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ナルシス・ノワールの件がまとまって、和真と史朗は安心してマンションに戻る。

「とにかく、良かった。変態社長のおかげで、あそことは手を切るしかないかなと思ってたから」

寝室でスーツの上着を脱ぎ、史朗に渡しつつ、和真は笑う。この一件は玲二様々だ。

「にしても、深田家って恐ろしいですね。前社長を病院に監禁したということですよね」

和真の上着をハンガーにかけながら史朗は苦笑する。しかし、玲二と深田の会話を聞くだけでも

法に触れる行いを、深田がしていたことは間違いない。玲二の言っていたー屋敷のどこかに

白骨死体が埋まっているーというセリフも、まんざら嘘とは思えなくなって来た。身内から犯罪者を

出したくは無いので、明るみになる前に闇に葬った・・・仕方のないことだろうか・・・

「あの新社長、優しそうな顔して策士だな。腹違いの兄を病院送り、自分がその後釜にって。まあ深田は

史朗にセクハラした憎いやつだから、俺は構わないけど。つーか、いなくなってくれて安心だけど」

ネクタイを緩めつつ和真は、自分のスーツの上着をハンガーに掛けている史朗の背中を見つめる。

史朗は今日の玲二の幸せそうな様子を思い浮かべる。あんなに満ち足りた玲二の表情は初めてだ。

すっかり普段の毒気が抜けていた。深田高次や、ほかのパトロンのオヤジたちに踏み荒らされなければ

玲二はあんなふうになっていたのだろう。いや、ようやく、元の彼に戻り始めたというべきか・・・・そんな事に

思いを馳せていると、和真に後ろから抱きすくめられた。

「ちょ・・・和真さん?」

「ダメ、もう我慢できない。社長室にいる時からずっと我慢してたんだ」

確かに、史朗の尻のあたりに、和真の我慢の塊のような、硬い身体の一部が触れる。

「でも、もうちょっとだけ待って下さいよ・・・」

「待てない。一日が超長いんだけど?社長室でヤっちゃいたいくらい・・・」

恋愛に奥手な和真が、史朗と付き合いだして、性欲魔神になってしまった。そのうち収まるだろうと思っていたら

収まる気配もない。

「普通、社長と秘書って、デキてるよな?よく社長室でヤっちゃったりするじゃないか?」

「なんの官能小説ですか?おかしなモノ見ましたね?」

それより、こんなおじさんに、夢中になってくれているだけでも、感謝すべきなのだろうと史朗は心の隅で考える。

「私のどこが、そんなに好きなんですか?」

ー貴方の歳では私の守備範囲を大きく逸脱している、にも関わらず、貴方が欲しい。どうしましょうかー

ーただ武田さんには、ちょっと興味あるかなあー

史朗は深田と、玲二にあんまりな言い方をされてしまった事を思い出す。和真はどう思っているのか?それが知りたい。

「う〜んと、包容力かな。身体を密着させてるとすごく安心する。でも一番安心するのは、お前の中だけど。だから永遠に

繋がっていたいし、いつも繋がりたいと思っている」

そう語る和真の腕の中が、史朗には一番の癒しであった。

「普段、張り詰めているお前が、俺の前でだけ無防備で、解放されたような表情をするのが嬉しい。淫乱とか

気にしなくていいから。俺はお前を悦ばせる事に幸せを感じるから。ただ、それが他の奴にも・・・だったら嫌なだけだから」

ちゃんと、人としての自分を愛してくれていると感じられて、安心した史朗は和真に向き直ると、和真を抱きしめた。

「それは心配しないでください。深田の一件で確信しました。触れられて気持ち悪いだけでしたから。やはり和真さんでなきゃ

ダメなんです」

史朗に出会うまでの日々を、どうやって生きてこれたのか、和真には不思議でたまらない。出会ってしまった今

もう、史朗無しでは暮らせないほどである。和真は史朗のネクタイを緩め、シャツのボタンを外しながら、史朗の

首筋に顔を埋める。

和真の首に腕をまわし、史朗は和真を拒めない自分に苦笑する。心の中が読めない甲斐とは違い、和真は

ストレートに気持ちをぶつけてくる。だから、まっすぐ受け止めたいと思うのだ。気づけば、首筋から胸元に

和真の唇が降りてきた頃、史朗はクローゼットに背中を押し付けた姿勢で、スラックスを足元にずり落としていた。

「シャツの前をはだけて、ネクタイ首にかけて下半身は露出って超エロいぞ・・・」

