カウントダウン 3
その日、鬼頭商事に哲三が来た
「組長!わざわざ大阪からどうされました?」
書類整理していた伊吹が立ち上がった
「龍之介の顔見るついでに、お前とも話とうてなあ・・・」
「何処か・・・行きますか?」
「いや・・・寿司でも取って、ここで飲みたいなあ」
二人だけの話・・と言う事だ・・・
「判りました。今日は残業無しで切り上げや。」
伊吹は従業員に帰宅を促す・・・・・
「ぼん呼びますか?」
「いや、2人で飲みたい」
まず、龍之介に夕食の指示をしてから寿司屋に出前をとる伊吹・・・
「井上、酒、買うて来い」
井上に買出しを言いつけて、伊吹は応接間を片付ける・・・・
「仕事混んでて散らかってますけど。」
書類をまとめて引き出しに入れ、テーブルを拭く・・・
「龍之介が一番先やったな・・・・さっき。」
「え?」
伊吹は何の事か判らないでいる。
「龍之介の晩飯が真っ先に気になるんか・・・・」
いつも、当たり前のように見過ごしていた事・・・・・
「すいません・・・」
「いや・・・感謝してる・・・」
「組長?」
「龍之介はワシに似てる・・・・ワシは意気地なしのあかんたれやった。そんなワシが今こうしていられるんは
紗枝のお蔭や。紗枝は、こんなワシでも信じてついてきてくれた。紗枝を守りたい一心でワシは頑張ってこれたんや」
寿司をつまみつつ、哲三は昔話を始める・・・・
「紗枝はな、死んだ後もワシの中に生きてる。そやから、まだまだ頑張れるんや・・・人は生きるため糧が必要や。
伊吹、頼むぞ・・・龍之介支えてやってくれ」
杯を傾けつつ、伊吹は哲三を見詰める。
組では絶対権力を握るこの人が、龍之介の事となると、とたんに弱くなる・・・
「お前の事、息子みたいに思うてる。わかるやろ?世話役とか関係無しにな、お前も大事なんや」
「組長・・・」
「借金のカタに連れてこられた、なんて思うな・・・・お前は充分、組や龍之介の為に働いてきてくれたけど、
借り返さなあかんとか思わんでええ。龍之介頼む言うたけど、お前の人生全部捧げんでもええんや・・・
嫁も貰え・・・なあ・・・」
伊吹は微笑んで、哲三の杯にに酒を注ぐ。
「好きでさせてもろうてます。組長には感謝してます」
「今まで龍之介の事にかまけて、女の一人もおらんかったんやろ・・・・」
「どんな女もぼんには敵いません。」
「ええんか・・・それで?」
伊吹は苦笑する
もし、龍之介と他人でなくなれば、哲三は反対して怒るかも知れない・・・・・
でも
龍之介が望むなら・・・・・・
それ以上に、伊吹自身が望んでいる。
(一つだけ・・・我侭きいてください。私がホンマに好きな相手と添い遂げられるよう・・・赦してください。)
譲れない・・・・
龍之介は譲れない。
「すみません・・・・・」
ソファーにもたれて眠る哲三に、伊吹は毛布をかける・・・・・・
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