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「知ってた?俺はお前に一目惚れしたんだぞ、でもその時、お前は支倉社長の愛人で・・・」

甲斐が大学生の頃、レストランのウェイターのバイトをしていた時に、支倉社長と出会い、何度か通ってくる

支倉社長と親しくなり、そのうちに関係を持つようになった。しかし、それは対等な交際で

援助を受けていたわけではなかった。さらに甲斐は、支倉社長が支倉商事(和真の社長就任後に支倉カンパニーと

社名を変えた)の社長である事すら知らなかったのだ。

忠と会ったのは、社長夫人が夏休みに和真を連れて実家に帰っていた時。甲斐は支倉の屋敷に呼ばれ

三日間滞在した。妻の留守に夫が愛人を家に連れ込んだという事である。忠も当時、支倉商事の新入社員の研修で

家を空けていたのだが、予定より早く家についてしまい、下宿まで甲斐を送っていこうと、玄関に現れた支倉社長と甲斐に

出くわしたのだ。

ー 息子の忠だ ー 

すかさずそう、支倉社長に紹介されて、忠を見上げた甲斐の姿を、忠は今も覚えている。長身で、すらっとした体格に

薄いブルーのシャツとジーンズ姿の大学生は、清々しい雰囲気を漂わせていた。おそらく、自分と違い、育ちがいいのだろう。

ちゃんとした家庭で愛されて育てられた・・・そんな気がした。

前髪も、襟足も長めの髪が夏のそよ風になびいて、涼しげな顔立ちを際立たせていた。その時の甲斐を、忠は忘れられないでいる。

後に支倉商事の社員として再会し、関が原を経て今、一緒にいる。

「でも、あの時の私たち、かぶってましたよね、二股かけられてましたよね、あ、忠さんからすれば浮気されてたって事になりますか?