ベッド付近から持ち出したローションをボトルから手のひらに落としつつ、和真は史朗を見上げる。

「なんだか、犯されてるみたいで恥ずかしいですよ」

「うん、そういうプレイだから。だから、俺は着たままっていう設定」

ニッコリと微笑み、立ち上がった和真に史朗は唇を奪われた。そして、後ろにまわされた和真の手が史朗の双丘の谷間に触れる。

ヌルリとした感触とともに和真の指が、史朗の中に侵入してきた。

「あっ」

一瞬身体を硬くし、和真から唇を離した史朗は、吐息を漏らした。いつの間にか、和真の指先は史朗の敏感な部分を熟知し、器用に

中で蠢かしながら、自身の侵入に備えて、ゆっくりと解してゆくのだ。

史朗は身悶えしつつ、だんだん足に力が入らなくなり、膝がガクガクしてくる・・・和真はそんな史朗を抱え上げるとベッドの端に

横たわらせ、両足を左右に割って抱える。

「そろそろもういいか?」

持ち上げられた脚のあいだから覗き込まれ、和真にそう訊かれて、史朗は伏し目がちに頷く。

ゆっくりと押し入れると、まるで吸い込むかのように引き込まれ、和真は息を漏らしつつ、一気に根元まで進める。

「何?史朗これ、ヤバい。なんの技?」

なんの事だかわからない史朗は、下限な顔で和真を見上げた。

「吸い込まれた。中も吸い付く感じが半端ないんだけど」

ああ、史朗は諦めたように笑った。本当に我慢できなくて、限界だったのは自分だったという事に気づいたのだ。

待て、今はダメだ・・・それはただのポーズでしかなく、和真が強引に押し切るのを期待していたのだ。恐らく和真が

史朗の言うことを素直に聞いたなら、がっかりしていたに違いないのだ。

「私はずるいですね。どうやら、清純ぶった淫乱というのは本当の事みたいです」

「何?それ」

和真の問いに、史朗はただ笑う。多分、和真はそんな史朗だから萌えると笑うだろう。そして、彼はどんな史郎も

受け入れるのだろう。

「いえ、実は私も和真さんが欲しくて、限界が来てました」

「良かった。無理やり、強引ってわけじゃないんだな」

そんな安心しきった和真に史朗は安堵する。彼は深田や玲二とは種類が違う。和真は相手を征服させようとはしない。

ただ、互いに快楽を共感したいだけなのだ。ベッドの端に立ち、少し屈んだ状態の和真が前のめりになり、史朗の両脇に手を着いた。

「そろそろ、動くけど?」

着たままのワイシャツと緩んだネクタイの和真はいつもと違い、大人びて見えた。そう、スーツは会社員の戦闘服なのだ・・・

「どうぞ」

この人についていこう・・・そう決意してここまで来た。そしてこれからも。甲斐を失い、もう二度とこんな日は来ないと思っていたが

甲斐といた日々より、今がもっと充実し、輝いている事に史朗は驚く。ー甲斐は君のことを誰よりもよく知っているー 忠はそう言った。

甲斐は史朗のために、自ら身を引いたというのか・・・もう史朗には甲斐との事は過去の事になってしまった。そして、今を和真と生きている。

「っはっ・・・」

そこまで考えて史朗は思考を止めた。体の中を蠢く和真の熱い塊に思考が飛び去る。いつも理性的でありたいと思っている自分が

肉欲に支配される瞬間を迎える覚悟を決める。押さえつけていた欲望が溢れ、濁流に流されてゆく・・・いつも最後はそんな感じだ。

息が上がり、吐息を吐くたびに、感覚が身体を突き抜ける。いつしか我知らず史朗も腰を動かし、和真の分身を貪っている。

そして徐々に速度を増す動きに合わせて、和真と史朗は同時に果てた。

隣に倒れ込んだ和真は史朗は抱きしめ、眼鏡を外した。

「眼鏡したままの史朗とか、マジで秘書と社長室でヤってる感たっぷりだった」

そう言われて、史朗は初めて、自分が眼鏡をかけたままであった事を知る。

「でも今更なんで外すんですか?」

「睫毛のパタパタしてもらおうかと・・・」

苦笑しながら史朗は和真の頬に頬を寄せる。

「どうしてこんなに視界がはっきりしているのかと思っていましたよ。和真さんのこともはっきり見えたし」

ええ・・・一瞬嫌な表情をした和真はすぐ立ち直った。

「大丈夫、今回俺は着衣だったから、見られてない」

妙にドヤ顔なのが可愛くて仕方がない。

「身体じゃなく、顔・・・」

そちらのほうが見られて恥ずかしかった事に気づいた和真は、顔を赤らめた。

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