囚われの身

 

 私の記憶の鎖は過去を明かしはじめた・・・・・・・

あの日、九条のおじ様が雅彦様を連れて家に来た。

私が16になったので、息子との縁談を進めたいというのだ。

父はすでに他界していたが遺書が残されていて、私が5歳の時に7歳の雅彦様との縁談が決められていた。

九条家とは家族ぐるみの付き合いで、雅彦様とは知らない仲ではなかった。

それから私達は、急速に親しくなっていった。

思えばあの頃からだった・・・・

雅彦様を弟のように可愛がっていたお兄様が、だんだん冷たい態度をとるようになったのは。

「隼人様が私を遠ざけておられるようなのですが、静瑠さんお心当たりはないですか?」

雅彦様も心配して、私に訊いてこられた。

当時の私には心当たりは無かった。

しばらくして九条の家に圧力をかけて、お兄様は破談にした・・・

それでも、私と雅彦様は逢い続けていた・・・・それを知ったお兄様は私を部屋に監禁した。

表向きは心の病・・・うつ病による対人恐怖症のため引きこもったことになっていた・・

お兄様の目を盗んで、何度か雅彦様と電話や手紙で連絡を取ったけれど、それも見つかり駄目になった。

納得のいかないまま、私は囚われの身となった・・・

東條グループの若き総裁に逆らえるものはいない・・・

影で助けてくれる使用人達もいたが、見つかれば即解雇になった。

萩野も何度かお兄様を説得したが、聞く耳を待たなかった・・・

父亡き後、この家の主人に納まった彼は唯一の王であり神であった。

と言っても、この事が起こる以前の彼は何に対しても正々堂々としていた。

世間では有名なモラリストだった・・・

だから、なおさら信じがたかった・・彼があのような思いを私に抱いていたとは・・・・・

父を亡くして若干18歳でお兄様は東條の家を支えてきた、母と私を守り家を守りつつ。

母亡き後は、ただ一人の私の保護者として、私を父代わりとして育ててくれた・・・・

いつから私は彼にとって女になったのか?忌まわしい・・・呪わしい・・・

一時たりとも東條隼人の傍にいたくない。なのに私の身体は動かない・・・

彼のなすがままだ・・・・

このような屈辱があろうか・・・

今のところ、彼は私の衣服に手をかけることはなく、寝室も別であるが、いつ何時そのような事態に陥るか判らない。

その時、私にはもう自分の意思を示す事も、拒む事も出来ないのだ・・・

私の意志は、この動かない身体に閉じ込められてしまったのだ・・・

なぜ、助かってしまったのか?

なぜ、死ねなかったのか?

私はこのまま、永久に囚われていなければならないのか・・・

 

 

今夜も東條は、やってきた。

そして、いつものように私の横に座り私を抱き上げ、膝に座らせた。

「静瑠・・・」

私を呼び髪を撫でる手・・・見つめる瞳・・・総てに鳥肌が立つ。

私はお兄様を信じていたのに裏切られた・・・父とも慕っていたのに踏みにじられた。

哀しい・・・悔しい・・消えてなくなってしまいたかった。

「静瑠?!!」

驚いた東條の顔が見えた。何を驚いているのか・・・

見ると何かの雫が私の着物の膝を濡らしていた  ぽたりぽたりと・・・・

東條はハンカチを取り出し私の頬を拭っていた。

・・・・私は・・・涙を流していたのだ。

 

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