なのに、その間男に一目ぼれってないでしょ?」

ああ、忠はまじまじと甲斐を見つめる。あの時、本当に甲斐は支倉社長を愛していたのだと感じた。そんな風に思える彼が羨ましかった。

「俺にとって、あの人はパトロンだった。籍入れて会社継がせてやるっていうから、夜の相手もしてたんだ。なのに、不妊と診断されてた夫人が

奇跡の高齢出産だ、さらに男の子産むし、その子IQ160とか、もうどん底だったよ。あの頃、俺の夜のお供のテンションがダダ下がりだったから

飽きられたのかな、新しい男を見つけたのかな・・・とか思った。そいつが来てたから拝んでやろうと思ったら、俺の好みド真ん中だったんだ」

根本的に甲斐と忠は違うのだ。甲斐は、ただのおやじ趣味の同性愛者で、忠は権力者に飼われる男娼だったということだ。そんな過去を持つ

忠だからこそ、玲二をほうってはおけなかったのだ。

「忠さんに、そんなに想い続けて貰ってたんですね」

「そうだぞ、社長と切れたと思えば、いつの間にか武田と・・・あれは驚いたな」

自分でもありえないと思ったが、それが現実になった、一番驚いたのは甲斐自身だった。しかし、史朗といた年月ほど、幸せを感じた日々は無かった

と今でも思う。

「お前はあの時、俺を見てなんとも思わなかったのか?」

甲斐は遠い目をして、微笑んだ。

「あの時、正直ビクビクでしたよ、奥さんのいない家に上がり込んで三日間ヤリつづけて帰ろうとしたら、息子が帰ってきて・・・って

すごくヤバいシチュエーションじゃないですか?顔見られないように俯くのがやっとでしたよ」

確かにあの時、甲斐は伏し目がちだった、と忠は思い出す。

「後ろめたかったんだ?」

甲斐は、そうですね、と頷く。若さゆえなのか、しかし、その背徳感がとても刺激的だった。いつもの限られた時間内での逢瀬ではない朝、昼、夜いつでも

時間に縛られる事なく交わり続けたあの夏の日・・・

「今思えば、猿みたいでした。若かったんでしょうね」

忠はいきなり、甲斐にのしかかった。

「支倉と俺、どっちがいい?」

「ご自分でわかるでしょう?だって、忠さんは支倉社長と・・・」

「支倉との事は知ってても、自分との事は自分じゃわからんだろう?」

そういって甲斐にくちづけた、忠は甲斐と、こんな関係になってからずっと、その疑問を抱いてきた。聞きたくても、今まで聞く事が出来ずにいた。

「そうですね。じゃあ忠さん自身どう思います?」

あの夏の初々しい青年は、もうおらず、忠の目の前にいるのは、妖艶な小悪魔である。

「自信がない」

これがホテル王、松田忠のセリフだろうか?甲斐は耳を疑った。いつも正々堂々として、自信たっぷりの彼が・・・

「俺は幼い時に両親を無くした孤児だ。金持ちにばかり引き取られてきたが、いつもそこの主人のお稚児だった。望む望まないに関わらず

その中で生きてきた。支倉もその中の一人でしかない、俺は支倉との関係を自ら望んでした事は一度もないんだ」

義務的な行為、攻めの忠が受けていた・・・支倉社長との関係は苦痛だったのだ。甲斐は忠を抱きしめた。詳しい事情は分からなくても

忠が今まで多くの傷を心に負ってきた事は感じていた。だからこそ甲斐は忠のそばにいたいと、愛したいと思ったのだ。

「あなたに比べたら私は、随分わがままな恋をしてきたんでしょうね。不倫したり、部下と同棲したり・・・ええ、すべて自分の意思でした。

そして、忠さんとも。貴方は最初から史朗の身代わりなんかじゃ無かった。ずっと誤解されて悲しかったんですが、私は和真さんを献身的に

愛している忠さんが好きです。だからここまでついてきました、貴方の叶わない恋の代わりに、和真さんの身代わりになろうと決意して。

私にとって貴方は、お稚児でも男娼でもなく、愛に殉じた英雄です。ただ好きだった支倉社長とは違い、貴方は尊敬できる私の憧れなのです。

閨の具合だけで比べられるものじゃありませんが、強いて言えば、私が一番好きなのは忠さんだから、私の一番は忠さんです」

ああ、忠は苦笑した。馬鹿な質問をした事を悔いた。甲斐は薄っぺらい体の関係など、結ばない事は忠も知っていたはずなのに。

互いに愛し合っていたのにも気づかず、誰かの身代わりなのだと勘違いしていた、その月日が悔やまれた。忠の頬を涙がつたう。

長い長い暗闇から、やっと解放された、そんな気がして。

「玲二との事も本気じゃ無いって信じてますから。彼、貴方のタイプじゃないし、情欲でそんな関係になってない事くらいわかりますよ。だからこそ

心配してるんです。無理してないかって」

忠は頷く。昔の自分を見るようで、正直、玲二との情事は辛い。しかし、だからこそ、昔の自分を愛して、許して育ててやりたかった。

そして、くじけそうな時はいつも甲斐が力を与えてくれた。

「お前で充電してたから、俺はくじけなかったんだ。だから、玲二のところに行くからって遠慮してヤラないとか言わないでくれよ?」

甲斐は頷いた。充電なのか・・・玲二のところに行く前に何故、忠がわざわざ自分と関係を持ちたがるのか不思議だったが今わかった。

それまでは、これから戦という時に、体力を消耗させてはいけないのではないかと心配していたのだ。

「分かりました、充電して差し上げますよ」

にっこり笑うと、甲斐は忠を組み敷いて、下腹部にそっと手を添える。

「おい!もう無理だろ?」

「週末じゃないですか、朝まで頑張りましょうよ、じっとしてていいですよ、私がしてあげますから」

極端だな・・・忠は呆れる。甲斐も今まで色々と遠慮してきたのだ。それが解放されたらしい。しかし・・・

「朝までなど無理だろ?あっ・・・」

言い終わらないうちに、甲斐に忠のモノは甲斐に翻弄された。

「それにっ・・・それはっ、お・・お前のじっ・・・充電だろっ・・」

そうとも言う。甲斐は心中でほくそ笑む。どちらかというと実質的には、忠は吸い取られて消耗する方だ。年甲斐もなく、いつも翻弄されている。

さっき一度出したばかりなのに、甲斐の手の中でそれはもう、はち切れんばかりに反り立ってしまう自分の分身が恨めしい。

「ねえ忠さん、私の手と、後孔、どっちが気持ちいいですか?貴方の好きな方でイカせてあげますよ」

忠はいきなり甲斐を組み敷く、ここで負けてはホテル王の名が廃る。

「お前こそ、どうされたい?」

そう言いつつ、甲斐の下腹を撫ぜる。忠のモノを弄びながら、甲斐の身体も反応していたらしい。もう戦闘状態に入っていた。

やはり適わないな・・・甲斐は愛おしげに忠を見上げて微笑む。

「じゃあ、お膝に乗せてください」

甲斐の肩に手をかけ、忠は抱き上げる。二人、起き上がった状態で向かい合って座った姿勢になった。

「玲二にはこうして膝に乗せてるんじゃないですか?たまには私も甘やかせてくださいよ」

忠の首に腕を回し、甲斐は膝立ちすると、狙いを定めゆっくりと腰を下ろす。体重がかかり、かなり奥まで

突き刺さってくる。忠は甲斐の背に腕をまわして抱き寄せた。身体が密着して安心できる。忠は甲斐の

背骨を指でそっとなぞった。

「っあっ・・」

甲斐が上体をくねらせと、腰も蠢き、中であちこち当たって身を固くした。

「本当に背中弱いんだな、それ、支倉も知ってた?」

「いいえ、背中攻めなんて、忠さんが初めてです」

ふうん・・・忠は少し優越感を抱いた。

「思いっきりさすってやるから、がんばって動けよ」

背中をさすられて、悶えながら甲斐は忠の膝の上で、腰を動かす事になる・・・しばらくして、達した後、甲斐は忠に

しがみついて眠ってしまった。なんだか可愛い・・・眠る甲斐をべッドに横たわらせながら、忠は微笑む。

あまりに可愛すぎて口元が緩んでしまうのだ。

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