりだった・・・・・

なのに

今回に限って・・・・

 

冷や汗を拭いつつ、机に向かう藤島伊吹

「兄さん、そしたら明日は兄さんはフリーですか?そやったら飲みに行きませんか?」

(どきっ!!)

一難去ってまた一難・・・・・・・・・・

「ああ・・・・・・・・・俺は運転手せなあかんから・・・」

「そうなんですか・・・・」

 

(心臓に悪いぞ・・・・)

何処か、悪さをたくらんでいる悪ガキのような気分・・・・・・寿命が縮まりそうな若頭。 

「兄さん・・・」

「あかんゆうたらあかんのや!」

目が点な井上

はっ!と我に変える伊吹・・・・・・

「・・・・・すまん・・・・考え事してて・・・・」

 

(今日の兄さんはおかしい)

コーヒーを差し出しつつ、井上は首をかしげた

 

何故か2人の行く手は前途多難だった・・・

 

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