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「なんか、雰囲気が変わったね?甲斐さんと忠さん」

ルナ・モルフォの忠の部屋で、支倉の内情報告をしていた玲二が、ふとそうつぶやいた。

「和真と武田さんが急接近始めたら、いきなり、こちらも・・・って事?」

甲斐からコーヒーを受け取りながら玲二は髪をかきあげる。

「何の事だ、甲斐とはお前が来る前から・・・」

テーブルを挟んで、玲二の向かいのソファーに座っている忠がカップを持ち上げる。

「僕より前にお二人がセフレだった事は勿論知ってるよ。で、いつから恋人になっちゃったの?」

あまりにストレートな表現に反論の言葉さえ出ないまま、甲斐は自分のカップを手に、静かに忠の隣に腰掛けた。

「玲二、俺と甲斐がセフレだったという事実はない。勘違いするな」

「へえ〜意外だな、じゃああれ?忠さんが甲斐さんをヘッドハンティングした時の報酬として、身体を与えてご奉仕していた?」

ぶっー甲斐は飲んでいコーヒーをうっかり吹き出してしまった。どんな事にも動揺せず、いつもクールな甲斐が大きく動揺している様に

隣の忠も驚いた。

「おい、ちゃんと拭けよ・・・ほら」

内ポケットからハンカチを取り出し甲斐に渡しながら、忠は口元が緩む。そんなつもりで甲斐を呼び寄せ、同棲していたわけでは無かったが

結果的には、そうなってしまった事は否めない。

ハンカチを忠から受け取り、慌ててあちこち拭いている甲斐は、もう顔を上げられないでいた。

「それは、お前の勘違いだ。俺と甲斐は元々相思相愛だった、ただ確信が持てなかっただけで・・・」

これもまた真実である。忠の言葉に救われ、甲斐はようやく平常心を取り戻した。

「いいねえ〜それ、なんか少女漫画みたいで。僕はてっきり官能小説かと・・・・あ、あちらはいきなりアダルト路線行っちゃったけど

まさか、こんなに上手くいくとは思わなかった。武田さんの8年間の純情も、和真の鉄の純潔も簡単に崩壊しました〜」

誇らしげに報告する玲二の目の前で、忠も甲斐もフリーズしてしまった。余りにもダイレクトなその報告は、和真と史朗が一線を超えたと

いう事実を明確にしてはいたが、何がどうなって、そこに至ったのか皆目検討がつかないのだ。

「支倉の創立記念パーティーで酔っ払った社長を、庶務課の武田さんが家まで送り、そこで、過ちを犯してしまう・・・」

忠と甲斐は眉間に皺を寄せた。ますますどういう事なのか分からない、確かに、和真は酒に弱いので、社員の誰かが彼を送って行く事は

予想できる。それが、パーティーの雑用に追われ、酒を飲む事なく動いていた庶務課の史朗だったとしても違和感はない。

しかし、和真を家に送った史朗が何故、自分の会社の社長といきなり、そんな過ちを犯すのか?

