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玲二がシャワー室にいる間、志月はベッドにワインを持ち込んで、ちびりちびりと飲んでいた。

ーベッドで待っていてくださいー

そう言ってシャワー室に消えた玲二、どうやら、相思相愛でうまくいきそうな予感はある。が、いざとなると

志月は急に怖くなってきた。生まれてから28年間、誰とも経験なしである。しかも、いきなり男が相手とは

ハードルが高すぎるかもしれない。

(でも、玲二君はきっと慣れてるから、リードしてくれる)

不安を紛らわせるために、アルコールに頼ろうとしていた。

「志月さん飲みすぎないでくださいね、初夜が、酔っ払って記憶無しなんて、キツイですから」

シャワーを終えた玲二が来て、志月からグラスを奪っていった。

「少し、怖気づいちゃいました、あの、玲二君は受けなのに、私を襲うっていうのはどういう事ですか?」

何も知らない、まっさらな志月を汚すようで、玲二は少し罪悪感を感じつつ、しかし、もう引き返せないでいた。

志月が自分の事を欲しているとわかった時点で、もう玲二の理性のブレーキは効かなくなっている。

「ゆっくり、教えてあげるよ、それより、身体見せて。まだ半信半疑なんだ、志月さんが男だなんて」

ベッドに腰掛けている志月を立たせて、玲二は志月のバスローブの紐を解き、前をはだけた。

するりとバスローブは志月の肩から滑り落ちて、若い男の裸体が現れる。スラリとしたギリシャ彫刻のような

神々しさを秘めて、そこに存在した。

「男らしい体型ではないでしょう?筋肉質ではないし・・・」

男でありながらずっと、女を装ってきた志月のコンプレックスがそこにあった。

「でも、この体で女装していたなんて・・・」

骨格が思ったよりしっかりしていた事に玲二は驚く。これをどうやってカムフラージュしていたのか不思議だ。

「胸に詰め物をしておけば、胸板の厚さはカモフラージュできるし、服装である程度ごまかせたから」

羞恥心に俯く、志月をベッドに座らせて、玲二はその前にしゃがみこむ。エレガントな美貌の令嬢の服の中身が

今、目の前にある・・・

「あまり、見ないで・・・こんな身体じゃ玲二君、萎えるでしょ?」

いいえー志月を見上げながら、玲二は両手で志月の両膝を広げ、その間に自分の体の割り込ませた。

「思ったより、逞しいので驚いた。特に、ここが」

と既に隆起し始めている志月の股間に手を添えて、志月の顔を覗き込む。

「ダメ・・・そんなところ触らないで・・・」

「ダメ?ここは、いいって言ってるよよ・・・ほら、ちょっと触れただけでこんなに硬くして、蜜が溢れてきた」

女のような、はかなげな志月の顔が羞恥に震え、瞳がうるみ始めた。その様がとても淫靡で美しい。

「志月さん、僕が欲しかったのはこれなんです、この逞しい肉の昂ぶり。貴方が男で良かった」

そして玲二はそれを口に収めた。口内で舌を絡ませながら、唇で茎の部分を扱き始めると、しきりに避けようと

後ずさる志月の腰を抱き抱えて、玲二は一気に放出に導いた。

「玲二君、ごめんなさい、我慢できなくて・・・」

志月の体液をこともなく飲み干して、玲二は志月をベッドに寝かせる。

「我慢なんかしなくていいんだよ。ちゃんと、感じてイッて欲しいから。びっくりした?」

志月は半泣きになっていて、羞恥心のあまりに、顔を背けている。今まで、玩具として持て遊ばれるだけだった玲二は

今、逆に志月を翻弄しているという余裕を手に入れ、志月の初な反応に心打たれた。

「怖かったです、恥ずかしくて顔から火が出そうだし・・・」

そんな志月の隣に横たわり、志月を抱きしめ、彼の涙を優しく拭う。とても優しい気持ちが溢れてきた。性行為でこんなに

穏やかで優しい温かな気持ちになったのは初めてだった。

「でも、気持ちよかったでしょ?すぐイッちゃったよね。恥ずかしがらないでいいよ、僕は志月さんの恋人になったんだから

なんでもアリでしょ」

恋人、そのフレーズが志月の胸をキュンとさせる。長年の願いが叶った嬉しさとか、諦めていた願いが叶った嬉しさとか

これからの不安とかが混ざり合って、何とも言えない不思議な気分だ。

「というか、これは前戯だから、これからもっと濃厚だよ」

抱きしめた志月の背中をそっとさすりながら、玲二は囁く。こんなにまったりと、お互いの体温を感じつつ交わるのは

生まれて初めてだ。

「今まで誰とも付き合えなかったから、志月さんはずっと一人でしてたの?」

志月の長い髪に頬ずりしながら玲二は今までの相手にはない、髪の感触に夢中になる。

「玲二君の事思いながら・・・」

「僕、おかずになれるんだ、なんか嬉しいなあ、そんなに思われて」

これほど、自分が愛されていると感じたことはなかった。忠も愛してくれたが、それは親の愛だった。玲二を恋焦がれていた

わけではない。

「嫌じゃないの?気持ち悪くない?私の脳内で玲二君が・・・」

清楚な令嬢を装いながらも、身体は男である、湧き上がる肉欲には抗えない。誰にも知られず、その情欲を処理してきた。

