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「玲二君、もうイカせてあげるよ」

熱く火照った陰茎を擦ると同時に、親指で先端をそっとなでてやると、玲二の中がきゅんと締まる。その締め付けに志月は身を硬くする。

擦れば擦るほど強くなる締め付けに、志月の限界が訪れた。

「玲二君そんなに締め付けたら・・・」

「志月さん、僕ももう・・・」

とっさに玲二は、自分のモノを掴んでいる志月の手に自分の手を添えて、放出された自らの精を受け止めた。志月はその時の玲二の

締め付けでほぼ同時に達した。そして二人、ベッドに倒れこむ。

「一緒に暮らしたい。そうすれば朝まで一緒にいられるのに」

志月の胸の中で、玲二はそうつぶやいた。それが玲二の本音だ。しかし、世間体がある、その願いは叶わない事は知っている。

「せめて、お隣り同士にでもなりますか?私は深田の屋敷を出ようかと思うのですが・・・」

志月が一人で住むには、あの屋敷は広すぎた。と言って売りさばくわけには、いかない、玲二曰く、敷地内に白骨死体が2.3体は

あるらしい。他人に渡して、もしそれが出てこようものなら大事だ。何年か前から深田家は、少しづつ使用人に暇を出し、減らしてきた。

ご維新の頃は、深田家は伯爵だったとか言うが、それももう遠い昔。気位ばかり高くて、落ちぶれてしまっていると噂されている家を

なんとか保とうと志月は必死だ。

「澤村の叔父上に、屋敷は管理していただこうと思うのです」

今回の事で、ナルシス・ノアールの株主でもあり、社の重役でもある母方の叔父に当たる澤村には世話になっていた。いや、もっと前

志月が生まれた時に、両親とともに、志月を娘と偽って育てる事を企てた立役者でもある。なので高次の性癖や悪行は良く知るところで

深田の家と、ナルシス・ノアールを守るために高次を社長の座から引きずり落とす事を画策したのも彼だった。志月にとっては屋敷は

高次が少年たちを監禁して陵辱していた忌まわしい思い出しかなく、早々に出る事を望んでいたのだ。

「いいの?それで」

「私や玲二君にとっては嫌な思いでしかないじゃありませんか、あそこは。それより、玲二君のご近所に住めたらと思うのですが」

そう言いつつ、起き上がると、志月は身づくろいをはじめる。背を向けて、服を着始める志月の背中を見つめつつ、玲二は脱ぎかけの

シャツを脱ぎ、バスローブを羽織る。

「実は私が、部屋を探していると聞いて忠さんが紹介してくださった物件があるんですよ」

そういいながら志月は身支度を整えて、ソファーに座る。玲二はコーヒーを入れて、志月に差し出すと隣に腰掛けた。

「それって、もしかしてレテノール?」

「そうです。モルフォグループが今度開発した新しいタイルのマンションなんですってね」

忠はホテル業界だけにとどまらず、マンションにまで手を出したのだ。玲二が支倉に入社する前の時点では、なんでも二世帯マンション

にするとかしないとかだったが・・・

「なんで志月さんに、そんな部屋勧めるんだろう?」

「なんでも、その二世帯用マンションの最上階に次の企画の試作室を作ってモニターを置くつもりだったんで、どうかって言われて

今度見に行くんですけど」

(忠さんは何を考えているんだろうか・・・)