甲斐は自信を持って主張出来る、史朗は甲斐が去り、8年たっても甲斐を想い続け、新しい恋人さえ作ることなく甲斐を想い続けていたのだ。

そんな史朗が、それほど面識のない和真と一夜を共にするはずはない。

「はあ・・・甲斐さん信じられないって顔だね。そうだよね〜武田さんは8年も甲斐さんに操立ててたんだもの。でも、8年だよ?8年も

男が自家発電だけで暮らしてて、うっかり魔がさす事もあるでしょ?」

無いだろ・・・無言の反論を忠と甲斐はする。相手は和真だ、結婚していたのにも関わらず、妻には指一本触れていなかった童貞だ、女と

した事もない男が、男に手を出せるはずがないではないか。

史朗は・・・というと、甲斐がよく知っている。男を襲う、または誘惑する、そんな技術を持ってはいない。そこまで積極的でも

大らかでもない。女で例えるなら、可憐な乙女なのだ。

ふふっー 玲二は笑う。

「忠さんたちが何を考えているか分かるよ、武田さんは確かに襲い受けでは無い。でもさ、和真に懐かれたら?擦り寄られて、8年も

男に飢えてて、つい、情欲に負けたら?相手は酔っ払ってる。そう、和真なんて武田さんどころじゃないんだよ?未経験・・・

ほとんど魔法使いの一歩手前・・・そんな飢えきった男が2人いたら?まあ、和真の方は酔っていてもハードル高そうだから、一服盛ったけど」

この玲二節は、忠にも甲斐にも拷問でしかなかった。互いの大事な人を貶め、辱め・・・堕落させた、玲二はその元凶の悪魔なのだ。

「あ、引かないでくれます?こっちも必死なんですよ?そうでもしなきゃ、あの2人永久に平行線なんだから」

それは分かる、それくらいの荒治療が必要なのは・・・しかし、もっと柔らかい言い方はないものか・・・

「武田さんは事情を明かすことができずに、何もなかったと言ってます。和真は・・・覚えてないらしくて・・・でもそれから超〜意識し出したのは

事実で勿論、武田さんも罪の意識から休日は社長を家に招いて夕食をご馳走しています。もうこれ、すぐ同棲するよね」

思いのほか早い進展に、忠も甲斐も何も言えない。よくやったと褒めるべきではないか・・・

「忠さん、さすがだね、あの2人は相性抜群だよ。甘えて擦り寄るワンコな社長に、包容力抜群の年上社員。和真さえ目覚めれば、盛りまくり

で超ラブラブになるよ」

「それは・・・よかったな・・・」

忠は笑顔が引きつっていた。

「確認のために和真のところに盗聴器仕掛けたんだけど、録った音聞く?音だけだけど、完璧に合体してるのわかるし、つーか超エロいよ」

「盗聴はやめなさい。犯罪だから」

忠の方が怒りに震えていた。やはりこいつは異常だと甲斐は玲二の性癖を確信し、この事は記憶の奥底に封印することにした。

「もう外したよ、だってほっておいても2人はくっつくから。だってあんなに激しく交わって、あれっきりはないね、記憶はなくても

体は覚えてるからね。でも、ねえ、甲斐さん武田さんってそんなに名器なの?」

完全に沈没してしまった甲斐を横目に、忠は腕を組み、玲二を見つめる。

「お前には更なる教育的指導を要する。で、支倉では、その性癖隠してるんだろうな?」

「うん、爽やかで可愛い、優秀な秘書やってる〜」

しかし、何らかの目的を持ち、仕事に打ち込む事で玲二は今までの爛れた生活とは決別できたようだ。元は頭脳明晰で優秀な男なのだ。

「下のレストランで夕食を食っていけ、今日は特別に志月が来る事になってる。久しぶりに世間話でもしろ、あ、個室を予約したから

深田の関係者には見つかるなよ。入る時も、出る時も時間をおいて別々だ」

志月の名を聞いて玲二の顔はパッと明るくなる。玲二にとって志月は唯一の聖域であり、癒しである。

「ホント?もう行くね〜じゃあ、もう邪魔しないから甲斐さんとイチャついていいよ〜」

スキップで部屋を出る玲二の後ろ姿を見つめつつ、甲斐はため息をつく。

「玲二は気づいてないんですよね?志月嬢が男だって・・・」

「ああ、恋愛対象外だな今のところ、でもあいつの心の拠り所なんだ。おまけに志月の方はめちゃめちゃ惚れてる。その内

あの2人も上手くいくはずだ。そして志月が傍にいれば、玲二は何の心配もない。志月は玲二の良心なんだ」

甲斐は忠から志月の事情を聞かされ、最近では秘書として、参謀として、志月と忠の秘密の会議にも居合わせるようになった。

そしてようやく、玲二の事も、忠が彼にしようとしている事も理解できるようになった。それからだろうか・・・もう、玲二と忠の事を

