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  14

「あ、ダメ?嫌?」

身を乗り出して訊いてくる和真の返答に困りつつ史朗は、右手で顔を覆う。

「驚いただけです・・・なんでやってなかった事をいきなりやろうとするんですか?どういう進化ですか」

「この前はしなかったの?え?じゃどうしたんだっけ」

「この前は、手で・・・」

何を俺は言ってるんだろうかと、史朗は内心半泣きになっていた。本当に初心者なのか、疑わしいこの余裕に戸惑う。

「ほんと?口使わなかった?でダメか、良くない?歯が当たって痛い?」

顔から火が出るほど恥ずかしくなって、穴があったら入りたい気分だった。

「いいえ、あの、いいです。続けてください・・・」

天然は相変わらずだった。初心者だとバカにしてのが間違いだった事に気づく。初めての時も

酔っ払った状態の和真にイかされたのだ。素面なら、どれだけの破壊力を持つかわからない。

「あっ・・・もう・・・」

耐え切れずに和真の肩を押したが間に合わず、和真の口内で達してしまった。

「すみません、て、飲まないでくださいよ!」

部屋の隅にあった箱ティッシュから一枚取り出して口を拭いている和真に、史朗はガバッと起き上がり叫んだ。

「なんで?俺なんか間違ったかな、甲斐はこういうことしないのか」

そう言われると何も言えない。そう、史朗には慣れた事で、驚いたり取り乱したりする事でも無かったのだが・・・

「しましたけど・・・いえ、もっとアレな、色々」

が、和真がなんの抵抗もなく、こんなことをする事が驚きなのだ。

「男同士でどういうことするのかは学ばなかったけど、男女間でどうするかという手順は、結婚する際に書物で

一応学んだ。その応用で女のスタンスに立って実践してみたんだが?」

和真にとっては性行為も学問なのだ。しかし、文字で学んだ事を、こうも器用に実現させるとは、IQが高いのは

伊達ではないようだ。しかも、あまりに純粋に捉え、やましさも、後ろめたさもないところがかえって神々しい。

「で、挿入する時は、俺はどちらのスタンスに立てばいい?そういうのは役割が決まっているのか?やるたびに変わるのか?」

どうしても知識が先に来るらしい、がそう言われれば史郎も今まで考えても見なかった事である。

「決まりはないんじゃないでしょうか・・・まあ普通は、その人その人の属性があると思いますが」

甲斐の時もそうだった、甲斐は受けだったが史朗に対しては攻めのスタンスを取っていた、そう考えれば

なんとも言えなくなる。

「とりあえず・・・和真さんのそれを楽にしましょうか」

史朗は立ち上がって、和真のところに行くと、その手を引いてベッドに座らせて、自らはその足元にかがみ込んだ。

何がなんだかわからないまま、なすがままの和真の目の前で、史朗の背中が蠢いている。自分の体の一部分が

史朗の舌に絡められつつ、口内に侵食されてゆき、そこから全身に広がる鋭い感覚に硬直した。

「ああっ、ちょっ・・・」

先ほどと立場が逆になって和真は戸惑う。そして、これは我知らずこういう拒絶反応をしてしまうのもなのだと理解した。

嫌悪感や不快感で拒絶するのではない、気持ちよすぎて、自分を見失いそうで恐ろしくて拒絶するのだ。

「え?ダメですか?嫌ですか?辞めます?」

解っていてそんな事を訊いてくる史朗に、和真はやられたと思う、さっきの仕返しだ。

「つーか、思い出した。前も俺、こういう事をされたんだ・・・で・・・お前が乗っかってきた」

「よく思い出しましたね。あの時は、かなり久しぶりで挿入るのに、かなり苦労しましたけど、それでもかなり満たされて

幸せでした。襲っちゃったという罪悪感もありましたけど」

そう言い終わると再び、先ほどの作業を再開した。今なら和真は、あの時の事を鮮明に思い出せる。舌が絡みつく暖かい

湿った口内の感覚と、熱く締め付けられるような史朗の体内の感覚・・・思い出しただけで耐えられず、史朗の口の中で達した。

放たれた口内の体液を、無理なく史朗は飲み込んだ。

「お前こそ、飲んでるだろ?」

飲むなと言っておきながら、自分は飲んでいる史朗を和真は指摘する。

「私のは訓練の賜物です。最初はむせてましたから、それどころか、思いっきり喉の奥にくわえ込んで嘔吐しかけるとかしてて・・・

そんなこんなで、和真さんの事心配したんです。なんでそんなに最初からスムーズに何でもこなすんですか?」