玲二は首をかしげる。確かに忠と志月は自分のことで、大きくかかわり、信頼しあえる仲であり、さらに息子を志月に預けた

言わば義理の父のような存在ではある。マンションのひとつや二つくらいくれてやってもバチはあたらないとは思うが・・・

「今度、玲二君も一緒に行きませんか?玲二君も、そこに泊まっていく事もこの先ありうるし」

うん、頷いて玲二は思い出したように、テーブルの引き出しから、ヘアーブラシを取り出し、志月の後ろにまわる。

「髪梳かしてあげるね。結び目が解けてきてるから」

ベッドに横になった時に、後ろに束ねた髪が乱れているのに気づいたのだ。

「切った方が良くないですか?社長がロン毛ってどうでしょう」

「似合ってるからいいよ〜僕、髪でさわさわと、首筋とかくすぐられると凄く感じるんだ」

そういいながら、玲二は毛先から丁寧に優しく梳かし始める。

「そ、それなら・・・切るのやめようかな」

うん、微笑みつつ、玲二は梳かした髪を黒の髪ゴムで束ねる。

「これで完璧かな?情事の痕跡は残さずにと・・・」

仕上げに玲二は後ろから志月に抱きついた。別れたくないけど、お互い明日も仕事で、志月は帰らなければならない。

「じゃあ、また」

笑顔で志月は部屋を出て行く、残された玲二は、とてつもない喪失感を感じた。

「あ〜あ〜がんばろう」

自分に気合いを入れつつ、シャワー室に向かう。

シャワーを終えて就寝準備をしていると、忠が部屋に入ってきた。

「志月は帰ったみたいだな、エントランスでばったり会って、驚いた。てっきりこの部屋に連れ込むとばかり思ってた

から」

「連れ込んだよ」

忠はテーブルに2つ並んだコーヒーカップを見て、さらに驚いた。

「お茶だけで帰ったのか、お前本当に玲二か?」

それどういう意味?少しむっとして、玲二はソファーで頬杖を付いた。

「そんなわけ無いでしょ。シたよ、あわただしく、1回だけ」

ふうん・・・忠は神妙な顔をする。明日仕事で早かろうが、まだ仕事が残っていようが、玲二は相手の事情にお構いなしに

ねだってくる、そんなキャラだと思っていた忠としては、玲二の意外な一面を見た気がした。

「しかし、志月もよく自制が効くな〜きっと今は玲二以上にヤリたい盛りだろうに」

「志月さんの事、そんな風に言わないでよ。下半身だけで生きてるその辺の親父とは違うんだから」

やれやれ・・・少し前までは、下半身だけで生きてた癖に・・・と、ため息混じりに忠は玲二の向かいに腰掛けた。

「玲二、話があるんだが、今の部屋引きはらってレテノールに入れ」

またレテノール?玲二は顔を上げた。先ほど志月の口からその名が出たばかりだった。

「一人じゃ広くない?あそこは二世帯・・・え、もしかして志月さんと二世帯やれと?」

いや、志月は試作室のモニターとか言っていた・・・二世帯ではないらしい・・・玲二は思考をめぐらした。

「行って見ればわかると思うが、お前は志月の部屋のオプションだ」

なにそれ・・・ますますわからない。玲二は眉間にしわを寄せる。

「心配するな、お前たちが一緒にいられるようにしてやったということだ、世間には知られずな。銘打って、レテノールSタイプだ」

何のSなんだろうか?玲二には疑問だらけである。

「この週末に志月は部屋を見に来る予定だ。お前も来るだろう?というか来いよ。お前はオプションなんだから、いわゆるオマケだが」

玲二は支倉から帰ってきて、ルナ・モルフォの業務は任されているが、新事業のレテノールにはまだ手をつけてはいない。

なので、忠の言う事がさっぱりわからないのだ。

「今日は志月が泊まりだと思っていたから、ここに来る予定じゃなかったんだが、帰ってしまったから、ちょいとこんな事まで話してしまったな

引越す準備はしとけよ」

そう言って忠は自分のプライベートルームに帰っていった。とりあえず近い未来、志月と一緒にいられるようになるらしいし、週末は忠の

新事業であるレテノールのマンションの見学に行けて、志月とも逢えるという特典が待っていた。

レテノールとは、モルフォ蝶の一種で、レテノール・モルフォはモルフォチョウの中でも最美麗種と言われている。その強い輝きは500m先から

でも確認できると言われていて、その深く青いモルフォブルーを忠は非常に愛しており、自らの事業にその名を使った。

このホテル、ルナ・モルフォもその一つだ。

忠は、地を這う幼虫から羽化し、美しく変化する蝶に自分を重ねて、ここまで這い上がってきた、そしてどうせなら、蝶の中で最も美しいとされている

モルフォ蝶になりたいと思ったと昔、玲二にそう語っていた。さらに、毒があるため捕食者はあまりおらず、成虫は花の蜜よりも腐った果実、動物の

死骸などを好むという、ダークな面も気に入っていた。決して弱々しい存在ではなく、毒を持ち、腐敗したものを食しつつも美しくあり続けられる

というこの蝶がまさに理想の姿であったらしい。玲二から見ても忠も、まさにそんな存在であった。

そして、玲二自身も、そうでありたいと、いつしか思うようになった。地面を這いつくばって傷ついた日々を精算して今、ようやく玲二も変わろうとしていた。

志月もまた、性別を偽って女性という隠れ蓑をようやく脱いで、強く雄々しい蝶に生まれ変わったのだ。

(でも忠さん、何しに来たんだろう?)

志月との仲を心配して来たのだろうか・・・しかし・・・

きっと今は玲二以上にヤリたい盛りだろうに

 忠の言葉が気になった。志月はいままで玲二が出会ってきたパトロン達とは違う。さわやかで、ギラついてなくて・・・いつも優しい。

(志月さんには性欲なんかないんだから)

どこからそんな乙女な発想がわいてくるのか、忠が聞いたら大きく突っ込みを入れるところだろう。ベッドに横たわると 

ー 違う、シャワーしてないから・・・・嬲られたら出ちゃうよ? ーという初々しい志月の台詞を思い出した。

恥じらいがある=性欲が無いというおかしな公式が玲二には出来上がっている。

(次は、ちゃんとお口で愛してあげたいな〜この前は志月さん、涙目になって可愛かったなあ、でも嫌じゃないって事は、本当は

して欲しくて我慢してたのかな〜)

一人で口元を緩めてニタニタしながらベッドの上をゴロゴロと転がりまわると、ふと、志月が触れていた部分が疼きだした。志月もどこかで

玲二の事を思い出して、恋しがっていてくれればと思う。志月の手が触れていた部分に、自分の手をあてがうと、そこはもう

はちきれんばかりに膨張していた。志月に撫でられた先端からは、うっすらと蜜が溢れて、まるでそれが志月に逢いたくて涙を浮かべている

ような気がした。

玲二は初めて、心と身体で同時に人を恋しいと感じていた。

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