脳内で何度も玲二を抱き続けた。

「あなたの中で、僕はどんな声で鳴いた?どんな顔でイッた?どんな体位で繋がったの?好きな人にそこまで思われたら

本望だよ。もしかしたら志月さんは、僕のこと同情していて、でも心の奥で汚れた奴だって思ってるかもって諦めてたから」

「玲二君は綺麗ですよ。姿も神話に出てくるナルシスのように美しい。でもそれ以上に泥沼な環境にさえ染まらず、清らかに

咲き続けていた事を私は知っています。でも、ごめんなさい、そんな玲二君を情欲の目で見て、脳内で汚したのは私です」

玲二は志月の体に覆いかぶさり、くちづけた。

「こうして私の唇から、あなたの唇へ、罪は清められました・・・志月さんは僕を汚せない」

ロミオとジュリエットの、ロミオのセリフを引用した玲二に、志月は微笑んでジュリエットのセリフを返した。

「では、私の唇には、あなたから受けた罪があるのね」

あなたは罪を浄化する生神女です。私の中に純白のソーマを注いでください

そんなセリフはロミオとジュリエットには無い・・・と志月が思うやいなや、玲二は志月の下腹部に手を滑らせた。

そして、志月の回復しつつある熱い塊を、優しく手で包み込む。少し指を蠢かすだけでそれは、硬さを増してゆく。

「愛情で繋がる事がこんなに温かく幸せだなんて、初めて知ったよ。僕にとっても志月さんが初めての人だよ。

本当に今までの全てが上書きされて、清められていく感じがするんだ」

両親を早くに亡くして、玲二は遠い親戚に預けられたが、7歳の頃にその美貌に目をつけた国会議員に

金で買われた形で引き取られ、以後、政界、財界の少年性愛者の相手をする男娼にされ、一方では

最高の教養と学歴を与えられる。それは駆け引きの道具に使うだけでなく、ゆくゆくは頭脳として

利用しようという目論見だった。中学生、高校生と成長してゆくと、身売りの対象も変わってゆき、最後は

深田高次の専属となった。親から受けるスキンシップの代わりに、60代、70代の初老の男達との

性行為が玲二にとっての愛されている証だった。だから深田から解放された当時の玲二は、性行為無し

では、不安で自己の存在価値を見失い、夜な夜な誰彼なしに体を許しては街を彷徨っていた。

それで見かねて、玲二を保護していた忠が相手をしていたのだ。今日、玲二が来る前に、自らの想いを

忠に打ち明けた時に、志月は忠からその事を聞かされた。ー それでもまだ、玲二を愛せるのか ーと

訊かれた。愛せる自信が志月にはあった、そして、今、心の底から玲二を愛おしいと感じる。救われない

孤独な魂を少しでも愛情で埋めていけるのなら、全力で彼を愛してゆきたいと思えた。

「玲二君愛しています、ずっと永遠に・・・」

志月は自らの上にまたがってきた玲二を見上げた。

「嬉しい、涙出るくらい。もう、挿入れていい?最初だから、僕がするね」

玲二は枕の下からボトルを取り出して、志月の立ち上がった肉の杭に中の液体を塗りつける。

「滑りを良くしとかないと志月さんの、大きいから・・・よく、スカートの下にそんな大砲を隠してたよね」

そう言いつつ、狙いを定めて、玲二はゆっくりと腰を下ろす。しかし、心配していたほどではなく、

思ったよりすんなりと大砲は玲二の中に収まった。

「案外入るもんだね、というか、緩いのかな僕が。志月さん、痛くない?」

見下ろすと苦しげにしている志月が気になり、玲二はそう訊いた。

「いいえ、。全然緩くなんか・・・キツイです。もう、すぐにでもイキそうで、我慢してます」

はは・・・玲二は笑いが漏れる。志月が可愛くてたまらないのだ。

「いいよ〜がまんしなくて。それって僕の中が最高!ってことでしょ?」

「早漏だとかって。がっかりとかしませんか・・・」

もう、我慢できないくらい玲二は愛情が爆発していた。志月が愛しくて可愛くてたまらない。

「最初だからそうなんだよ〜それとも、僕らの相性がいいのかな。僕も、少し動いたら、もうダメかも」

少し腰をくねらせただけで、快感が押し寄せてくる。少しずつ動きを大きくしてゆき、徐々に激しくなる

動きに玲二の息が上がる。

「志月さ・・・ごめ・・僕の方がダメかも」

こんな事は今まで考えられなかった。志月と繋がっているというだけでもう、どうしょうもなく感じるのだ。

ただ、無心に快楽に身を任せている玲二の姿が志月にはとても美しく見える。深田家で見た、身悶えする苦しそうな玲二でなく、とても安らかな神聖な面差しがそこにあった。

そして、じわじわとやってくる締付けに、志月自身も限界を知る。同時に息をつき、同時に達し、崩れ落ちる

玲二を志月は受け止めた。

「志月さん、僕死にそう。経験積んだ気になってたけど、こんな凄いの初めて」

玲二を抱きしめながら。志月は微笑む。

「玲二君が幸せなら私も嬉しいです。綺麗でしたよ」

志月の胸で玲二は静かに眠りに着いた。

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