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和真と別れた後、志月と玲二は客室で食後のお茶を飲む。玲二が正式に忠の養子となり
ルナ・モルフォの後継者として、来週から社長補佐の位置に就くことになっている。いままでの
支倉での勤務期間は社外訓練期間という名目で、秘書課まで昇格した実績を持っての凱旋であった。
来週からの勤務に備えて、玲二にもルナ・モルフォにプライベートルームを与えられたのだ。
その部屋の来客第一号が志月だった。
「玲二君、あれで良かったんですか?貴方まで困った事になりませんか?」
お人好しの志月は自分の事より、玲二の心配をしている。そんなところが心配で、玲二は彼を放っては
おけないのだ。
「僕の事なんて、すでに武田さんにバレてるよ。特に高次さんとの事もあの時、全部バレちゃったから
構わないんだけど、困るのは志月さんでしょ?」
ソファーに向かい合ってではなく、並んで座っている為、お互いの表情はよくわからないが触れあう肩と
近い距離が安心感を与えた。
「私は困りませんよ。別に社長になりたかったわけじゃないし。降ろされても別に構いませんから」
高次から逃れるために、志月はアメリカに留学していた。そこで経営学を学び、今それが役立つ時が来たのだ。
それなのに社長など、どうでもいいという・・・
「でも、玲二君とは離れたくないから、やはり社長してます」
ルナ・モルフォのラウンジバーにもナルシス・ノワールのワイン、シャンパン、ウィスキー、ブランデーなど、多くの
洋酒が入っている。いわゆる取引先なのだ。その関係で、会う口実もできるというもの・・・しかし・・・
「志月さん、仕事でたまに逢うのじゃ足りないよ。本当は毎日逢いたい」
それは志月も同じ事だった。玲二と結ばれた夜から、今まで片時も忘れられず、玲二が恋しくてたまらない。
「この部屋は僕のプライベートルームにもらった、いわゆる仕事部屋兼、仮眠室なんだけど、その他に忠さんは
密会にも使っている」
そして、上着の内ポケットから、この部屋のカードキーを取り出し、志月に渡した。
「これはすペアーキー。志月さんは自由に出入りしていいよ、連絡くれたらすぐ来るから」
「でも、そんなにしょっちゅう私がルナ・モルフォに来る事は難しいでしょう?」
カードを受け取りながら志月は苦笑する。
「僕は父さんと一緒に暮らさない事にしたんだ。父さんには甲斐さんがいるし、なんかお邪魔っぽいでしょ?今居る
部屋から通おうかなって」
その言葉にあろう事か、志月は心のどこかで、良かったと安心してしまった。疑うわけではないが、忠の傍にいて
欲しくはない。一時、玲二が忠に依存していた事も知っているので、余計にそうなのだ。
「あ、今、心の中で良かったと思ったでしょ?」
志月の手を握りながら、玲二は擦り寄ってきた。嫉妬されて嬉しい半面、性依存症で、忠に依存していた過去が後ろめたい。
「自信がないんです。玲二君にとって、私は忠さん以上の存在になれるのか・・・」
「僕は志月さん以外、何もいらない。誰も貴方の代わりはできない。だから、信じて、もちろん信じてもらえるような綺麗な
過去じゃないけど」
普段は強がって悪ぶっている玲二が、志月の前でだけは、幼い少年のような、か弱さを見せる。捨てられた子犬のような目をして
いつも玲二は志月の前で震えていた。そして、いつも志月は子犬を温めるように、玲二を包容していたのだ。志月は思わず
いつものように玲二を抱きしめた。弟のように、時には我が子のように慈しんできた玲二であるが、今は別の感情が溢れて
来るのを感じる。志月より先に、耐え切れなくなった玲二が、志月の唇を奪った。それは堰を切ったように徐々に激しさを増す。
「玲二君」
かろうじて志月は、玲二を引き離した。
「ダメですよ、今日は泊まれないんです」
「じゃ、1時間だけ・・・」
すがるような玲二に、困った顔で志月は微笑んだ。
「私が、ダメなんです。一時間じゃ足りない、朝まで一緒にいたくなるから」
しかし、玲二に逢った時点でもう、簡単に別れられなくなってはいた。兄、高次が玲二にした事は理解できないが、あれほど
玲二に執着していた訳はわかるような気がする。玲二は阿片のようだ、一度その魅力に囚われたら、身を滅ぼすと分かっていても
辞められない。玲二以外何もいらない、玲二のためなら全て捨てられる。そして、誰にも渡したくない。頭も身体も支配されて
どうにかなってしまいそうだ。そんな状態で理性をかろうじて保つ事は、どれだけ困難な事か。
「そんなに欲しい?僕のこと?」
玲二が誰かに求められて、こんなに嬉しかったのは初めてだった。いつも無理矢理相手をさせられるか、突き放されるかのどちらか