そうか、俺は器用なのか・・・和真は自信を得た。比べて史朗が見かけによらず初心なので笑いがこみ上げてきた。

「何、その笑いは!変に余裕こいてますよね・・・」

こいつ可愛い・・・普段は絶対見せない可愛さに、和真は惚れ直したりした。史朗の魅力はおそらくこのギャップかと思えた。

酔っ払って記憶がないのは、とても惜しい事をしたものだと、和真は今になって後悔する。しかし酔ってなければ、こんな事故も

起こらなかっただろう。

ふーため息をついて、和真はベッドに上半身を倒して倒れ込んだ。やっと、記憶を取り戻してスッキリした。

「で、これなんだ?菊川が置いてったみたいなんだが」

史朗の目の前に、プラスチックのボトルをかざす。

「そんなもの、どこにあったんですか」

ーよかったらお使いください、ご健闘をお祈りします  菊川ー そんな貼り紙がしてある。

「テーブルの上。箱ティシュの横、ホテルの備品じゃないよな」

ますますこれは玲二の罠だった事を確信する史朗は、溜息とともに和真からボトルを受け取る。

「これ、菊川の罠ですよ。私たちが今こんな事になってるのは、菊川の仕組んだ事です」

「なんで菊川が?」

史朗は観念したように、和真の上に覆いかぶさり、和真を抱きしめた。

「菊川は私に言いました、社長の事が好きなら、さっさと関係持てと。何故かって?それが貴方のお兄様の思惑だからです。

これで私は、公私ともに貴方から離れられなくなる。そのためです」

そんな事をしなくても、史朗は和真に忠誠を誓うつもりでいたのに。そして、そうしているうちに、どの道、いつかはこうなっていたのだから。

「ほんと?もう、史朗は俺から離れられないのか?」

脇から後ろにまわされた和真の手が、史朗の背中を撫でた。改めてそんな事を訊かれると、史朗は肯定するのが悔しくなる。あの夜から

すでに忘れられなくなっているのだから、それは間違いでは無いはずだが。

「さあ、どうでしょうね」

史朗はとぼけてみる。あっさり肯定するのが悔しいのだ。

「で、そのボトルは何なんだ?」

無性に玲二の置き土産が気になる和真に、答えず、史朗はボトルの中の液体を手に取り、和真の下腹部に塗りつけた。ぬるっとした滑りと

史朗の手の感覚に、びくりと上体を反り返らせ、史朗を見る。

「潤滑ローションですよ。滑りを良くして、スムーズに挿入するための。確かにあると助かります、この前はかなり苦労したんで」

史朗の手に包まれて擦られると、先ほど放出しておとなしくなった部分が再び熱を帯びて、頭をもたげてくる。ただ手で擦られるのとも

咥えられるのとも、また違う不思議な感覚である。

「やはり、若いですよね、回復が早い」

そう言って上体を起こして、和真の上に馬乗りになった史朗は再び、ボトルの液体を手にとると、今度は自らに塗りこむ。そして少し腰を上げて

狙いを定めると史朗はゆっくりと腰を下ろした。徐々に自分の身体が侵食されてゆく様を、和真は身じろぎもせずに見つめた。この前は酔って

朦朧としていたので、よくわからなかったが史朗の伏し目がちな翳りのある表情に神々しさを感じる。和真の全身が史朗に包み込まれているような

安堵感と、幸福感・・・しかしその後には、強烈な刺激が襲ってきた。前かがみに両手をついた史朗が動き始めたのだ。ゆっくりとではあるが

その度に、ぞわぞわと背筋に押し寄せる感覚に和真は息が詰まる。

「っあっ・・・」

「痛いですか?摩擦は無いようですが」

滑りは良くしてあるので史朗も、この前よりは動きに加減はしていない。

「痛くないけど、辛い」

ああ、と顔を上げて、史朗は右手で和真の頬を撫でた。

「動いてください。じっとしてると辛いかも・・・」

どうやって動くのだろうかと和真が悩んでいると、史朗は構わずに徐々に動く速度を速める。だんだん余裕が無くなってきた和真は、無意識に

腰が蠢いた。陸に挙げられた魚のようにびくりと史朗の上体が反り返り、肉壁に和真のモノが擦れて声が漏れた。耐え切れずに和真は

史朗の腰を抱えて突き上げる。安堵感や幸福感よりも、熱病のような熱と、押し寄せる感覚に翻弄されて、我を無くして夢中になり、気がつけば

波打ち際に打ち上げられた難破船のような状態だった。

気がつくと、史朗は和真の横に横たわっていた。

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