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しばらく、ゆっくりと中を掻き回すように蠢いていた和真は、だんだん速度を速めて、それと同時に右手を

史朗の下腹部にまわした。

「お前も、限界近いな・・・でもまだだぞ・・・」

手と腰を同じ速度で動かしながら、一気に上り詰めようと集中する。

「和真さん・・・もう、ダメです・・・」

史朗が和真の手の中で果て、その時の締まりで和真も史朗の中で果てた。折り重なったまま、崩折れ和真は

息を整える。

「史朗、なにこの締まり・・・超凄すぎるんだけど・・・」

そう言われても、史朗には自覚がない。

「そう言われても自分ではわかりませんよ。またシャワーして、戻らないとですね・・・」

ころりと和真の下から抜け出し、史朗は和真を抱きしめた。なんだかとても和真が愛おしく思える。

「なんかもう、仕事したくなくなるなあ」

史朗を引き寄せて和真はため息をつく。

「ダメですよ」

こうしてくっついていると、また和真の分身が回復するかもしれないので、史朗はするりと抜け出してシャワー室に

向かった。

「え〜1回だけなの?」

「時間ありませんから」

欲情を収めるどころか、引き出してしまったような気がしながら史朗はシャワー室のドアを開ける。

繋がる前より繋がった後の方が、身体が辛い事に気づいた。甲斐といた頃から感じてはいたが史朗は余韻が

いつまでも残る質で、終わってもしばらくぼうっとしてしまうので、仕事の合間の息抜きの逢瀬は無理なのだ。

冷たい水を浴びて、とりあえず、まだ熱を持っている身体を押さえ込もうとする。バスローブに身を包みシャワー室を出ると

入れ違いに和真が入って来た、言葉とは裏腹に、和真はもう、社長の顔になっていて、先ほどの情事の熱を引きずってはいない。

頼もしい想いと寂しい想いが入り交じる中で史朗は身支度をする、念入りに髪の乱れ、服の乱れ、そして、首筋の痕跡までも

チェックした後、和真のネクタイを結んでやる。

「あれ?なんで後ろから手まわして結ぶんだ?」

後ろから抱き抱えるような形で、和真のネクタイ結ぶ史朗に首をかしげる和真・・・

「向かい合わせでは結べないんですよ、いつも自分のしか結んだ事ないから」

「なに、それって相手のワイシャツのボタンも外せないんじゃないか?」

あ・・・ばれたか・・・そんな史朗のリアクションを和真は見逃さない。

「だって、向かい合うと合わせが逆で・・・」

「つーか、いつも脱がされてたってとこか・・・」

上着を着ながらつぶやいた和真の言葉に、史朗は食ってかかる。

「いいえ、女物の服は合わせが逆なので外せます」

「つーか、結構不器用なの?」

ドレッサーをのぞきながら髪の乱れをなおしつつ、さらりと攻撃した和真を、史朗は睨みつけながら、書類カバンを手に和真の後ろに立つ。

「そうですね、社長ほど器用じゃありませんね。どうして、なんの経験もなしに、あんなに上手に色々できるんですか?」

はあぁ?怪訝な顔で振り返り、カードキーを手に和真はドアに向かう。

「俺が上手に何をしたと言うんだ?」

キスとか、舌技とか・・・心で呟きつつ、史朗は和真の後ろをついて廊下を歩く。

「ああ〜力出てきた〜午後からも頑張るぞ」

リフレッシュした和真は生き生きとしている、その後ろを未だに身体の熱を持て余して、悶々としている史朗がついて歩く。

1階のロビーで支配人と話していた甲斐が、和真と史朗に気づいて近づいてきた。

「支倉社長、当ホテルのご利用、感謝致します。今後とも公私ともにご活用ください」

昔と変わらない、穏やかで堂々とした風貌と、どこかはかなげな艶を併せ持つ、史朗の元上司であり、恋人であった男を前に、和真は

顔を強ばらせる。どこをどう見ても、甲斐には敵わない気がした。後ろの史朗を振り返ると、どこかそわそわしている。

「社長は私用で外出中でなので、私が代わりにご挨拶にうかがいました」

和真は忠の腹違いの弟なのだから、一応は松田ファミリーの一員である。いや、本来は忠が支倉ファミリーの一員というべきだろうか。

「お気遣いありがとうございます。兄によろしくお伝えください」

なるべく甲斐と目を合わせないように、和真の後ろで避けていた史朗は、和真のその言葉の後で甲斐が自分に近づいてくる気配を

感じて身を強ばらせる。

「秘書の武田さん、お久しぶりです。その節は色々と申し訳ありませんでした。改めて二人だけでお話ができればと思うのですが」

え、史朗は顔を上げた。今まで史朗から遠ざかって姿を現さなかった甲斐が、今姿を現し、さらに史朗との接触を望んできたのだ。

これは、完全な甲斐との終焉、別離を意味するだろう。しかし、史朗は少しも動揺していない自分を感じた。

甲斐を自分の中で吹っ切った今、ちゃんとけじめをつけるために会って話すのもいいかと思えた。

「分かりました、私はいつでも・・・」

そう言って自分の名刺を渡す。社長秘書の肩書きの名刺を・・・

ではと去っていく甲斐を史朗はようやく凝視した。まともに目を合わせられずにいたのは、先程までの和真との情事の痕跡が

自分の顔に出ているかもしれないと思ったからだ。昔、他人には見せることのない全てをさらけ出した甲斐にはバレてしまうという

自信があった。恐らく甲斐も、史朗と和真の仲はもう知っているだろう。が、昼間、客室から熱を帯びた表情で、和真と出てきた

などという生々しい光景は見せたくなかった。若い恋人ができて、色ボケしている自分を晒すようで、顔から火が出るほど

恥ずかしい。

「武田?ぎこちないな・・・」

歩き出した和真に追いつきながら、史朗は苦笑する。

「社長が羨ましいですよ。あんなことの後すぐ、醒めて何事もなかったかのような顔でいられるんですから。私は体の奥の

まだ冷めない熱を悟られないかとビクビクしてました」

チラと和真は史朗を見つめ、微笑んだ。

「お前可愛いな〜普段クールなのに、閨に関しては超過敏で初心だ」

「からかわないでくださいよ」

拗ねるように赤面する史朗に和真は囁く。

「さっきまで社長とイケナイ事してましたって、顔に書いてあるぞ?そのまま社に帰る気か?」

「社長、もう二度と勤務中に、こういうことはしませんからね!」

小声でそう叱ると、史朗は携帯を取り出し、運転手に連絡してホテルの玄関に車をまわさせる。

「え〜そんな〜」

「そんな〜じゃありません。大体、勤務時間を私的に使う事自体、NGじゃないですか」

「それ、武田も共犯だし・・・」

「しりませんよ」

と史朗は、やってきた社の車に乗り込む。

「ところで、甲斐から連絡きたら会うのか?」

車に乗り込んでしばらくすると和真はふと、思い出したように訊いた。

「はい、けじめをしっかりつけたいので」

和真が心配している事は百も承知だ。しかし、史朗はもう、甲斐への思いを断ち切ったという自信がある。

そして、恐らく、甲斐には最後に史朗に伝えなければならない何かがあるのだと、確信していた。

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