誘惑 3 

 

 

 

学食で、加瀬と昼食をとっている時。龍之介はふと思いついたように尋ねた。

「夏休みは大阪に帰るの?」

「うん。寮は夏休み中は閉鎖されるから・・・帰るとき一緒に帰ろうか?」

「うん・・・こっちにいたいなあ・・・」

「どうして?」

「伊吹が・・・・仕事で帰らないって言うから・・・」

「龍君!前から訊こうと思ってたんだけど・・・・藤島さんとはどういう関係なの?」

「保護者・・・・」

「どう思ってるの?」

え!?

追求されて俯く龍之介に加瀬は焦る・・・

(何?恥らうような仲なのか?!)

「オヤジさん待ってるんじゃないの?」

「そうだね・・・」

「一緒に帰ろう?」

「考えとく・・・」

7月に入ると夏休みのことで気がそぞろになる学生達・・・・・

 

加瀬も、今年こそは龍之介と旅行にでも行って、思い出を作りたいとはりきっていた・・・・

が・・・・

気の無い返事をされてしまった・・・・

 

「ねえ・・・・藤島さんと二人暮らしってどんな感じ?」

「え?別に・・・・大阪にいたときと変わんないよ」

「そう・・・」

(よかった・・・・・)

何故か安心してしまう加瀬俊彦

「ねえ・・・加瀬の妹ってさあ・・・・女の子なのに・・・男同士の漫画描いてるの何で?」

(ドキッ!)

確かに・・・・妹は同人活動している・・・・が・・・あの本は加瀬自身が読むために部屋に存在していたのだ・・・

「何でと言われても・・・」

「男同士の恋愛は・・・ああいうモンなの?」

「龍君・・・関心あるの?もしかして?」

「無いよ・・・別に・・・」

弁当をしまって立ち上がる龍之介

「藤島さんとは・・・何でもないんだよねえ?」

「うん・・・」

うつろに立ち去る龍之介は、複雑な気持ちを内包していた・・・・

 

 

夕食後ソファーでぼーっとしている龍之介・・・・・

ダイニングで遠巻きに見守る伊吹・・・・

躁鬱気味なこのごろの龍之介・・・・・調子がよかったり悪かったり・・・・変動が激しい・・・

 

(どう思ってるか?伊吹の事?・・・好きとか大事な人じゃあいけないのかなあ・・・)

 

安田女史に、そっとしとくようにと言われた伊吹は、ただただ見守る

 

(結論なんて出さなくていいって伊吹は言ったんだ・・・・自然体でいいって・・・)

龍之介の百面相を見詰める伊吹。

怪我して血が出た伊吹の指を舐めたり、突然大人びて伊吹を慰労したり、そうかと思えば一人悶々したり・・・・・

最近の龍之介は忙しい

(自分と向き合うのはいいことだけど・・・)

伊吹は紅茶を入れて持ってゆく・・・・・・

 

「ぼん、お茶です」

「ねえ・・・夏休み・・・ここにいちゃあダメ?」

「組長・・・待ってはりますよ・・・」

「伊吹と離れるの嫌だ」

(またそういう我侭を・・・・)

「気まずかったんと違うんですか?距離置いたほうがいいこともありますよ・・・」

「気まずくて、意識して、ドキドキしても・・・・そのドキドキがないとダメなんだ。」

「え?」

「ドキドキしていたい」

(何で・・・・恋する乙女になるんですか・・・!!!て?恋?)

自らの乙女発言に固まる伊吹・・・・・

「擬似恋愛なんですか?」

「そうなの?」

「さあ・・・・」

そういうことには、とんと疎い藤島伊吹・・・・・・

「伊吹は・・・そういうこと無かった?あったら、そういう時どうしてた?」

「その頃はもう、組の仕事に追われてて、そこに意識がどっぷりつかる事は無かったし・・・」

(え?)

龍之介は顔を上げる。

「そういう経験あったんだ〜意外だなあ・・・」

(え!)

墓穴を掘ったことに気付く伊吹・・・・・

「深く考えない事かな・・・」

「そうですねえ・・・」

笑って誤魔化す伊吹・・・・・

「今も・・・ドキドキある?」

(うっ)

龍之介の問いに答えを詰まらせる伊吹。

思えば、あの頃よりも今がドキドキなのか、ヒヤヒヤなのか判らない日々を送っている・・・・

隣に座っている伊吹の膝に頭を置き、龍之介はソファーに横になる・・・・

「膝枕はまったりなんだ・・・」

(どさくさにまぎれて・・・・まったりしてる!)

あきれる伊吹の顔を下から覗き込む龍之介

「どんな時に・・・・ドキドキなんですか?」

話のついでに訊いて見る・・・・

「う〜〜ん・・・・伊吹が不意に頭なでなでした時とか・・ほっぺた撫でた時とか・・・ちゅーはおでこもお口も・・・」

真剣に恥ずかしげも無く真面目に答える龍之介に脅威を覚えつつ伊吹はヒヤヒヤしている・・・

(それは・・・俺の煩悩の表れが、ぼんに悟られてるのでは・・・)

「判りました・・・気をつけます」

「するなって事じゃないよぉ〜」

「しろってことですか?」

「ううん・・・ただ・・・三条にそんなことされたら気持ち悪いのに、何で伊吹とは平気なのかな〜って・・・」

「母代わりですから・・・」

「え〜お母さんになでなでされてドキドキしないよぉ〜」

(そこを突っ込まれると・・・・)

「だからさぁ〜僕たちは・・・・母子でも保護者関係でもないんだよ・・・きっと・・・」

「つまり・・・・・さっきからそのことを考えてはったんですね・・・・」

「加瀬に伊吹との関係を聞かれて・・・なんだろうって・・・・」

「接近しすぎなんですかねえ・・・・」

独り言のようにボソッという・・・・・

「距離を置くとか言わないでよ?」

いきなり起き上がり、伊吹に詰め寄る龍之介・・・・・

「もう・・・・ぼんのお好きにしてください」

投げやりな伊吹の言葉を訊くなり、龍之介は自分の唇を伊吹の唇に押し当てた。

「!ぼん!」

怯える伊吹、殺人微笑を放つ龍之介・・・・・・

「好きにしていいって言ったから〜こういう手があったんだよなあ・・・ちゅーしてって言わないで自分からすればいいんだ〜」

「私の身体を好きにしろとは言ってませんよ!」

 悲鳴に近い伊吹の叫び・・・・・悩んでいるのか、ふざけているのか判らない天然誘惑者、龍之介はにっこり笑う・・・・・

 

               TOP   NEXT 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system