恋人未満 2

 

 

島津が大笑いした・・・・・・

陶芸家、島津信康の作業場は彼の豪快な笑い声が響き渡った・・・・

「兄さん。笑わんといてください。困ってるんですから・・・誰にもこんなこと言われへんし」

伊吹は困り果ててため息をつく・・・・

「深刻な顔で、ワシんとこに訪ねてくるから何かと思うたら・・・・」

悩み悩んで、名刺の住所を頼りに島津の作業場を訪れ、昨日の騒動を告白した伊吹は、島津に笑い飛ばされてしょげる。

長年連れ添った由布子夫人が、お茶を持ってくる・・・・

「なんか・・・面白いお話でも?」

「コイツが美少年に襲われたちゅう話や」

「え?」

微笑を残して去る、往年の美女・・・・・・・

「兄さん!」

「判った判った。誰にも言わん。しかし、若ぼんも凄いなあ・・・」

「あれで天然なんです・・・・」

「逃げ切ったお前もたいしたもんやけど」

伊吹は頬を赤らめてそっぽを向く

「そんなに安うないですよ、私の身体は。」

「そら、28年間守った鉄の貞操・・・」

「兄さん!!!」

「一目でわかるわ。それくらい」

え・・・・

愕然とする伊吹・・・・

「それって、舐められますかねえ・・・若いモンに・・・」

「いや。ワシにはわかるつーことや。誰も思いもよらんて・・・鬼頭の若頭がまだ・・・」

「兄さん!」

「大事にせぇよ・・・”初めて”は」

「兄さん!おちょくるんやったら帰りますよ!」

「すまんすまん。つい・・・そんで・・問題は何や?」

散々遊ばれた挙句の果てのボケに、伊吹は言葉をなくす・・・・・・

 

「”平常心の時に、いくらでもお相手いたします”ゆーたんやろ?お相手したれや・・・」

「いえ・・・あの時は、そう言わんと相手に失礼かと・・・・」

島津は頷く・・・・・

「据え膳、食うて貰えんかった時の情けなさは無いからなあ・・・」

「そこなんです」

「若ぼん 傷付けたんやないか・・・と?」

「デリケートな問題やないですか?」

(おもろい奴やな・・・・)

笑いをこらえて茶をすする島津。

「で・・・今日の朝の若ぼんの様子は?」

「いつもと変わりませんでした」

「そやったらええやん・・・・」

「記憶に無いんでしょうか?」

「聞いてみたら?」

「それがでけへんから、こうしてここに来てるんでしょう?」

「ワシにわかるかい・・・」

フリーズする伊吹。あきれる島津。

気まずい空気が流れる・・・・・

昔から、何でもこなしていた器用な伊吹・・・・一見、エリートに見える彼は、余計なところで繊細で弱気だ・・・

そんなへタレな部分を知っているのは多分、島津だけ。

そんな伊吹だからこそ、龍之介の世話が出来たんだろう・・・・と思う・・・

 

「・・・・・時間の問題やなあ。お前と若ぼん・・・・」

「そうですか・・・それでええんですか・・」

「お前はどうなんや?」

この若頭は、龍之介の事となると、とたんに自分の意思をなくす。無条件に龍之介の意思に従うのが日常だった。

「それは・・・ぼんの為になるんですか?」

「それが・・・心配なんか・・・」

「はい」

(やれやれ・・・)

「お前・・・かなり自信ないなあ・・・特に若ぼんに対して。欲しがってるんやから、くれてやれ。それともまだ守る気か?」

「兄さん・・・」

(私をおちょくって面白いですか・・・)

「男同士がひっかかるか?」

「はい。」

「お前らは男、女、関係無しに、人同士で惹かれてるんやから、気にするな」

(そんなもんですか・・・)

自分の悩みがなんだかばかばかしく思えてくる伊吹だった・・・・・・

 

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