嫉妬したり、志月と忠の事を嫉妬する事もなくなった。

和真と史朗、玲二と志月、それぞれの恋人たちの運命が動き出している。それを忠と自分が見届ける・・・

今の立ち位置は、なかなか悪くないと思う。

「あんまり、ショック受けるなよ?」

心配して甲斐の顔を覗き込む忠を、余裕の笑みで見つめ返す甲斐は、立ち直りが早い。

「大丈夫ですよ、忠さんがいてくれるから。今から慰めてくれるでしょ?」

甲斐は身体の向きを変えて忠を抱きしめる。

「もしかして和真と武田の事聞いて、興奮した?お前、武田と関係あったから、色々想像しただろ?」

甲斐の背に腕をまわして忠はそっとくちづける。

「いいえ、ずっと玲二が出て行ったら、忠さんにシてもらう事ばかり考えてました。まあ、確かに元恋人と若社長の情事なんて

色んな意味で、衝撃的で刺激ありますけど」

「・・・変態だな・・・」

そっと甲斐の背を指でなぞると、忠は熱を帯びた視線で甲斐を覗き込む。

「違いま・・・っはあ・・」

「ああ、違った、淫乱・・・だったか。背中だけでこんなに悶えるのアリか?仕事中に、ついうっかり他の奴に背中押されても、お前は

腰砕けるのか?危なくて一人で置いとけないな」

そう言いながらも、這いまわすように手のひらでねっとりと甲斐の背をまさぐる忠に甲斐は強くしがみついた。

「今までこんなところを嬲る人いませんでしたから、分かりませんよ。忠さんの方が変態じゃないんですか?」

ははは・・・笑いを漏らしながら忠は、今まで甲斐の背中を遠くから眺めていた自分に気付く。襟足からのびるうなじ、その下のシャープな

肩のライン、そして滑らかな背筋と細い腰・・・

「確かに、お前の背中が好きだった、ずっと見てたかもな。後ろから抱きしめたい衝動に駆られてた」

「意外ですね、あの松田さんが俺を視姦してたなんて・・・支倉の社員は驚くだろうな〜松田部長がエロいとか・・・」

そんな憎まれ口を叩きつつ、忠のスラックスのベルトに手をかけている甲斐に苦笑しながら、忠は弁解する。

「視姦とかないから、綺麗な背中に見とれてただけだ」

「嘘、腰掴んで後ろからガンガン突いてみたい・・・とか」

「無いよ、お前の脳内がエロいんだ・・・伝説のあの甲斐が、社長のスラックスからブツ取り出して嬲ってるなんていう方が驚くぞ〜」

密着した上体の下方で、もそもそと手を動かしていた甲斐がふと顔を上げる。

「気づかれちゃいました?」

「気づくわ!」

危機を感じて、甲斐を自分から引き離そうとする忠、忠から離れまいと必死に腰にしがみつく甲斐・・・いきなり形成逆転・・・と言うか

甲斐の方が上手だったとも言う。

「ですよね〜もうこんなに膨張してるんだから、忠さんが背中嬲るからいけないんですよ?本当にそこ、ヤバいんですから責任とって

下さいよ、とりあえず、一回ヤってから・・・」

でないと甲斐が落ち着きそうに無いので、忠も心を決めてネクタイを緩めて抜き取り、上着を脱いでソファーの肘掛にかける。

その間、甲斐はワイシャツだけを残して全て脱ぎ去っていた。

「準備早いな、そんなに切羽詰まってるのか」

自分をからかう忠の言葉を華麗にスルーして甲斐は不敵に微笑む。

「忠さんの妄想の通りに、後ろから抱きしめてガンガン突いていいですよ」

(いや、それ、お前の妄想だから・・・)

反論する気力も無くなり、忠は背を向けてテーブルに手を突いて屈む甲斐に近づき、抱きしめた。

否定してはいたが、史朗の事を聞かされて甲斐がヤケを起こしているようにも思え、忠は戸惑う。しかし、こうする事が甲斐にとって

鎮痛剤の代わりになるのなら、忠は与えるしかないのだ。

少しづつ排除されてゆく心のわだかまりに、安堵しながらもしかし、まだ甲斐の中にしこりのように残る史朗への感情を持て余して

忠も、甲斐自身も何かに焦り続け、もがいている。その表面に現れた、この痴態に意味があるかどうかは分からないが、忠は甲斐の

望むものを与え続ける。そしてずっと傍にいると誓ったのだ。

焦れた甲斐の手に導かれて、忠は甲斐の後孔に侵入する。それは誰かが来るのを待ち続けていたように、すんなりと迎え入れながら、しかし

もう逃がしはしないとばかりに締めつけ、すがりつく。

捕まえたと思えば、するりと逃げ、逃げたと思えば、ひらひらとその肩に止まる気まぐれな蝶のようにつかみどころの無いこの愛しい人を

忠はただ、開放してやりたかった。

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