追憶ー伊吹編ー2

 

 

「伊吹のお母さん、どこにいるの?」

龍之介が7歳のころ、伊吹は寝る前に本を読んでやっていた。

その時、布団の中で、龍之介はふとそんな事を訊いてきた。

「何処にいるかわかりません。私は親に捨てられましたから・・・」

「じゃあ、伊吹のお母さんに僕ありがとうって言おう。捨てられなかったら伊吹は僕んちにこれなかったんだもの」

「ぼんは・・・私が好きですか?」

「うん。大好きだよ。伊吹がいてくれなかったら僕は一人ぼっちになるよ。何処にも行かないでね。」

「ぼんは一人と違います。私がおりますさかい・・・・」

「お母さんが迎えに来ても行かない?」

「私は親を捨てました。私にはぼんだけです。」

龍之介が自立すれば、自分は不要だろう・・・その時は潔く身を引く覚悟だった。

ただ、組長になった龍之介の横で、右腕として仕えていれれば、それでいいと・・・・・

 

高校までは出してもらえた。後は、組の仕事を手伝い始め、相変わらず空いた時間は龍之介に費やした。

学校の送り迎え・・・入学式、卒業式・・・・・・・兄という名目ですべてこなした。

哲三も”龍之介は伊吹に任せた”と公言していた。

伊吹は、借金のカタに雇われた自分の任務を完璧にこなしてきた。

女手が無い時は、皆の食事を作り、掃除洗濯もこなした。

”何でも出来る便利なヤツ” になり・・・”龍之介の世話役は藤島以外ではダメ”と言われ

若頭になった時は”いなくてはならない人”となった。

自らの位置を確保した彼は、もう捨てられる存在ではなかった。

その自分が・・・今、組を離れてここにいる。

鬼頭商事の東京支店、支店長と言う役を申し付けられてきたので、完全に組を離れたわけではないが。

そこは哲三が時々行き来し、電話連絡で秘書に指示を出しつつ、経営してきたものであった。

ーちょうどええわ・・・・あそこ任したー

と、あっさり委任状を渡された・・・・時々顔を出せばすむ。ずっといなくてもいい、それが魅力だった。

とにかく、伊吹は20歳までに龍之介を一人前の男に育てると決意していた。

組長に相応しい貫禄を身に付けさせようと。

 

龍之介は幸い頭脳明晰だった。生活力だけでも身につけば何とかなるはず・・・・

大学時代の4年で、次期組長の器に作り上げること・・・・

 

実は・・・・今まで甘やかして来たことが、かなり後悔な伊吹であった。

(あの笑顔は犯罪や・・・)

しかし、まっすぐに育っていると思う。極道の家に生まれたにしては・・・・

素直で正直、そして天然・・・・・グレたことなど一度も無い・・・・・

(やくざには必要なさそうな性格ではあるが・・・・・)

 

名門のF大に進学を勧められた事を哲三に報告すると、彼は喜んだ。

ー極道も今や、学が必要や、学歴無いと舐められる・・・・F大送るぞー

姪の薫子が教授として、F大にいることは願ったり叶ったりだった。

が・・・・・

龍之介は東京行きをためらっていた

「伊吹と一緒でなきゃいやだ」

と言う龍之介を、哲三と伊吹は説得して送ったのだ

 

 

が・・・・・

 

先に折れたのは伊吹・・・・・・・・・

 

龍之介なしでは生きていけない事を自覚した。

この感情が何なのか判らない。確かなのは、大事な人だと言う事。

 

それだけで、いいような気がした・・・・・

龍之介の笑顔が見れるのなら、それでいい気がした・・・・・

 

  

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