恋人未満 1
「伊吹・・・今日はここにいて」
伊吹の見合い路程最後の日、夜 出て行こうとする伊吹に、龍之介は普段言わない駄々をこねた。
「見合いは断るゆうてますやろ?」
「じゃあ、行かなくていいじゃない?」
「別件で用があるんです」
「その人・・・僕より美人なんだ・・・」
(そういう事じゃあ・・・・)
「すぐ、帰りますから・・・」
「やだ!」
伊吹の腕を掴んで離さない龍之介
「ぼん!怒りますよ!」
強く言われて力なく引き下がる・・・・・
おびえた子犬のように肩を落としてうつむいている、そんな龍之介を残していくのは心配だった。
後ろ髪引かれる思いで、伊吹は部屋を出た
(もう・・・壊れるよ・・・限界だよ・・・伊吹・・・なんで怒るの?)
玄関で放心状態の龍之介
(僕をこんな状態で置いていくなんて・・・ひどいじゃない)
ヘタヘタと座り込む・・・・・
1時間・・・・・・
2時間・・・・・
もう伊吹が戻ってこない気がする・・・・・
(今まで怒ったことなんてなかったのに・・僕が・・・伊吹怒らせた・・・)
どうしてあんな、大人気無い事を言ったのか、自分でもわからない・・・・・・・
(伊吹が怒るのも当然だ・・・僕は、伊吹を自分の思い通りにしてきた。さっきだって、伊吹の都合を無視した・・・)
嫌われてもしょうがない・・・・・・
でも・・・・
謝ろう・・・・・・
夜の12時・・・マンションの駐車場に車を止めて、伊吹は傘を後部座席から取り出す。
何時しか大雨になっていた・・・・・
(遅うなったなあ・・・・)
龍之介が心配だった・・・・・
(強う言いすぎたかも)
傘を差してマンションの入り口に向かう
!!!
雨の中佇む人影・・・・・・・
「ぼん!!」
「ごめんね、いつも我侭で・・・もう・・・伊吹、帰ってこないんじゃないかと思った・・・」
「早く中に・・・・」
ずぶぬれの龍之介を連れて部屋に帰る伊吹に、龍之介を雨の中、待たせてしまった罪悪感が押し寄せる。
「風呂入ってください、風邪引きますから・・・」
上着を脱いでネクタイを外し、シャツを腕まくりした伊吹は、浴室の湯を沸かすと、うつろな龍之介を浴室に追い立てる・・・・
なんとなく自己嫌悪な伊吹・・・
龍之介が湯に浸かっている間、牛乳を温めてココアを入れる・・・・・
そして、浴室から出てきた龍之介の身体をタオルで拭き、バスローブを羽織らせる
「ココア飲んでください」
ソファーに座って、マグカップを受け取ると、龍之介は伊吹を見上げる・・・・
「怖かったよ・・・伊吹を失うのが」
「ぼんは・・・・身体が離れてたら不安なんですか?心が繋がっている事に自信ないんですか?」
「無いよ・・・自信ないよ・・・」
伊吹はドライヤーで龍之介の髪を乾かす・・・・
「私と見合いした湯川の嬢さんは、うちの若いのと恋仲やったんです。それで鬼頭と湯川に掛け合って縁談まとめて来たんです。」
「3日間それで・・・・・」
温かいココアを一口二口・・・・心もだんだん温まってきた・・・・・・
「伊吹は・・・自信・・・あるの?」
「ありません。でもぼんには自信持ってて欲しい。我侭ですか?」
「我侭だよ・・・」
ふっー
笑いつつドライヤーを片付ける
「髪乾きました。休んでください」
「抱っこ・・・」
伊吹の首筋に腕をまわす龍之介・・・
苦笑しつつ、お姫様抱っこで寝室のベッドまで行く伊吹。
(かなり精神的にまいってる・・・)
どうやってなだめて寝かそうか悩みつつ、龍之介をベットに寝かす・・・・
布団をかけて立ち上がると龍之介の腕が彼を捉えた。
「行かないで。傍にいて」
「だから・・ぼん・・」
「自信ないよ。持てないよ。何時嫌われるか、ヒヤヒヤしてるんだ・・・いつも・・」
ベッドに腰掛けて、伊吹は龍之介を抱きしめる・・・・・
(それは・・・私も同じです・・・)
声無き想いが伊吹の胸をかすめる
「伊吹・・」
一瞬・・・空気の流れが変わった・・・・・
(ヤバイ・・・)
伊吹はそんな気配に襲われた・・・・
バスローブをはだけた龍之介が伊吹の頬をなで下ろしワイシャツのボタンに手をかけた・・・
「伊吹、丸ごと・・・頂戴・・・」
外されてゆくシャツのボタン・・・・・・
伊吹は一瞬瞳を閉じると、自分のシャツのボタンを外している龍之介の手首を握る
「ぼん・・・・寂しい気持ちで、馴れ合いの関係は結んだらあきません。後悔します。今日のところは勘弁してください」
「僕じゃあ・・・・ダメなの?」
「いいえ。ぼんが平常心の時やったらなんぼでもお相手いたします。」
龍之介の乱れたバスローブを元に戻す伊吹に、龍之介は微笑む・・・・・
「ありがとう・・・でも・・・朝までここにいて・・・」
伊吹の膝を枕に龍之介は眠りについた・・・・・・
ふぅー
伊吹は冷や汗を拭う・・・・・
(まさか、ぼんに襲い掛かられるとは思わんかった・・・・)
先が思いやられた・・・・・
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