だったから。
「客室に上がった時点で、そのままじゃ帰れない事、解ってて、のこのことついてきたんだから、全て私の責任ですね」
決意したように志月は、玲二の上着を脱がせるとハンガーラックに掛け、自分の上着も掛けた。
「一時間で我慢します。そのまま帰ったら悶々として仕事も手に付かないと思うから」
そんな志月の背中にそっと歩み寄り、玲二は後ろから抱きしめる。
「もう、時間ないから、脱いでる時間も惜しい」
後ろから手をまわして、玲二は志月のネクタイを緩め、首から外し、シャツのボタンを外し始める。その器用な手先に驚きつつ
志月は背中に玲二の熱を感じて吐息を漏らした。こんなにも逢いたいのに、逢えない事が切ないとは思っても見なかった。
シャツの前がはだけられた時、志月は玲二を振り返り、玲二のネクタイを緩める、するりと自らの首からネクタイを外し、玲二は
志月にくちづけた。そのままじりじりとベッドに追い込まれ志月は、すとんとベッドに腰掛ける状態になる。
「ボタン外すのは僕の方が早いから」
そう言いながらも、あっと言う間に玲二は自分のシャツのボタンを外し終えて、ベルトを外し、スラックスと下着を脱ぎ落として志月の
前に屈みこんで志月のベルトを外し、スラックスの前を肌蹴て志月の膨張したモノを取り出した。
「涼しい顔しながら、いつからこんなになってたの?」
見上げてくる玲二の屈託のない瞳から目をそらしつつ、志月は小さな声でつぶやく。
「さっきの玲二君のキスで一気に・・・」
ああ・・・少しうなづいて、玲二は志月の股間に顔を埋めようとした時、志月は玲二の肩を押して阻止した。
「ダメ?僕、下手なのかな?」
口技には自信があった。自慢にはならないが、幼い頃からたくさんのパトロンのオヤジに仕込まれてきたので、幾通りものテクニックを
身に付け、駆使出来るという自負心が玲二にはある。ここで志月に拒否されるのは、かなりショックが大きい。
「違う、シャワーしてないから、それマナー違反でしょ。でもそれより、もう限界なのに嬲られたら出ちゃうよ?」
玲二は新鮮な感動を受けて、言葉が出なかった。さすがに志月には言えないが、彼の言うマナーなど無い世界で玲二は今まで
生きてきたのだ。さらにいうと、無理矢理ねじ込まれる事さえ日常茶飯事だったのだ。
「じゃ、嫌ってわけじゃないんだね?」
どこかほっとした。最初の夜に志月にした口淫を、嫌悪されたのではないかと不安になっていたから。
「じやあ、もう挿れていいよね、さっきから欲しくてたまらないんだ」
そういって志月を立たせてスラックスを脱がせると再び座らせた。
「うっかり汚したら、今夜帰れないし。これ高級スーツでしょ」
「玲二君のほどじゃないけど、あ、すぐ挿れて大丈夫?」
志月のスラックスをハンガーラックに非難させて、玲二はサイドテーブルの上のボトルを持ってベッドに戻る。
「すべりをよくしておけば大丈夫」
ボトルのローションを志月の立ち上がったモノに塗りこんだ後、玲二は自分の後孔にも塗りこんでから、後ろ向きに志月の膝に跨り
志月のモノに手を添えて、自らの後孔にあてがい、ゆっくりと腰を沈める。
「玲二君、平気?」
すべてを飲み込まれて、志月は玲二を後ろから抱きかかえた。
「平気だよ。志月さんに逢えないときに、自分でシてたから、解さなくても入るよ」
「それって、指で?」
肩口から志月の湿った声が聞こえる、優しく、少し虐めるような淫靡な響きを秘めた声で・・・
「ディルド・・・でもダメなんだ。志月さんのでなきゃイけなくなっちゃった」
これは性依存症がひどかったとき、忠が誰彼なしにナンパする玲二に与えた秘策だった。
「なら、もう使わないで。たとえ物質相手でも、私は嫉妬するから。これからは、玲二君のここは私だけのものにしたいんだ
寂しい思いをさせてしまったのは申し訳なかったけど。我侭聞いてくれる?」
後ろからまわされた志月の手に自分の手を添えて、玲二は頷く。
「志月さんいてくれたら、もう必要ないよ。どんな物もどんな人も貴方にはかなわないから。だから、僕をいつも満たしていて
放ったらかしは嫌だよ?」
放ったからしに出来る自信もないと志月は思った。それに答える代わりに、玲二の腰を両手で抱えて自らのモノを下から突き上げた。
「ぅあっ」
玲二の白い背中がのけぞる。そして突き上げにあわせて、自らも腰を振る。
「志月さん・・・」
もう、言葉は無く、熱い吐息で充満した部屋は、ルームライトの中で快楽を貪る雄同士の影だけを映していた。
少し速度を緩め、志月は玲二の熱の塊に手を添える。蕾からはとろとろと蜜を溢れさせてはちきれんばかりに膨張しているが
欲望を解き放つことが出来ないまま、悶えている様だった。